第33話 「逆ギレと噂」
さて。
世の中には「負けを認められない人間」というものが存在する。
しかもそれが、
金と家柄とプライドだけは一丁前にある貴族だった場合――
大体、ろくなことにならない。
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プーチンチン サイド
「ふざけるな!!」
机がひっくり返る音が、部屋に響いた。
イチビリッチ侯爵令息、プーチンチン。
顔は真っ赤、目は血走り、完全に理性が蒸発している。
「決闘で恥をかかされ!
ダンジョンでは英雄扱いだと!?
あの無能が!!」
「落ち着け、プーチンチン」
ブリスベン子爵令息アライドが宥めるが、
火に油だった。
「落ち着けるか!!
このままでは、我々が笑いものだ!!」
その時、
部屋の隅で静かに立っていた男が、口を開いた。
「……でしたら、消してしまえばよろしいでしょう」
侯爵家筆頭魔導士――アクドイ。
「学園内で“事故”が起きることなど、
珍しくもありません」
一瞬の沈黙。
「……やれ」
プーチンチンの目が、歪んだ光を宿す。
「セイラ・アシュラを、学園で抹殺しろ」
アクドイは、静かに頭を下げた。
「かしこまりました」
その表情の奥で、
何かが確実に動き出していた。
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翌日から、空気が変わった。
「ねえ……聞いた?」
「ユリアンさんって……魔族と繋がってるらしいよ」
最初は、小さな囁きだった。
「ダンジョンの時、
魔族が出たのに無事だったでしょ?」
「手引きしたんじゃない?」
噂は、面白いほど早く広がる。
そして――
ユリアンちゃんの周囲から、人が消えた。
「……セイラ様」
昼休み、中庭のベンチ。
ユリアンちゃんは、無理に笑っていた。
「私、大丈夫ですから」
(大丈夫な顔じゃない)
「一緒にいよ?」
即答だった。
「え?」
「一人でいると、
変な噂、真実っぽくなるでしょ」
ユリアンちゃんは、少しだけ目を潤ませて、
小さく頷いた。




