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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
江戸、成り上がりの章

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地固まれり

浜田勝之助は、きれいに髭を剃り、髪を整えてすっきりとした身なりで屋敷に現れた。

昨日まで荒武者めいた雰囲気だったのが、別人なほど柔和に見える。恐らくこれが本来の姿なのだろうと思った。


翔馬に深々と礼をすると、「これより木更津へ戻り、妻子を迎えにまいります」と告げる。凛とした声には、家族を想う確かな決意があった。翔馬はそれを見送り、凛々しい背中を眺めながら、「彼はもう大丈夫だろう…」と確信を得た。


次に訪れたのは岡部が紹介してくれた番頭だった。

名は藤川勘兵衛。年の頃は60過ぎの老人ではあるが、背筋は真っ直ぐ、目は澄んでいる。白髪混じりの頭に皺だらけの顔、それでいて堅苦しさはなく、むしろ柔和さを漂わせていた。口調こそ穏やかだが、ひとことひとことが実に的確で、長年の経験からくる重みがあった。


「拙者、年甲斐もなく新しいことを好む性分でしてな。お役に立てれば幸いにござる」


そう笑うと、翔馬は思わず「これだ」と膝を打つ思いだった。


「お互い気が合いそうですな。藤川殿、よろしくお願いします。」


小者役(世話係)には金之助を任せた。本人は照れ臭そうにしていたが、元来が世話好きな性分であり、何より翔馬とは信頼と血で繋がっている。昼間は鈴と共に屋敷に詰め、掃除や買い物を担う。鈴は女中として働き始め、慣れないながらも雑巾片手に楽しげに立ち回っていた。


ひとしきりの歓談の後、翔馬はふと「人に会ってから江戸川の工事現場を見に行ってくる」と言い出した。驚いたのは番頭の勘兵衛だ。


「まさか、歩いて行かれるので?」


「ええ、毎日往復六時間歩いてますよ。正直、時間がもったいないんです」


翔馬は苦笑いを浮かべる。

勘兵衛は呆れ顔で首を振った。


「それほどの御役目を帯びたお方が、徒歩で行き来するなど聞いたこともない。馬にお乗りなされませ。立派な公務とあらば、いかようにもお上は許されましょうに」


馬の話に、翔馬はふと眉をひそめた。


江戸の街で気軽に馬に乗るのは御法度だ。将軍や大名行列に随行する武士以外は、基本的に許されていない。しかも町中で見かける馬は想像より小柄で、どちらかといえば頑丈なポニーの類。自分の体格を思えば、気の毒で、あえて遠ざけていたのだ。


「そうですね…では、もし申請するなら鉄の馬で頼みますよ」


冗談めかしたつもりが、勘兵衛は「?」と頭に疑問符を浮かべるばかりだった。翔馬は笑って話を打ち切り、皆に「数日は戻らない」と告げて江戸川へと向かう。


ーーー


道中で、越後屋の当主 三井高平を訪ね、先日の着物のお礼を述べ、新型の機織り機を見てきた。

最初は慣れが必要だが、熟練した女性職人はすぐにコツを掴み、従来の倍以上の速さで織ることが可能になったと三井は大喜びしていた。

これを機に、三井に新しい商談の案を持ち込み、試作を作ってもらうことになった。


それとは別に、当時個人単位で小規模で行われていた養蚕について、より効果的な大規模養蚕工場と製糸工場の設立について、ふたりで未来の構想を練った。


三井は翔馬に恩義を感じており、定期的に意見交換しようという話になった。


…ええ、衣食住。「衣」に関しては、三井の助力は必要になってくるのははっきりしている。俺も全部を自分でやるつもりはない。できるところは、適材適所で任せるのが効率的である。


ーーー


早足で2時間ちょいで江戸川の工房に到着した。

荒川河口の入江に着けば、すでに丸太が何百本も浮かべられていた。高野の監督のもと、人足たちが綱を引き、大工たちが皮を剥ぎ、杭を打ち込み、石を並べる。基礎はおおかた整い、そこに組まれた木枠は工場の骨格を示していた。岡部が職人を手配し、翔馬の指示通りに進めてきた結果である。


「宿舎を早く建てねば。江戸に毎日帰るのが億劫でたまらん。」と焦る高野に、翔馬は諭す。


「いや、まだだ。まずは木材を加工する仕組みを整える。人の手の十倍は速く切り出せる機械を作るんだ。一気に建て上げるには、それが要る」


高野は目を丸くし、やがて「翔馬殿が言うならば間違いはありますまい」と大きくうなずいた。


その昼下がり、待ち望んでいた荷が船着き場に届いた。金属の匂いを放つ鉄の塊に、円筒形のボンベのようなもの。翔馬は少年のように目を輝かせ、荷を抱えて広場へと運び込む。部材の一部がかみ合わず、ハンマーで叩いて調整する姿は、まるで現場の職人そのものだった。


やがて夕刻、人足たちが帰り支度をする頃、翔馬は皆を呼び止めた。


「できあがったぞ!見ていてくれ」


木屑を火床に入れ、ボイラーを熱する。しばらくして弁をひねると、蒸気が唸りを上げ、丸鋸の刃が唸りをあげて回転を始めた。グイィーン、と耳をつんざく音と共に、丸太が容易く両断される。


「なんと…!」


「こりゃ化け物だ!」


大工たちは度肝を抜かれ、目を見張った。


「明日からはこれを使う。だが、怪我をするな。木がはねれば腕を飛ばすぞ」

翔馬の警告に、一瞬ぞっとして股間を押さえる者もいた。それでも皆の目は輝き、早く試したくて仕方がない様子だった。


こうして工場建設は、予想せぬ速度で動き出したのである…

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