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4.悪魔のクラス

今朝は、空気の円がない。というよりもう円と認識できないくらい僕の回りから人が消え去っただけだ。職員室に呼び出されたのは思った以上に心象を悪くしたらしい。

「浩介、私たち世界に二人だけみたいだね。」

「気持ちの悪いことを言うなよ。朝から胃がもたれそうだ。」

友達との登校。まさしく青春の1ページだ。

「浩介、顔が溶けてるよ。」

「失礼な。ただちょっと友達と登校できて嬉しいだけだ。」

「これからは毎日一緒に登校できるね。」

僕としては他の友達とも歩いてみたい訳なのだが。あまり欲張るものでもないな。悪魔には友達一人くらいがお似合いだ。

そろそろ教室だ。

「よし、じゃあまたあとで。」

「え?私たち同じクラスだけど?」

「僕は職員室によっていくから。」

「だったら私も。」

「それだと意味がないだろ。」

「何が?」

「いいか。昨日俺が一方的に小鳥遊をいじめた。クラスのやつらのヘイトは俺に集まっているから今なら小鳥遊はあいつらと仲良くなれる。昨日自分でいってただろ。」

「そうだけど、私は浩介を選んだんだよ?」 

「俺と表立って仲良くしなければ小鳥遊は俺以外のやつらと仲良くできるだろ。」

「私は浩介以外とは仲良くしなくていいけど。」

なんだろう。悪い気はしない。

「いやいや、友達つくれるチャンスなんだからつくっとけよ。それに俺の頑張りを無に返さないでくれ。」

「そういうことなら。じゃあ先行っとくね。」

小鳥遊は階段を上っていった。


さて、暇をつぶそう。

「失礼します。朝霧先生はいらっしゃいますか。」

「佐久間か。しっかり反省してるのか?」

「その小鳥遊の件で少し。」

いつもの職員室の隅に通される。

朝霧先生は朝からエナドリを飲んでいる。

実に不健康だ。

「で?仲直りできたのか?」

「ええ。この前はすみませんでした。」

「この前?」

「先生が僕のことを解決しようとしていないなんて言ったことです」

「あったかな。そんなこと。」

先生はエナドリを啜る。

「年をとると忘れっぽくなるんだ。」

大人な対応だ。先生が先生をしている。

「ここはそんなに年をとってないですよっていうところだろ。」

「いえ、先生の正確な年齢を知らなかったもので。」

「気になるか?」

「別に。」

「今年で32だ。」

「…」

絶妙だ。

「なんとかいえ。」

「いえ、聞いていないし、絶妙だったもので。」

「よく言う。」

朝霧先生は楽しそうに笑う。

「今日は先程の謝罪とそれからお礼を言いにきました。」

「私は何もしてないぞ。」

「今回の件、最初から僕の孤立を解決するためだったんですね。」

「聞かせてもらおうか。」

「先生は最初から僕を気にかけていてくれた。ただ、生徒たちはあくまでも僕と言う危険な存在に近づかないでおこうという合理的理由のもと行動していたので、打つ手がなかったのではないですか。そんなときに小鳥遊が僕に会うために転校してきたと知って僕の孤立が解消されると思った。しかし僕が予想に反して彼女を遠ざけた。だから、僕から彼女に接触する理由を作ったといったところでしょう。」

先生は楽しそうに僕の話を聞いている。

「正解だ。だがまさか彼女と仲良くなることより彼女をクラスに溶け込ませようとするとは思わなかったよ。どうなることかヒヤヒヤしたよ。幼馴染みで、佐久間に会うために転校してきたやつをわざわざ遠ざけようとしたのには理由があると考えるべきだった。」

「僕が小鳥遊を避けたのは、僕と一緒にいることで小鳥遊がクラスメイトに嫌われてしまうと思ったから。それに彼女が僕をどう思っているかがわからなかったからです。彼女とは例の事件を境にあっていなかったですから。それに僕といることで例の事件を思い出させたくなかったんですよ。」

