第31話 「予定外と、踏み越えた一線」
静寂を破ったのは、乾いた拍手だった。
「いやぁ……素晴らしい」
先ほど名乗った“通りすがりの魔族”が、心底楽しそうに笑う。
「正直に言いましょう」
その目が、私を射抜いた。
「今のは――予定外です」
空気が、一段冷えた。
「この初級ダンジョンで、
あそこまでの戦力を見せられるとは……」
肩をすくめ、わざとらしく嘆息する。
「このままでは――
あの方にしめしがつきませんねぇ」
(……あの方?)
カイン殿下が一歩前に出る。
「貴様、何者だ」
だが、魔族は答えない。
代わりに、ゆっくりと両手を広げた。
さっき、通りすがりのの魔人っていってなかったけ?突っ込もうと思ったら
「仕方ありません。
“追加”を用意しましょう」
足元に、禍々しい魔法陣が浮かび上がる。
「来るぞっ!」
誰かの叫び。
だが――
私は、もう動いていた。
(詠唱――長が!)
「させるかっ!!」
縮地。
一瞬で距離を詰め、
ライトニングセーバーを振り抜く。
「――っ!?」
魔族の目が見開かれた、その刹那。
バリッ――!!
稲妻が走り、肉を裂く感触。
「がぁぁっ!?」
右手が、ざっくりと切り落とされかけ、
血が宙を舞った。
魔法陣が、霧散する。
「……なるほど」
魔族は苦悶の表情を浮かべながらも、
どこか愉快そうに笑った。
「判断が、早すぎる」
右手を押さえ、後退する。
「これは……完全に、想定外だ」
その視線が、再び私を捉える。
「光属性。加護なし。
それでいて、この身体能力と戦闘判断……」
口角が、歪む。
「――面白い」
次の瞬間、魔族の姿は霧のように薄れた。
「次に会うときは、
もっと“準備”をしてきましょう」
その声だけが残り、
ダンジョンには、再び静寂が落ちる。
誰も、すぐには動けなかった。
「……今の、見た?」
ユリアンちゃんが、震える声で私を見る。
私は、ライトニングセーバーを消し、
少しだけ視線を逸らした。
「……あれ、敵だと思ったから」
それだけ言うと、
胸の奥に、嫌な予感が広がっていく。
(“あの方”……か)
今回の異変は、
まだ――序章にすぎない。
そう、直感が告げていた。




