07 承諾
「いや、あの、本当に待ってくれ」
落ち着きを取り戻した愉愛は、奏音の手から入部届の切れ端を半ば強引に受け取る。
部活名、いや同好会名を確認しなければいけない。
「えっ、何これ」
『SCC』確かに部活名欄にはそう書かれていた。
「ちなみに僕が部長ね。君は副部長」
「自分は会計っす」
最悪だ。強引に入部させられた挙句、責任が伴う役職まで押し付けられている。
「勝手に役職を与えるな!……ってかいや、この『SCC』……?ってなんの略だ」
「『Strage Cleaning Club』の略だよ」
奏音は指で宙にスペルを書く。滑らかに筆記体で書いているのが少し愉愛の癪に障る。
「直訳したら『物置掃除同好会』じゃねぇか!」
「名付け親は僕だよ。気に入ってくれそうだと思ったんだよね」
奏音はなぜかちょっと得意げに照れ笑いする。
「日本語そのままよりはマシじゃないっすか。そのまま略したら『物掃』になってましたよ」
「ある意味ピッタリだろ。物騒」
「何故だろう。心当たりがないね」
「同じく」
二人は白々しい反応を返す。びっくりするほど棒読みで感情のこもっていない声だ。
あまりの展開に愉愛は驚き続けていたが、それ以前の問題に気づく。
「ていうか部活、じゃない同好会は作るのに届出が必要だろ!?それは!?」
「なんて説明すればいいんだろう」
奏音は少し悩ましげな顔をした後、マーカーを棚から取り出してホワイトボードに向かう。
「そもそも僕一人でこの秘密基地使うのはいくら何でも……って最初に先生に言われてたんだよね」
マーカーのキャップを外して文字を書き込み始める。
「その時に『部活動で使用する』っていう名目上の理由があれば大丈夫かなって思って、既に書類は用意していた。ついでに顧問の先生も話をつけてたんだ。」
「まあ人数足りなかったし、結局その時はこの方法は使わなかったけど」
「でもこの間の事件のせいで素行不良扱いされちゃってさ。ここが使えなくなるかもしれないって話が出てきたんだよね。それで正当な理由を改めて付けた方が良いかなってことで立ち上げたんだ」
ホワイトボードには話が分かりやすくなるように、文字列が書き込まれていた。
『・学校の一室を自由に使いたい
↓
・理由が必要
↓
・部活動で使用するということにすれば良い
↓
・人数足りない→別の方法を取った
↓
・事件発生→更に言い訳が必要
↓
・今度こそ同好会立ち上げ』
こっちを見て話しながら、並行して速く美しく真っ直ぐに字を書くことができる。羨ましいことだ。神はこいつに何物与えたのだろうか。それと字体から勝手に入部届に『月下愉愛』の字を書いたのは奏音であろうと愉愛は勘付いた。
「大体わかった。けど奏音はともかく叙まで加担しているのはどういうことだ!?」
「これから定期的に昼飯奢ってもらう約束したんで」
叙はあらぬ方向を見て口笛を吹く。
「クソ!金か!」
「それに部活に入るっていう密かな夢が叶うんすよ?断る理由なんてどこにあるんすか」
不思議そうに奏音が首を傾げる。
「ていうか、愉愛は何でそんなに入部を嫌がってんの?お前にはデメリットなんてないと思うんだけどな」
「何するかわかんないのにメリットもデメリットもないだろ!」
正論。
「確かに」
「ちゃんと説明してください、部長」
「じゃあ説明するね。活動内容はこの部屋を好きなように使うこと。以上」
あまりにも簡潔な内容に愉愛は動揺する。
「マジ?」
「一応書類上は倉庫の掃除とか書いてるけど、建前って大事だよね」
「…………」
愉愛は考えを巡らせるように目を瞑る。
「何か質問とかある?」
「……次から何かする時は副部長に確認しろ」
愉愛は入部を認めたようだ。
奏音と叙はその様子を茶化す。
「ちょろ〜い」
「ちょろすぎて心配っす〜」
「君らはおれにどうあって欲しいんだ」




