03 反旗
「な……なんだコイツ!?」
「ぎゃっははははははぁ!!」
叙は敵を蹂躙していく。先程とは比べ物にならない凄惨な光景を次々と作り出していく。
愉愛は奇襲に備え、叙から少し離れて辺りを警戒する。青い顔をしながら奏音もテイザーガンを構える。
「目、瞑っとけ。周りはおれが見とくから」
「めっちゃ感謝するよ。……なんかさっきより優しいね?」
「一言余計」
「これでっ終わりかあぁ!?」
叙は返り血を浴びながら叫ぶ。あっという間に片付けてしまった。
「残りは1階だけみたいっすー!」
少し離れた所にいる先輩達に現状を知らせる。
「急に落ち着くな」
「もう終わった……?」
「すまん白鼓、ちょっと待ってろ」
そう言って愉愛は叙の方へと走る。
「?……えっ、一人にしないで欲しいんだけど」
目を薄らと開けて、階段の方へ向かう。二人が来るまで、奏音は下から敵が来ないか見張ることにした。
「泉都河、手を出せ」
「えっなんで」
「なんでもだ」
叙は素直に両手を出す。手の甲は返り血に塗れているが、よく見ると所々皮が擦り剥けていることが分かる。
「やっぱり怪我してんじゃねえか……」
叙の手首を掴み、水道まで連れて行く。蛇口を捻る。血だらけの手を水と石鹸で洗ってやる。
「そこでのびてる奴らが何の病気持ってるか、とか考えなかったのか?返り血こんなについちまってんだから気をつけろよ……」
愉愛は叙の手をハンカチで拭く。血は落ちたが、今は傷をどうすることもできない。
「……」
「一階に下りたら、保健室で包帯巻け。それまで拳は使うな。ソレで傷を抑えとけ」
叙はハンカチを受け取る。可愛らしい羊の刺繍が入っているものだ。
「……月下先輩って、兄弟います?」
「妹が一人。そのハンカチも妹からもらったもんだ」
愉愛は楽しそうに答える。
「へぇー……。えっ、いいんすか」
「別に大丈夫って言うと思うぞ。あの子は優しいし、おれの唯一の、大切なk」
「がぎゃああぁぁーーっ!!!」
突如悲鳴が響き渡る。
「二人とも速く来てくれるかなーっ!?」
次いで奏音の叫び声が響き渡る。
「やっべぇ!あの人一人にしたらダメじゃないっすか!」
叙が真っ先に走る。愉愛はその後を追う。
奏音は向かってくる叙を見て危険を察知した。少し離れて敵から目を逸らす。
テイザーガンを撃たれて倒れている敵の顔面に、叙はハンカチで手を押さえたまま、容赦無く肘打ちを喰らわせた。ぐしゃりとした音が聞こえる。
「一切躊躇わないね……」
目を逸らしたままぽつりと呟く。
「なんか抑えられないんすよね。やっぱ白鼓先輩に、見ないように気をつけてもらうしかないみたいっす」
愉愛が二人に追いつく。
「怪我ないな?とりあえず下行くぞ」
「わかったよ」「りょっす」
三人は階段を下りる。
「誰もいない……?」
「気配ないっすねー。たぶん全員もうt」「あ!」
突然奏音が声を上げた。
「いきなりなんだよ」
「思い出した!」
「何を?」
「ここまで各階にあいつらは5人前後いたでしょ?」
「おう」「はい」
なんとなく思い出しながら答える。
「どう考えても侵入してきた人数より圧倒的に少ない。残りは少なくとも30人以上いるはず……」
「侵入してきた人数……?どこでそんな情報手に入れてんすか?」
「こいつ監視カメラ仕掛けてんだよ。学校全体に」
「は!?流石にヤバすぎ……」
叙は呆れた顔をする。テイザーガンを持っている所といい、正直まともな人だとは思えない。マッドサイエンティスト、叙が一番苦手とする人種だ。
「30人か……。しかも人質とられちまってるしな」
「もたもたしてたら何してくるかわからないよ?」
愉愛は少し考えるそぶりをする。
「……よっし!とりあえずお前ら二人は保健室行って、泉都河の応急処置してこい。」
「えっ!自分まだ全然闘えるんですけど……!」
叙は慌てて反論する。
「はーい。……大方、僕は足手纏いだから来るなってことだよね」
奏音は素直に従う。
「白鼓、こういうのはお前の専門外だろ。心配しなくても見せ場なんてすぐ来るぞ。あと泉都河、怪我は放置するな。どうしてもって言うんだったら、まず処置してから合流しに来い」
「見せ場ね……。残念だけど、僕のは色々ともう終わっちゃってそうだね」
「見せ場の話してる場合っすか!?いや、月下先輩一人で30人は無茶じゃないっすか!?」
「おれ一人じゃない」
笑いながら体育館の方を指差す。
「いるだろ?あそこに大勢の仲間が」
「本当に大丈夫っすかね……?」
「さあ?どうだろう」
誰もいない保健室で、奏音は包帯と絆創膏を探し出す。
「白鼓先輩は月下先輩と同じクラスなんすよね?どういう人とか……」
「いや本当にわかんない」
「即答!?」
座り込んでいる叙の手の傷の上に絆創膏を貼り、包帯を巻いてやる。
「僕、周りと全然関わってこなかったんだよね」
「えっ、やっぱコミュ障っすか?」
「死ぬほど失礼だね。間違ってないけど」
包帯の巻き方を少しキツくする。
「痛゛っ!大人げなっ!」
「でも、彼は友達が多かったと思うよ」
「正反対っすね」
包帯がまた少しキツくなる。
「痛い痛い痛いなんで!?」
「言葉には気をつけてね」
目が笑っていない笑顔でそう言われた。
「自分、酷いこと言ってないですよね!?」
やっぱりこの人は苦手だ。いつか人体実験を平気でやり出しそうな邪悪さを感じる。
「まあ、なんだろうね。なんか大丈夫な気になっちゃうんだよね」
「なんかよくわからないんすけど」
「月下君は、たぶん本人が思ってるより煽動とか、人の心を掴むのが上手なんじゃないかな。ちょっと練習すれば、カルト宗教の教祖とかできちゃうくらいには」
「???」
包帯を巻き終わる。
「終わりっすね。じゃあ、行ってきます」
「あー、待って」
奏音は急に叙を引き止める。
「僕も行くよ。たぶん必要だから」
「えっ、足手纏いなのに?」
「失礼だな。たぶんそろそろ見せ場だから、君も準備してね」
奏音はいつになく真剣な顔をする。
「伝えなきゃいけないことがもう一つあったんだ」




