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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
徳川家宣政権…翔馬、伸び伸びとやりたい放題する

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110/110

将軍家宣 モシリ視察へ向かう

樺太から戻った翔馬は、休む間もなく苫小牧へ急いだ。

家宣を迎えるまで、残された時間はわずか一月。無線で副長官の水野には知らせておいたため、苫小牧随一の高級ホテル「モシリノミ(豊かな大地)旅館」はすでに丸ごと貸し切ってある。


将軍一家のための迎賓車両、護衛車列、視察ルート、宿泊設備、料理の献立。

さらには、奥方と幼い家継が楽しめるようにと数々のアクティビティの準備も進めた。

息をつく暇さえない。

だが、これこそが「日本を近代へ導く」本番だ。


将軍の息子、家継はまだ四歳。生まれつき体も弱い。医療班にも緊急体制を取らせ、インフルが流行りかけている江戸の渡航者には特に警戒を徹底した。ラジオでも連日注意を呼びかけ、渡航者には、関所での診察と三日の隔離を義務付けた。

 ……まるでコロナ禍のような措置だが、背に腹は代えられない。


江戸に戻り、礼服に着替える。鏡に映る自分はやけに気が引き締まって見えた。将軍を迎えに城へ向かうと、家宣一家はすでに支度を済ませていた。


将軍お付きの者十二名、護衛十名、奥方に家継も加わった総勢二十五名。


迎賓車両に家宣一家を乗せ、お付きは護衛車に分乗させ、そのまま未来館へ向けて走り出す。

「家宣さま、遠出は久しぶりではありませんか?」

ハンドルを握る翔馬は、ルームミラー越しに問いかけた。


「うむ……こうして家族で外に出るなど、何年ぶりであろうか。家継が生まれてから、ほとんど記憶がない。本当に、お主には世話になってばかりじゃ」


「家継さま、お久しぶりです。お兄さんのこと覚えてますか?」


「おいちゃちゃん(お医者さん)の、お兄さんだよ」

奥方が穏やかに笑い、家継もふにゃっと笑う。


この子は体が弱く、去年も夜中に高熱を出して将軍から緊急の無線が入り、俺が駆けつけたことがある。症状から手足口病と判断し、解熱剤と栄養補給で乗り切ったあの夜以来、奥方の信頼は絶大だ。


未来館の脇に停泊する迎賓船に車ごと乗り込むと、家宣一家は目を丸くした。サイドの巨大な開放扉からそのまま船に乗る構造は、江戸時代の常識では到底考えられない。


「この船……なんと豪奢な……!藩の者はこのような贅沢な船を使っておるのか!」

そうだ。参勤交代の足として大人気なこの船は、その分、対価として法外な運賃を設定している。


ロビーには、天井のガラスシャンデリアが光を散らし、柔らかなオルゴールの調べが流れている。

お付きの者たちは一様に声をあげ、奥方も家継もきょろきょろと高いロビーを見上げていた。


「モシリまでは一日の航海です。明日の夕暮れ時には到着します。それぞれ個室をご用意していますので、ゆっくりお休みください。大浴場もございます。もし小腹が空いたら、食堂にラーメンをご用意しておりますので、どうぞ」


「らーめん……?」

不思議そうな声があがる。しかし、

 …その三十分後、将軍も奥方もお付きも、皆そろってラーメンをすすっていた。


「これは……なんという旨さだ! うどんの類か? いや、違う……!」

「ちゅるちゅる、おいしい……」

家継の小さなお椀はあっという間に空になった。

「ラーメンといいます。今度、駅前に建設中の“三天百貨店”にも出店しますので、ぜひご贔屓に」

「うむ。家老連中にも勧めておこう」


(これで、家宣さま御用達!の立て看板作ってやろう…)


その後、大浴場でも彼らは度肝を抜かれ、個室のベッドにも驚かされ、見るものすべてに感動していた。


静かになったロビーに座り、酒を楽しむふたり。

「のう、翔馬どの。わしは船が嫌いだったのじゃが、こういう船旅もよいもんじゃな。

 仕事の話になるが、お主が国軍を作り、廃藩して国を統一すると言っておったじゃろ?

 そんな時代が来れば、こうやって家族でのんびり船旅をしながら、国中の観光地を巡る旅行もできるのではないか?そんな世界を想像すると、わしは年甲斐もなく心が躍るのじゃ。」


「ええ、私もそんな世界を常に夢見ております。目指すのは、そんな平和な世界です。」


船は漆黒の太平洋を静かに北上する。

ここ数か月、命のやり取りばかり続いたせいで常に緊張していたが、将軍一家の穏やかな時間に触れていると、不思議と心がやわらいだ。


波の音や振動、遠くで響くオルゴールが心地良い。

こんなに深く眠れたのは、いつ以来だろう。

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