白い空間
目覚めると、真っ白な世界が広がっていた。
「なにここ」
そう呟く声もこの白い空間に出た瞬間たちまち吸われてしまう。
これが死後の世界というやつであろうか。何とか記憶を取り戻そうと頭をたたくと、川の上を漂っていたことを思い出した。まさか私は死んでいるのだろうか。のろひろー呪われたヒーローと愛され王女の略ーを攻略せずに。
そんな……せめて全部遊んでから死なせてほしかった。
くらっとめまいがして、膝から崩れ落ちる。
「やあ、小娘」
がくんと膝が床なのかわからない白い霧に着いた瞬間地響きのような低い声があたりを響いた。声の主を探そうと周囲を見渡すが、それらしい姿は見当たらない。
「思ったよりめすぼらしい娘じゃのう、こんなんで本当にやりきってくれるのか」
低い声が何やらぶつぶつとしゃべり続けている。
「まあ、アトムも少なかったししょうがないって言っちゃあしょうがないんじゃがな。せめてもうちょい乳のデカい女子だったらわしの錬成も報われんのにな。前の子はもうちょいボンッキュッボンだった。何がいけなかったんかね」
なんなんですかさっきから失礼なことばっかり言ってるんですけど。
「いやーすまないすまない、久々に若い女子が入ってきたからついテンションが上がってしもうて」
ギクッ。心の声を聴かれてたのか。
っていうか女の子にテンションが上がって話す内容にしてはだいぶ違くないか?
「そうだよ、全部聞こえてるよーん。そもそもここは内側の世界だからね、こうしてわしが話す声もまあ心の声みたいなもんじゃよ」
へー。しかしそんなことよりも、もっと大事なことがある。
「あの……」
「なんだ」
「私ってもう死んでるんでしょうか」
「……死にたくなかった?」
「うん。のろひろをやるまでは」
そう。これだけが唯一の願いだったのに。私の生きる動力源だったのに。
「うーーむ。まあ、厳格に言ったら死んでる?」
やっぱりそうなのか……さらなるショックに上半身も支えきれずにそのまま白い空間に倒れ込む。
のろひろを遊ぶ寸前だったのに……!
「まあ、そう案ずることない。厳格に言ったら死んでるけど、まだ死んではないからな」
え、どういうこと。
戸惑っていると倒れ込む頭の上を透明なディスプレイが表示される。ディスプレイには三枚のハテナが書かれたカードがあり、その下にはそれぞれ力の亡者、愛の楽園、復讐の道と書いてあるボックスが並んでいる。
「この中から、一つ選ぶんじゃ」
いやこの中から一つ選ぶんじゃ、じゃないでしょう。何か説明しなさいよ。
「大丈夫大丈夫悪いようにはせんから」
それが怖いんですけど。とはいえこのままエロ親父と張り合っていても埒があきそうにない。腹をくくるしかないか。
恐る恐る人差し指を伸ばし、私は愛の楽園と書かれたカードに触れた。
するとその途端ディスプレイが凄まじい光を放つ。咄嗟につよい刺激から目を守ろうと思わず瞼を閉じる。瞼の裏にちらつく光の残骸がなくなるのを待ち、再度目を開く。と、そこには西洋風の装飾をした部屋が広がっていた。
へっ?
急激な変化に追い付けない脳が、混乱する。
シルク製の艶やかなカーテンに覆われた大きなベッド、複雑の文様がが施された煌びやかな内装、茶色い暖炉、開かれた窓の向こう側に佇むステンドガラスのついた塔。いこにも豪華な、いわゆる北欧のお金持ちがが住んでいそうなお部屋に驚くよりも先にたじろいでしまう。しかしどこか見覚えがあるような……
「いっただろ、悪いことはないって」
わっ!いきなり発された声に驚いて思わず肩がビクッと震える。よく響く低い声が脳の中から直接伝わってくる。
「どう?」
「どうって」
まだ命はあることに安堵しつつも、突発的なこの状況をどうも呑み込めない。どう感じてる感も分からずただぽかんとしているばかりだ。それよりも
「これってまだ昔の世界のままになってますか。ゲーム機とかはあるんですかね?のろひろは!のろひろシリーズ!ありますか!」
なかったら、私はきっとまた生きているのかも死んでいるのかもよくわからない状況で、ただ息を吸っていくばかりの毎日になってしまう。
「なーにいってるんじゃい」
声は呆れたように言ってため息をついた。
「ここがそのゲームの世界じゃよ。」