番外編 光の岸辺で
春の海は、今日も穏やかだった。
港町に、柔らかな潮風が戻ってくる。
桜の木の下で、翠は釣り道具を片づけながら、海の方を眺めた。
あの灯台は、今も変わらず白い光を放っている。
「やっぱり、この季節が一番好きだな」
背後から聞こえた声に、翠は振り向いた。
修平がギターケースを肩に、穏やかな笑みを浮かべていた。
「相変わらず、旅の帰り?」
「ああ。全国の小さな港をまわって歌ってきた。
けど、やっぱりここが一番落ち着く」
修平は腰を下ろし、海を見た。
「音楽祭、今年で五年目か」
「そうだな。お前が言い出した時は無理だと思ってたけどな」
翠が笑うと、修平も肩をすくめた。
「お互い、潮風に鍛えられたな」
――――――――
そのとき、丘の方から声がした。
「翠さーん!修平さーん!」
駆け下りてきたのは、真帆と翔太だった。
真帆の腕には小さな花束。
翔太は手に観測ノートを持っている。
「今日は志乃さんの命日だから、灯台に花を供えてきたの」
「そっか。あの桜ももう立派になったな」
翠が目を細めると、真帆は微笑んだ。
「ええ。志乃さん、ちゃんと町を見てる気がする」
翔太がノートを広げる。
「海の透明度も年々上がってきてます。
研究チームの子たちも、“潮風の町”って呼んでるんですよ」
「いい名前だな」
修平がつぶやいた。
「町の歌もそうだろ?“潮風のあとで”」
「そうだね。今もラジオで流れてるよ」
真帆の言葉に、修平は少し照れたように笑った。
――――――――
少し風が強くなり、波が桟橋を打つ。
修平はギターを取り出し、弦を爪弾いた。
音が潮騒と重なり、春の空気の中でやさしく響く。
翠が言う。
「この音、あの時と変わらないな」
「いや、少しは変わったさ。
人が増えて、町が笑って、俺たちも年を取った」
真帆が小さく頷く。
「でも、志乃さんの灯台がある限り、何も失われない気がします」
「そう思うよ」
翔太が空を見上げた。
灯台の白い光が、青空の中でかすかにきらめいていた。
――――――――
港の向こうでは、祭りの準備が始まっていた。
子どもたちが紙灯籠を並べ、老人たちが屋台を立てている。
潮風がその音を運んでくる。
「なあ、修平」
「ん?」
「今年の音楽祭、最初の曲はあれだろ?」
「もちろん。“潮風のあとで”。
でも、最後に新しい曲を歌おうと思ってる」
「新しい曲?」
「ああ、“光の岸辺で”っていうんだ。
この町で生きて、笑って、また誰かに出会って――
そんな歌を作った」
修平の声が穏やかに続く。
「潮風の“あと”の、その先を歌いたいんだ」
翠は静かに笑い、海に目を向けた。
波のきらめきの中で、志乃の桜が遠くに揺れている。
――――――――
夕暮れ。
祭りの音楽が港に響き始めた。
修平のギターの音、子どもたちの笑い声、屋台の匂い――
それらがすべて混ざり合って、町全体がひとつの歌になっていた。
真帆と翔太は灯台の前で、また小さなブーケを流した。
花は波に乗り、ゆっくりと沖へと消えていく。
灯台の光が、それを追うように照らしていた。
修平の歌声が遠くから届く。
> “潮風のあとで 僕らは歩き出す
> 光の岸辺で また君に会える”
翠は胸の奥が温かくなるのを感じた。
海が、また何かを返してくれる――
そう信じられる夜だった。
――――――――
夜が更け、灯台が静かに光を放ち続ける。
潮風が通り過ぎたあとに残るのは、
確かにそこに生きてきた人たちの、優しい気配。
――潮風のあとで、人はまた笑う。
それが、この町の変わらない約束だった。
新しいお話考えた結果番外編が出来ちゃいました。今度こそ新しいお話書くように頑張ります。
あとまたまた友が歌詞考えてくれてるんですよ。なので載せておくんてすが、良い曲ですね。音楽が欲しいです。
~『光の岸辺で』~
光の岸辺で 風がささやく
遠くの波も 僕らを呼ぶ
手を伸ばせば 届く未来
笑顔と希望を 胸に抱いて
海の声が 夜を染める
過ぎた日々も 潮に流して
誰かの想い そっと包み
この町と共に 歩いていく
光の岸辺で 僕らは出会う
失くした時間も また戻る
灯台の光 道を照らし
君と僕の歌は 海に溶ける
潮風に乗せ 夢を運ぼう
小さな手にも 大きな希望を
波間のブーケ 心に残し
光の岸辺で また笑い会う
潮風のあとで 僕らは歩き出す
光の岸辺で また君に会える




