新たな壁
最初に完成した二隻の試験運用を二か月行った結果、思わぬ課題がいくつも浮かび上がった。
とりわけ深刻だったのは、空荷状態のときの挙動である。喫水が浅すぎて、わずかな横波でも船体が大きく揺さぶられ、不安定さを露呈した。
予想はしていたが、船底が揚陸艦のように平たいため、座礁による破損を恐れ、船底にフィンをつけるのをためらったのだ。
この対策として、海底に擦らず、桟橋にも干渉しないぎりぎりのサイドの位置に出っ張り少な目のフィンを取り付けて横波に備えるようにした。そしてバラスト水を調整するポンプの能力を強化。操船が格段に楽になった。
造船を行った区画は、そのまま専用の造船所として整備を進める。大型クレーンを据え、資材搬入路を広げ、いずれは乾ドック建設まで視野に入れている。だが当面は他の急務が山積しており、乾ドックは「将来の夢」として後回しにせざるを得ない。
並行して、施設間の資材輸送を担う蒸気機関トラックも完成した。試作車は、マイクロバスほどの大きさはあるが、ほとんどがエンジンに区画を取られている。よって荷台は小さく、積めるのはせいぜい2トン。それでも荷車を連結すれば鉄道のように最大10トンくらいは牽ける。路面が整備されれば、さらに大きな荷も引けそうだ。
このエンジンは造船用のエンジンを利用したもの。回転数よりも粘り強いトルクを重視したカム調整で、馬力は五百に達する。すでに量産態勢に入っており、在庫に余裕があるため、今後は派生型としてクレーン車やブルドーザーの開発も視野に入れている。
これらの周辺整備のおかげで、次の2隻は半年で建造できる予定だ。
一方で、本命とも言える「蒸気機関車」の完成は、いまだ遠い。
いっそレシプロではなく、21世紀の火力発電所で使われるような蒸気タービンに切り替えた方が効率も出力も格段に上がる…そう確信はしている。
だが現実にはタービンブレードの冶金が最大の壁として立ちはだかった。設計図面は未来の知識をもとに正しく描けている。だが、いくら図面が正しくても、それを支える金属技術が未熟なら、タービンの羽根の損耗が早く、すぐ使えなくなる。
また、今後の合金の性能向上にも、希少金属は必要になるのは明白だ。
「蒸気タービンの効率を上げるには、高温高圧に耐える合金、特にクロムやニッケルが不可欠なんだよな……」
クロムについては、わずかながら産出している地はあるものの、輸送に手間取る山奥の立地が多いため、現状では手が出せない。かといって輸入手段も現在はないため、ニッケルに頼るしかない。ニッケルについては、かすかな手がかりがある。AIによると、京都の大江山では含有量は非常に低いものの、鉱脈として存在はしているそうだ…ただし、精錬するにはコストが合わないと。
太平洋戦争の頃に応急的に採掘が試みられたこともあったという史実も、記録には残っている。
当然この時代では、存在すら知られていない鉱石だ。
海岸線から12キロという絶妙な位置にあるため、やり方次第では採取が可能になるかもしれない。
「含有量が低い/精錬が難しい」ということは、「ゼロではない」と同義だ。
挑戦してみる価値はあると思った。
合金なくして小型高性能ボイラーは作れないし、高速船も作れない。
幸運にも、俺には強い味方「スマホ」がある。
gogoleMAPですでにシミュレーション済みだ。過去に人が手間暇かけて特定した鉱脈をワンプッシュで知れるチートさを再認識した。
その思いを胸に、翔馬は初めて外遊を決意する。




