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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
江戸、成り上がりの章

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19/82

宿舎にとりかかる

宝永2年(1705年)4月中旬


蒸気機関丸鋸の試運転から三日。


翔馬は、刃の跳ね返りや巻き込み事故の危険性を洗い出し、負傷防止の細工を繰り返した。


「よし、このボイラーなら十分使える。これなら次の段階に進めるな。」

 そう決断し、追加製作を依頼すべく鍛冶屋へ向かった。


店内は鉄と煤の匂いがむっと立ちこめ、炉の赤い炎が息づいている。迎えたのは、四十手前のいかにも職人気質な親父さん。眉間に深い皺を刻み、腕を組んでこちらを睨むように見た。最初会った時は、直感的にちょっと苦手なタイプだなぁと思ったが、実際は単に仕事に厳しいだけの信用できる職人だということはわかっている。


一方で、その隣には高校生か中学生くらいの若者。息子のようだ。炉の火を見ながらも、こちらを好奇心に満ちた眼でじろじろ見ている。


「……で、何に使うんですか?コレ…」

若者は堪えきれず口を開いた。


「こら!」

親父さんが怒鳴る。


「幕府の仕事を詮索するなといつも言ってるだろうが!」

あちゃー、怒られちゃったな。でもまあ、興味持ってくれるのはありがたい。


翔馬は慌てて笑顔を作り、手を振った。

「いやいや、いいんです。むしろ世間に知ってもらいたい仕事なんですよ。ただ、言葉で説明するより実物を見てもらう方が早いですね。次はまだ準備できてないかな。次の次の納品の時にでも、江戸川にお越しください。面白いものをお見せできます」


若者は鼻をすすりながら、はにかんで頭を下げた。

「俺、庄吉っていいます。……ぜひ、行かせてください!」


…庄吉、か。好奇心の塊って感じだな。うん、こういう眼差しは好きだ。

翔馬は追加で十基分の注文を済ませ、そのうち一基はとある別の用途に使うつもりで心の中に秘めておいた。

…さて、これで次の手も打てる。楽しみになってきたぞ。


ーーー


二週間後。工場建物は柱と屋根が既に完成し、壁はまだないものの、内部には丸鋸で切り出した材木が山のように積まれていた。


届いた新しいボイラーは丸太をかつら剥きに変える機械へと転用され、薄板が次々と削り出される。


職人たちは米糊で貼り合わせ、圧着し、寸法を整えた。現場は合板…現代で言うコンパネの山で埋め尽くされていた。

おがくずだってゴミじゃない。全部袋に詰めて断熱材にする。何ひとつ無駄にしない。


いずれ建つのは宿舎だ。今は従業員も幹部も往復六時間歩いて通っている。もちろん翔馬自身も例外ではない。近場の人でも、1時間はかかるだろう。

今は季節がら日が高いので、午後4時くらいに撤収に入るのだが、冬になると帰りの時間も考慮して午後2時半、3時くらいまでには業務を終了しないといけなくなる。街灯も照明もない夜道は歩かせられないから。非効率そのものだ。


歩くだけで一日の気力が吸い取られるんだよな。ほんと「歩くのキツイ」。


宿舎の設計に関しては、ほぼ俺の意向が反映されている。というか、異論は認めない。

21世紀の快適な住環境を基準に設計させてもらった。


宿舎の概要は二階建てのツーバイフォー長屋。職人棟は縦長六畳の部屋を1階に25室、2階も合わせて計50室。火の使用は禁止。両端には大小を分けた共同便所…まるで21世紀の公衆トイレのような造りだ。


階段は、両サイドのトイレ部分と真ん中、3か所作る。出入りもこの3か所に玄関を作る。なんとなく、学校の校舎をイメージしたようなワンルームアパートだ。


一方の幹部棟は十二畳の部屋を12室。翔馬や高野、吉村、岡部の専用の部屋にし、空いた部分は来客用と未来の幹部に用意しとく。下階には事務室や応接室、資料室を配置。


幹部棟と職人棟の間には、屋根付き渡り廊下があり、中間には大浴場と社員食堂を作る。

今のスタッフは30人弱なので問題はないだろうが、混雑するようなら、班分けして風呂と食事の時間を分散させるつもりだ。


食堂では、江戸時代には恐らく見たことも聞いたこともないような学食スタイルで食事を提供しようと思う。もちセルフサービスで。酒は食堂含む公共の場所では禁止。各自部屋で飲むようにする。


ーーー


本音を言えば作業効率の点で現場にあたる職人たちの住まいから建てたい翔馬だったが、高野は譲らなかった。


「まずは幹部棟だ。幕府の査察を呼ぶにも、それが形にならんことには話にならん」


 ――ぐぬぬ、もっともだ。ここで意地張っても仕方ないな。


翔馬はしぶしぶ頷き、帰りに老中・秋元の屋敷を訪ねた。幕府内で、秋元氏の庇護の元にいるため、逐一事業経過を報告するのは半ば義務でもある。


門前で名を告げると、秋元本人が庭から駆け出してきた。


「おお、翔馬どの! 事業はどうじゃ? 毎日気になって仕方なかった。そろそろ来ると思っておったぞ」


 (…まるで孫を待ってた爺さんみたいだな。でも、こういう人柄だから信頼されるんだろう。)


泥だらけの姿を見て、秋元は笑った。

「まるで職人ではないか!」


翔馬は肩をすくめつつ、明日からようやく官舎建設に入ると告げた。


「建物は幕府が建てるのではなかったのか?」


「いいえ。まっさらな原野でしたよ。発明でこの地を変えよ…それが綱吉公の願いだと解釈しておりますので。むしろ、その方が面白い試作がたくさんできますので…」


秋元は何度もうなずき、最後に言った。

「ならば明日、わしもそちらに行こう。予定はないし、ぜひ様子を見てみたい。お主の面倒を見るのもわしの仕事だし、お上にも報告せねばならないしな。」


「いやいや、まだお見せできるような段階じゃ……」


「途中経過こそが肝心なのじゃ」


うわぁ……これは絶対に来るやつだな。現場、大忙しになるのに。まぁいい、ここで逃げるより

受け入れた方がマシか。


翔馬は観念し、「多分まともにお構いできませんが」と前置きした上で、秋元を迎えることにした。

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