1.高校という箱庭
自分を一言で表すならなんと表現するだろう
自己分析とは難しいものでこの問いにすぐさま答えられる人は少ないのではないだろうか。
かく言う僕もその一人で、これといった言葉は思い付かない。
では、人から見た自分はどう見えているのだろうか。僕はこの問いにならすぐに答えられる
僕は『悪魔』だ。と。
「おはよー」
「昨日のテレビみた?」
「それでこいつがさ」
「…」
「…」
制服を着るという制度は孤独に悩む人が考えたと思う。自分を周囲に溶け込ますには最高だ。なんたってみんなと同じ服なのだから。
しかしどうやら僕には効果がないらしい。
一目で周囲が僕と気づいてしまう。なぜなら登校中の僕を中心として半径5メートルの空気の円ができているからだ。
高校への登校は青春もっと青春の1ページを飾れるものではなかっただろうか。友達が後ろから走ってきて、
「佐久間!おはよ!」
なんて言うものではなかったか。
入学から1ヶ月どうやら僕には友達というものができなかったらしい。青春という本をつくるには何ページ必要だろうか。卒業した僕の手の中にはきっと本なんかなくて、片面印刷のA4の紙があるだけだろう。いやそもそも印刷なんてされないかもしれない。
いや、嘆いているだけでは何も始まらない! 佐久間 浩介!16歳!
今日こそ友達をつくるんだ!青春の本を完成させるために!
今日こそ隣の席の高田さんと友達に!
「おはよう高田さん」
「…」
「数学の勉強?テスト近いもんね」
「…」
「あの、高田さん?」
「…」
「高田さん聞こえてる?」
「…隣の席だからって気安く話しかけないでくれるって、この1ヶ月散々いってきたわよね?」
「あっ、」
どうやら気に触ったらしい。しかし隣の席というのは話しかけるのにこれ以上ない理由ではないだろうか。
隣がダメなら後ろだ!
僕が振り向くと後ろの席の人は逃げるように去っていった。うん!今日は頑張った!また明日頑張ろう!
6月上旬今日も登校中の僕の回りには半径6メートルの空気の円ができている。半径が長くなっているのはきっと気のせいだ。気のせいにちがいない。
隣の席の高田さんはあれから一度も返事をしてくれない。つまりこれまで高田さんとは入学式の日と1ヶ月前の2回しか話したことがないのだ。いや2回も話したことがあるのは高田さんしかいない。表現を改めよう。2回も話したことがあるのだ。
流石に2ヶ月も経つと僕でもわかる。僕は避けられているのだ。
「なんだかなぁ」
なぜ僕が避けられているのか、心当たりがないことはない。というかこれしかない。
僕が悪魔と呼ばれているからだろう。
このあだ名は僕が中学生の時についた。
何事もきっかけは些細なことだ。
僕の場合もそうだった。
なんてことないただの喧嘩。中学生にはよくあることだ。ただ少しやりすぎてしまっただけなのだ。
結果、この喧嘩は暴力事件としてちょっしたニュースになり、僕は転校した。
しかし、メディアの影響は僕の想定より大きく転校先で僕に近づく人はいなかった。
「高校ではうまくやれると思ったのにな」
僕の独り言は中庭の木のさざめきにかき消された
「久しぶり アクマくん」
驚いた。事件が報道されたとはいえ、そのあだ名を知っている人はこの高校にはいないはずだ。
振り向くとそこには見知った顔があった。
「小鳥遊 柚子」
思わず名前を言ってしまったが知らないふりをするべきだった。動揺が表に出てしまった。
「なにその顔。幼馴染みにあえたんだからもっと喜びなよ」
柚子はにやにやしながらこちらの反応をさぐってくる。
「離れてくれ。僕はもう2年も君と関わりがない。赤の他人だ。」
「つれないなあ。一緒にお風呂に入った中じゃない。」
2年前から美人ではあったが美人に磨きがかかっている。この学校でぼくがあった中ではいちばん美人ではないだろうか
「それは小学生のときだろ。人聞きの悪いことを言うな」
思わず突っ込んでしまった。どうやら2ヶ月人と話さなかったことは思ったより堪えていたらしい。
「何?アクマって呼んだことおこってるの?」
いたずらっぽく笑う彼女。
「違う。確かに驚きはしたけどそこじゃない。なんで小鳥遊がここにいるんだ。いやそれも違った。小鳥遊、僕に話しかけないでくれ」
どうやら僕の青春の本は分厚くなりそうだ