先生はまたエナドリを啜る。

「確かに同じ中学校と知ったときに例の事件を思い出すべきだったな。それで小鳥遊は今どこだ?」

「先に教室にいっています。昨日の件で彼女への不信感は取り除かれたでしょうから。今頃友達でもできてるんじゃないですか。」

「そうすると君はまた一人になるんじゃないか?」

「大丈夫ですよ。小鳥遊とは仲直りしたので。表だって話すことはありませんが、僕も一人ではなくなりました。それにまだ青春を諦めた訳じゃないですから。」

「そうか。君がそういうなら信じよう。私は君を信頼しているからな。」

驚いた。これだけのことをやった人間をまだ信頼してくれているなんて。

「教師は生徒を信頼してなんぼだからな。」

顔に出ていただろうか。朝霧先生はそう付け加える。

「ほら早くいけ、ホームルームが始まる。」

そうして僕は職員室をあとにした。



佐久間浩介。例の事件がなかったら私は彼に注目していただろうか。彼は自覚しているだろうか。例の事件を気にしているのは小鳥遊やクラスの人間より、彼自身だということに。



教室に着くとクラスメイトの視線をひしひしと感じる。柚子は、、うまくやってるみたいだ。何人かに囲まれて楽しそうに話している。

眺めているとふと目が合う。と、柚子がこちらに小さく手を振ってきた。

幸い周囲には気づかれていないようだ。

しかしなんだろう。背徳感を感じる。

もうやめていただきたい。


まずは高田さんだ。彼女の対応でクラスメイトの僕への印象を探ろう。席につき、声をかける。

「高田さん、おはよう。」

「悪魔」

一言呟くと高田さんは嫌悪感を顕にしながら友達のもとへ去っていく。

返事があった嬉しさと心象の悪さへの絶望の温度差で風邪を引きそうだ。

どうやらこのクラスでも悪魔というあだ名が広まってきているらしい。


放課後、柚子と昨日の公園で待ち合わせをした。今日はまだ時間も早く、小学生くらいの子供たちが遊んでいる。彼らを眺めていると柚子がやってきた。

「何見てるの?」

「俺たちもあんな時期があったなと思って。」

「そうだね。浩介はブランコ乗れなかったっけ。」

「今は乗れるぞ。」

「当たり前でしょ。ブランコに乗れない高校生なんているわけないでしょ。」

中学生のうちに克服しといてよかった。

僕の自尊心は守られた。

「それで友達はできたか?」

「当たり前でしょ。久美ちゃんと李花ちゃんとは遊ぶ約束だってしたんだから。」

女子の行動力恐るべし。

「それはよかったな。それで昨日のことはなんて説明したんだ?」

「佐久間君とは久しぶりにあったから挨拶しようとしただけで、そんなに仲良くなかったのになぜか怒らせちゃった。って言っといた。」

ふむ。それでは僕が完全なる悪だな。

「完璧だ。これで小鳥遊への不信感はなくなっただろ。誰かにつらくあたられたりはしてないか?」

「全然大丈夫。みんな最初から浩介のことを怖がってたみたいだから私のこと悪く言う人はいなかったよ。」

悪の必要性というやつだな。みんなの負の感情を一身に引き受けられる。

「それならよかった。明日からもみんなとうまくやるんだぞ。」

「明日からなんだけどね。私、浩介の誤解を解こうと思う。」

「どうやって。」

「私が友達をたくさんつくってその人たちに浩介は悪くない人なんだって伝えていけばいいんじゃない?」

簡単に言ってくれる。柚子は続ける。

「私は浩介に会いに来たと同時に、浩介の助けになりにきたの。だから浩介の現状を変えたい。」

柚子はとても真剣な顔をしている。

「わかった。でもあんまり無理するなよ。」

集団の心理を変えるのは難しいかもしれないが個人の意識なら変えられるかもしれない。


「うお、噂の悪魔と小鳥遊じゃん。」

背後から不意に声をかけられ、思考が止まる。

「何、お前ら喧嘩したんじゃなかったのかよ。」

同じクラスの赤川秀人。バスケ部に所属しているだけあってデカイ。こいつはクラスの中心人物だ。こいつに僕らの関係がばれたら明日には小鳥遊は1人に逆戻りだ。まずい。非常にまずい。

人生というものはどうして順調に進まないのだろうか。













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