ep5 潮風のあとで
朝の港町に、潮風が吹いていた。
桟橋には屋台の準備をする人たちの声、遠くでは子どもたちの笑い声。
今日は年に一度の「潮風祭」――
この町で初めて開かれる音楽祭の日だった。
主催者は、修平。
そして、彼を支えるのは幼なじみの翠。
「おい、スピーカーそっちもう少し上げろ!」
「はいはい、隊長!」
翠が笑いながらコードをつなぐと、修平が真剣な顔で音をチェックしている。
「信じられないよな。あのガラクタ倉庫から始まったんだぜ」
「ガラクタじゃない、歴史的遺産だ」
修平が言うと、翠は思わず吹き出した。
「まぁいいさ。お前が笑ってるの、久しぶりに見たからな」
修平は照れくさそうにギターを肩にかけた。
「今日は、ちゃんと笑えるような曲を作ったんだ」
――――――――
昼すぎ、海辺の特設ステージに人が集まっていく。
灯台を見上げる丘の上には、志乃の桜がそよいでいた。
花はまだ若いけれど、柔らかな風に揺れている。
ステージの前列に座っていたのは、真帆と翔太。
二人は観測ノートを膝に置き、どこか誇らしげな表情をしていた。
「海、きれいになったね」
「うん。潮の流れも穏やかだ」
翔太が笑うと、真帆は静かにうなずいた。
「志乃さん、今日の空を見てるかな」
「見てるよ。あの灯台の光、ちゃんとついてる」
丘の上の灯台が、昼の光の中でもうっすらと白く輝いていた。
――――――――
午後三時。
司会の声が響き、修平がステージに立った。
背後には翠、そして古道具屋の律子が控えている。
ギターとハーモニカ、そして潮風。
「みんな、今日はありがとう。
この町で生まれた音を、もう一度鳴らしたくて帰ってきました。
父さんの歌、そしてここにいる仲間たちの想いを込めて。
聴いてください――『潮風のあとで』」
静かなイントロが流れる。
翠の指がリズムを刻み、律子のハーモニカがそっと寄り添う。
> “潮の音が 君を包む
> 灯りは消えずに 胸の中で
> 手を伸ばせば まだ届く
> あの日の笑顔と 風の匂い”
観客の中から、ひとつ、またひとつ手拍子が起こる。
波の音と混ざり、町全体がひとつの大きな鼓動になった。
――――――――
曲の途中、修平は一瞬空を見上げた。
青く澄んだ空の下、灯台が白く光を放っている。
風が頬を撫で、どこかでハーモニカの音が重なった気がした。
志乃の声が、潮の音に溶けて聞こえる。
――「光を絶やすな」
修平は目を閉じ、最後のコードを鳴らした。
> “潮風のあとで 僕らは生きていく”
その音が静かに消えたとき、海鳥が一羽、光の中を舞い上がった。
――――――――
拍手が沸き起こった。
真帆は涙をこぼし、翔太は空を見上げていた。
翠はステージの隣で、そっと修平の肩を叩いた。
「いい曲だな」
「ありがとう。……お前が隣にいてくれたから、できた」
「また大げさなことを」
「いや、本当だよ」
二人は笑い合った。
――――――――
祭りの夜。
屋台の灯りが並び、子どもたちが波打ち際を走っていた。
真帆と翔太は、灯台の下に立っていた。
「ねぇ、翔太さん」
「ん?」
「また花を流したい。今度は、ありがとうのブーケ」
「いいね。海もきっと喜ぶ」
二人は小さな花束を海に流した。
波がそれをやさしく受け止め、遠くへ運んでいく。
その先に、音楽祭の光と人々の笑い声。
風が香りを運び、潮騒がそれに答えるように響いた。
――――――――
夜が深まるころ、灯台の光が一際強く瞬いた。
その光は、まるでこの町を見守るように海を照らしていた。
翠が港の端で呟いた。
「潮風のあとって、静かだけど……あったかいな」
修平は頷いた。
「うん。誰かの想いが、ちゃんと残ってる」
二人の背後で、波が小さく砕けた。
その音はまるで拍手のように、町中に響いていた。
――――――――
――潮風のあとで、人はまた歩き出す。
灯台の光がある限り、
この町の音は、決して消えることはない。
これで潮風の港は完結です。新しいお話書けるよう、考えてみます。
あと『潮風のあとに』の歌詞は友が続き作ってくれたんで、載せときます。この物語から歌詞考えられるってすごいっすよね。音楽がないのが惜しいくらいです。
~潮風のあとで~
潮の音が 君を包む
灯りは消えずに 胸の中で
手を伸ばせば まだ届く
あの日の笑顔と 風の匂い
潮風のあとで 僕らは生きて
波間に揺れる 想い抱いて
遠くの灯台 光を返す
君と僕の 記憶を繋ぐ
潮の声が 夢を運ぶ
君の笑顔も 僕に届く
どんな夜も 恐れずに
光の中で 歩いていく
潮風のあとで 僕らは歩き出す
まだ見ぬ未来を 胸に抱いて
灯台の光 海を照らし
僕らの歌は 潮風に溶ける
潮風のあとで 僕らは生きていく




