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神様

「えぇえええええ!」


 いや待て待てそんな幸せなことあるわけないだろ。はったりだはったりに違いない。そうだこれは夢なんだ。だって考えてみればわかるだろ。普通は急に川の上で漂ったりしないし、白い空間に飛ばされないし、変なエロ親父に絡まれない。いやこれはしばしば起きうることかもしれないけど、とにかくこれは夢なんだ。そうだ、醒めたらきっとあの六畳一間の狭い部屋に戻っていて、冷蔵庫を開ければ作り置きした味噌汁があって、新品の呪われヒーローの最新作が机の上に置いてあって…


 「うるさいぞ、小娘。わしはもう年なんじゃ、そんなペラペラ騒がれると疲れてしまう」


 あっ。すみません。


「それと自己紹介が遅れたが、わしの名はタリトゥスだ、普通にタリトゥスと呼んでもらって構わない。そっちの人間世界で言ういわゆる神だ」


 神に自己紹介という概念があったのか。


「全部聞こえてるぞ」

「すみません」


 このまま無駄口をたたいているといずれ祟られそうだからやめておこう。いささか信じられない節があるけど、話を聞いてみるだけ聞くか。


「では神様、なぜ私を救ったのですか」

「救ったんじゃない、お前に私を救ってもらうんだ」

「私が?」

「お前がだ」

「無理です」


 ピキっという音がした。


 「断るのが早すぎるじゃろ!まだ何やってもらうかすら言っていないんじゃ!」

「だって神すらできないことなのに、こんなちっぽけな人間にできるわけないじゃないですか!」

「神だからできないんじゃ!まあとにかく落ち着いて話を聞いておれ!」


 はあとため息をついて、神はしゃべり始めた。


「この世界は何重にも重なっている。厳密にいうともう少し違うんだが、まあ貴様に分かりやすく説明すればそういうことになる。それでわしがこの層の世界を担当しているのじゃ。わしらは世界が崩壊しないよう、一定の秩序を保ったまま働き続けるよう世界のバランスを整えている、世界のバランスが崩れたら、わしらも消えていなくなるからな。だから、わしらは世界と共存しているのだ」


「それでどうして私がタリトゥスを助けることになるんですか」


「あぁ、それがだ。わしらが存在できるのは世界の秩序のおかげだけじゃない。人間の信仰活動によるものから生まれるものでもあるのだ。人間だけじゃないすべての生物が未知なものに対する信仰心からわしらは生まれ、わしらは活動できる。それゆえわしらは常に規範通りの動きしかできない、だから貴様に頼んでるのじゃ」


 ここで一息をついて、神様は言った。


「しかしだな、わしはなくしものをしたんだ」

 はい?

「なくしものですか?」

「そうじゃ」

「何をなくしたんですか?」

 「なくなると世界が滅ぶようなものじゃ」

「それを私に探せと?」

「そうじゃ」


 ふつふつとした怒りのようなものが自分の内側から込み上がってくるのを感じた。


「あんなにペラペラ御託並べ結局自分がなくしものをしただけじゃない!」


 しかも世界の命運を人に任せるとか考えられない!


「だって仕方ないじゃん!誰にだってものをなくすことがあるじゃろ!神の仕事は難しいんじゃ!きいぬくとすぐに世界に置いて行かれるんじゃ!」


 ここまでくるとこの神に呆れて来るものがある。

 うーーむ。


 「タリトゥス、これは夢?」

「いや、夢じゃない」

「そうか夢じゃないか、じゃあ探すしかないんだね」


 とりあえず目が覚めるまで話に乗ってみよう。


「なにをどう探せばいい?」


 タリトゥスは一つ咳ばらいをしてまた話をつづけた。


「光る石だ。時々石がわしの名前を呼んでくれるからその時に石の場所がわかる。それで貴様に探してもらうのじゃ」

「分かった」

「それじゃよろしく頼む」


 そう言ったきり、タリトゥスの声は消えてしまった。話し合いはもう終了したということだろうか。それにしても説明が少ないし、何か大事なことを忘れてしまっている気がする。


「お嬢様」


 お嬢様?

 声の方に目を向けるとなんと執事姿のイケメンが立っていた。しかも何度も見てきた顔である。これはのろひろのヒロインの執事、キルシュじゃないか!


 翡翠色の瞳にすっと通った鼻筋、血色の良い肌は陶磁器のように滑らかで、どこか人をそそる色気のようなものがある。彼氏いない歴=年齢の私にこんなイケメンとではまともに目を合わせることもできない。


 はぁ~生で見るのもかっこいい!今世これに尽きる!


「ごきげんよう!キルシュ!」


 そういえば私今のろひろの世界にいる設定だっけ。

 キルシュは死亡フラグが埋め尽くされるこのゲームで唯一生存への道しるべとなる存在。何かあるごとにヒロインを隣で慰め、ヒロインを勇気づけてきた大切な人だ。かくいう私も受験でくじけそうになった時に何度か支えられたことがある。


 キルシュはにっこりと笑って

「はいお嬢様、ごきげんよう。もう朝食が出来ましたので、身支度をなさってください」と言ってここを去った


 と……キルシュが私に言ったっ!!


 誰もここにいないことを確認してから小さな歓声を上げる。こんなに幸せな夢ならどうか一生醒めないでほしい。


 かなり時間を要して興奮を冷まし、すぐさま今の状況を確認しようとタリトゥスの名を必死で囁くが、何も返事は帰ってこない。しばらくすると私はあきらめ、身支度をした。

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