鋼の息吹
八平親方は、分厚い掌を炉の前でこすりながら、翔馬の隣に立っていた。
「……おめえさんの考えたこのコークス炉と高炉、年甲斐もなく胸が騒いで仕方ねぇ。庄吉と話し合った。うちも、この鉄工所で働かせてもらいてぇ」
翔馬は思わず口元を緩めた。
「親方が加わってくださるなら、百人力どころじゃないですよ。以前述べたように、八平さんには親方をしてもらいたい。」
横で聞いていた庄吉が笑う。
「親父が夜も眠れねぇくらい熱くなってます。俺も手伝います。未来の鉄ってやつ、ぜひ一緒に形にしたいんです」
その言葉に、工房の仲間たちから歓声が上がった。
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こうして八平親方を中心に、鉄工所は急速に形を整えていった。
鋼を型に流し込み、ずっしりとしたインゴットに固める。その傍らで翔馬が設計図を広げ、圧延機、プレス機、旋盤といった未知の機械の構想を描いていく。
「こんな機械、ほんとに動くんですかい?」と八平親方が目を丸くする。
「動くさ。ひとつずつ作れば、数か月で町ごと変わる。俺たちはその一歩を踏み出したんだ」翔馬は自信たっぷりに答えた。
やがて、最初の旋盤が完成した。八平親方が鋼の棒を削りながら唸る。
「こりゃ……信じられねぇ精度だ。俺が手でやるよりずっと真っ直ぐじゃねぇか!」
庄吉が横で拍手する。
「親父の腕に勝つなんて、やっぱ未来館はすげぇな!」
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鉄の進歩は、思わぬ副産物も生んだ。
圧延機械により、透明な板ガラスが加工できるようになり、官舎の窓は木から二重の断熱ガラスへと変わった。冬の寒さにも関わらず、中は春のように暖かい。噂は瞬く間に広まり、将軍家にも献上されることとなる。
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だが翔馬は次の壁を見据えていた。
「鋼の性能は上がったが、まだ足りない。…リベットだ」
今までは鍛冶屋の八平の技術で、質の悪い鉄を焼いて接着していたが、鋼ともなると多少の温度では溶けやしない。
小さな高温炉を加工場に作り、リベットが光を発するまで熱し、鋼板の穴に通して凹面の工具を両サイドから当てて金槌で叩く。
ビスで留める感覚ではなく、リベット自体を溶かして鋼板同士を癒着させるのだ。
これにより、接合面強度が格段に上がる。
こうして接合技術が確立し、蒸気機関を載せた小型クレーンや、時速四十キロで走る車までもが現実味を帯びていった。




