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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
江戸、成り上がりの章

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いよいよ工房出陣

発明奉行の任を賜り、一日にしてただの町民から旗本へ。


正直なところ、あまりに急な出世で、自分でも実感が追いついていなかった。

見慣れた長屋に戻り、金之助と鈴を座らせて、まず報告をした。


「この度、将軍家より発明奉行を拝命し、それに伴い旗本へ取り立てられた」


二人はぽかんと口を開け、しばし言葉を失っていた。やがて金之助が頭をかき、

「お、お前さん、ついこないだまで無職だったのに……旗本、だと?」


鈴も「そんな夢みたいな話は聞いたこともないよ」と目を丸くしていた。


けれども、二人とも俺が未来から来た人間であることを知っている。だから、俺が「やりたいことの第一歩を踏み出したんだ」と言えば、素直に喜んでくれた。


「で、翔馬さん。今まで聞かなかったが、いきつく先は、どうしたいのかい?」と普段せわしくおっちょこちょいな印象の鈴が静かに尋ねる。


鋭い質問だ。俺は少し考えたが、やはり答えは曖昧にした。考えていることが壮大すぎて、恐らく理解がついてこないだろう。

「……ただ、皆が幸せで平和な世を築きたい。それだけさ」


長屋については、まだ武器や私物を隠してある。だから「しばらくは借りさせてくれ」と頭を下げると、二人とも快く承知してくれた。

帰り際、金之助が言う。


「旗本になったんならよぉ、まずは服装を新調することだな。帯刀もきちんと整えておけよ。いやちょっと待ってろ…」


そう言うと、金之助は奥の間に引っ込み、なにやらゴソゴソ。

両手で抱えて持ってきたのは太刀と脇刺。俺がよく見かける武士が身に着けるものよりも一回りデカく見える。


「金之助さん、これは何だい?」


「翔馬よ。これは天礎家に伝わる言い伝えなんだがな、わっしらの祖先は、昔、元の国が襲ってきた時に、見事な予測でそれを退けたという。敵が来る場所も全部見越して土塁を築かせたり武器を改良したり、実は一番の功労者と言われとったらしい。けどご先祖は恩賞を断ってな、いずれかの土地に失踪したそうな。この太刀は、そのご先祖が使っていたものらしい。ひと回りデカくて重い。これは、デカいお前さんが持つにふさわしいから使ってくれ。手入れはちゃんとやってたから心配すんな。」


反りが美しく、見た目に美しい刀剣だ。不思議と手に馴染む。これならば、箔がつくのは間違いないが、家宝を譲ってもらうことに関して躊躇がないわけではない。


「いいってことよ。これも運命だろうよ。この刀もお前さんに使ってもらって嬉しいに違いねぇ。お前さんも天礎の血を引く者だからな。」


全く…施しをもらってばかりだ。恩返しをしたいが断られる。何らかの形でご恩を返せるように再度心に決めた。


ーーー


翌朝、長屋に幕府の使いがやってきた。

こんなボロい長屋にまたしても武士がやってきて、今度は寝起き姿の翔馬に敬語で頭を下げている。

気づいた長屋の住民は、また戸をちょっとだけ開けて様子を窺っている。


そんな様子はお構いなしに俺はさっと身支度を整え、一緒に出掛けた。

案内されたのは、お茶の水の旗本街にある旗本屋敷。門構えや応接の間は立派だが、住居部分は質素なつくり…そしてデカい。いかにも武家屋敷らしい。


ただ、浦安に近い江戸川の工房予定地までは三里半、つまり十四キロほどある。毎日歩いて通うのはさすがに骨が折れる。


面倒だなぁと思ったので、

「これはわたくしには過ぎたるものです。返上を……」と案内役の武士に申し出たが、軽く一蹴された。


「単なる住居ではござらぬ。幕府の要人が集う街に旗本屋敷を構えることは、誉れであり義務。これを辞退するは、かえって無礼にござるぞ」


苦笑するしかなかった。

仲間の岡部、高野、吉村も上級武士に引き上げられ、新しい住居をあてがわれたが、彼らは家族持ちなので、広くなった家に大喜びしたそうな。


翌日、その仲間を伴い、いよいよ江戸川の土地を見に行った。


道中はちゃんと街道が整備され、ところどころ集落もあるが、なにしろ遠い。

自衛隊で鍛えられてる俺にはどうってことない距離だが、普段文官職をやっている仲間にとってはかなりの苦労のようだ。


荒川の橋を渡り、そこで案内の武士があそこからあそこまでが敷地だ…と遠目に知らせてくれた。


目の前に広がる四十万坪… 数字ではわかっていたつもりだったが、現地に立つとその広さに圧倒される。

 

荒川沿いに南北1キロ、東西海沿いに1.2キロ。松林の合間に農地が点在し、遠くには海が広がる。既に農民の移転交渉は幕府が済ませてくれているという。

 

四人で何もない原っぱに輪になって座り語り合った。この何もない原野でまずは何をすべきか。


幸い、初年度の予算として三千両(4億円ほど)が下りている。ただし勘定方が帯同し、使途を逐一帳簿に記すという制約付き。だが、資金は十分だ。

 

幕府からの最優先命令は、米作に役立つ農具を年度内に製品化すること。それを念頭に置き、俺は計画を整理した。


一、木材集荷場

まずは荒川河口に木材の係留所を設ける。土手を削り、池を作って原料の丸太を引きこめるようにする。


二、木材加工所

次に加工場。火災の類焼を防ぐため建物間にゆとりをとる。第一段階では二千平方メートルほどの柱と板屋根だけの簡素な農具工房を建てる。ちょっとしたホームセンターくらいの大きさ。早く商品化に取り掛かることが大事だ。軌道に乗れば建物を増やしていけばいい。


三、住居

職人や人足を呼ぶには宿泊施設が必須だ。江戸から往復6時間も歩いて通わせるのは現実的ではない。俺も普段はここを根城にしたい。


四、鉄道

敷地内輸送のため、木材や鉱石を運ぶ簡易線路を敷きたい。本格的に整うまでは馬に引かせるトロッコで。いずれは蒸気機関車の試作にも挑みたい。


五、教育機関

これはまだ先だが、いずれ各藩の文官や知識人を集めて教育する学校を作る。技術を日本各地に広めるために不可欠だ。だが、まずは商品を揃えることが先決だ。


肝心の鉄については課題が山積みだ。今は街の鍛冶屋で粗悪な鉄を打っもらっている程度で、到底満足できるものではない。だが、加工道具すら未発達な現状では難易度が高いことも承知している。いずれは必ず突破口を見つけねばならない。


俺は三人の顔を見回し、心に誓った。

「ここからが本当の始まりだ。やるべきことは山ほどある。だが…順を追って一歩ずつやらねばならない。」


岡部には職人や人足の手配を、高野には土木工事監督としての知識の共有と幕府間の調整を。吉村には、木材や資材の手配をお願いした。

俺は、まずは越後屋に出向いて着物を買わないと。さすがに町民の恰好では示しがつかない。


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