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甘譚の喩愛  作者: 手嶋田 過完
私立四十九院大学附属高等学校襲撃事件

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3/8

03 反旗

「な……なんだコイツ!?」

「ぎゃっははははははぁ!!」

(のべる)は敵を蹂躙していく。先程とは比べ物にならない凄惨な光景を次々と作り出していく。


愉愛(ゆめ)は奇襲に備え、(のべる)から少し離れて辺りを警戒する。青い顔をしながら奏音(そうと)もテイザーガンを構える。

「目、瞑っとけ。周りはおれが見とくから」

「めっちゃ感謝するよ。……なんかさっきより優しいね?」

「一言余計」


「これでっ終わりかあぁ!?」

(のべる)は返り血を浴びながら叫ぶ。あっという間に片付けてしまった。

「残りは1階だけみたいっすー!」

少し離れた所にいる先輩達に現状を知らせる。

「急に落ち着くな」

「もう終わった……?」


「すまん白鼓(しろこ)、ちょっと待ってろ」

そう言って愉愛(ゆめ)(のべる)の方へと走る。

「?……えっ、一人にしないで欲しいんだけど」

目を薄らと開けて、階段の方へ向かう。二人が来るまで、奏音(そうと)は下から敵が来ないか見張ることにした。


泉都河(せんとがわ)、手を出せ」

「えっなんで」

「なんでもだ」

(のべる)は素直に両手を出す。手の甲は返り血に塗れているが、よく見ると所々皮が擦り剥けていることが分かる。

「やっぱり怪我してんじゃねえか……」

(のべる)の手首を掴み、水道まで連れて行く。蛇口を捻る。血だらけの手を水と石鹸で洗ってやる。

「そこでのびてる奴らが何の病気持ってるか、とか考えなかったのか?返り血こんなについちまってんだから気をつけろよ……」

愉愛(ゆめ)(のべる)の手をハンカチで拭く。血は落ちたが、今は傷をどうすることもできない。

「……」

「一階に下りたら、保健室で包帯巻け。それまで拳は使うな。()()で傷を抑えとけ」

(のべる)はハンカチを受け取る。可愛らしい羊の刺繍が入っているものだ。

「……月下(つきした)先輩って、兄弟います?」

「妹が一人。そのハンカチも妹からもらったもんだ」

愉愛(ゆめ)は楽しそうに答える。

「へぇー……。えっ、いいんすか」

「別に大丈夫って言うと思うぞ。あの子は優しいし、おれの唯一の、大切なk」


「がぎゃああぁぁーーっ!!!」

突如悲鳴が響き渡る。

「二人とも速く来てくれるかなーっ!?」

次いで奏音(そうと)の叫び声が響き渡る。

「やっべぇ!あの人一人にしたらダメじゃないっすか!」

(のべる)が真っ先に走る。愉愛(ゆめ)はその後を追う。


奏音(そうと)は向かってくる(のべる)を見て危険を察知した。少し離れて敵から目を逸らす。

テイザーガンを撃たれて倒れている敵の顔面に、(のべる)はハンカチで手を押さえたまま、容赦無く肘打ちを喰らわせた。ぐしゃりとした音が聞こえる。


「一切躊躇わないね……」

目を逸らしたままぽつりと呟く。

「なんか抑えられないんすよね。やっぱ白鼓(しろこ)先輩に、見ないように気をつけてもらうしかないみたいっす」


愉愛(ゆめ)が二人に追いつく。

「怪我ないな?とりあえず下行くぞ」

「わかったよ」「りょっす」






三人は階段を下りる。

「誰もいない……?」

「気配ないっすねー。たぶん全員もうt」「あ!」

突然奏音(そうと)が声を上げた。


「いきなりなんだよ」

「思い出した!」

「何を?」

「ここまで各階にあいつらは5人前後いたでしょ?」

「おう」「はい」

なんとなく思い出しながら答える。

「どう考えても侵入してきた人数より圧倒的に少ない。残りは少なくとも30人以上いるはず……」

「侵入してきた人数……?どこでそんな情報手に入れてんすか?」

「こいつ監視カメラ仕掛けてんだよ。学校全体に」

「は!?流石にヤバすぎ……」

(のべる)は呆れた顔をする。テイザーガンを持っている所といい、正直まともな人だとは思えない。マッドサイエンティスト、(のべる)が一番苦手とする人種だ。


「30人か……。しかも人質とられちまってるしな」

「もたもたしてたら何してくるかわからないよ?」

愉愛(ゆめ)は少し考えるそぶりをする。

「……よっし!とりあえずお前ら二人は保健室行って、泉都河(せんとがわ)の応急処置してこい。」

「えっ!自分まだ全然闘えるんですけど……!」

(のべる)は慌てて反論する。

「はーい。……大方、僕は足手纏いだから来るなってことだよね」

奏音(そうと)は素直に従う。


白鼓(しろこ)、こういうのはお前の専門外だろ。心配しなくても見せ場なんてすぐ来るぞ。あと泉都河(せんとがわ)、怪我は放置するな。どうしてもって言うんだったら、まず処置してから合流しに来い」

「見せ場ね……。残念だけど、僕のは色々ともう終わっちゃってそうだね」

「見せ場の話してる場合っすか!?いや、月下(つきした)先輩一人で30人は無茶じゃないっすか!?」

「おれ一人じゃない」

笑いながら体育館の方を指差す。


「いるだろ?あそこに大勢の仲間が」






「本当に大丈夫っすかね……?」

「さあ?どうだろう」

誰もいない保健室で、奏音(そうと)は包帯と絆創膏を探し出す。


白鼓(しろこ)先輩は月下(つきした)先輩と同じクラスなんすよね?どういう人とか……」

「いや本当にわかんない」

「即答!?」

座り込んでいる(のべる)の手の傷の上に絆創膏を貼り、包帯を巻いてやる。


「僕、周りと全然関わってこなかったんだよね」

「えっ、やっぱコミュ障っすか?」

「死ぬほど失礼だね。間違ってないけど」

包帯の巻き方を少しキツくする。

「痛゛っ!大人げなっ!」

「でも、彼は友達が多かったと思うよ」

「正反対っすね」

包帯がまた少しキツくなる。

「痛い痛い痛いなんで!?」

「言葉には気をつけてね」

目が笑っていない笑顔でそう言われた。


「自分、酷いこと言ってないですよね!?」

やっぱりこの人は苦手だ。いつか人体実験を平気でやり出しそうな邪悪さを感じる。

「まあ、なんだろうね。なんか大丈夫な気になっちゃうんだよね」

「なんかよくわからないんすけど」

月下(つきした)君は、たぶん本人が思ってるより煽動とか、人の心を掴むのが上手なんじゃないかな。ちょっと練習すれば、カルト宗教の教祖とかできちゃうくらいには」

「???」

包帯を巻き終わる。

「終わりっすね。じゃあ、行ってきます」

「あー、待って」

奏音(そうと)は急に(のべる)を引き止める。


「僕も行くよ。たぶん必要だから」

「えっ、足手纏いなのに?」

「失礼だな。たぶんそろそろ見せ場だから、君も準備してね」

奏音(そうと)はいつになく真剣な顔をする。

「伝えなきゃいけないことがもう一つあったんだ」

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