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【ダイヤモンド・ピッグ②】

「だっ誰か先生をっ!!」

「コノヤロー!俺を、俺様をコケにしやがって鈴之塚ぁぁああああ!!!」

「キャァァアア!!」

「危ないっ!!」

「先輩っ」


二人の頭上に鉄パイプが振り上げられた。その瞬間、優は庇うように響の胸を押し引き離した。突然の出来事に後ろによろける響。鉄パイプが優を目掛けて振り下ろされた。


「オラァァアアア!!!」


優は横に逃げ、振り下ろされた鉄パイプをかわした。鉄パイプはアスファルトを叩きつけ破片が飛び散っる。仕留め損ねたことに気付いた男は横にいる優を睨みつけた。再び鉄パイプを振り上げかけた。優は二撃目が来る前に男の懐に入り込んだ。そして男の腕を力強く引っ張り、そのまま背負い投げを繰り出した。それはダイエットの際トレーニングに取り入れていた柔道技。見事に鮮やかな一本が決まった。男は地面に叩き付けられ気絶している。


「鈴之塚先輩ッ大丈夫ですか!?」

「あっあぁ。オレは大丈夫だ。それよりきっ君は・・・」

「すみません。突き飛ばしてしまって」

「いや、オレ方こそ助かったよ」


響に慌てて駆け寄る優。優が突き飛ばしたせいで、尻もちをついていた。驚いたのは響はだけではない。突然の出来事に周りも驚いている。先ほどから誰も声を発しず、非日常のような光景を傍観者のように見届けていた。

次第に騒動を聞きつけた生徒達が集まりつつあった。なにがあったのか、どういう成り行きだったのかを目撃者に聞いている。


「ちょっと優!」

「結夏」

「もぉこんな所で何やってんのよ!!」

「だってコイツが襲って・・・イテテテ!!痛いって」


結夏は増えていく人混みを掻き分けてくるなり、優の耳をひっぱる。そして誰にも聞かれないように耳打ちする。


「初日からこんなに目立ってどうするのよ!!だいたい、背負い技する女の子なんていないわよ」

「えっ?そうなの」

「当たり前でしょう!バカ!」

「何かあったのかー!?」


騒ぎを聞きつけた教師達がこちらへ駆け寄って来る。優は結夏に引っ張られながらその場から離れていく。せめて響になにか言わなくてはと思ったが、予想以上に人が集まってきている。

響が不思議そうにこちらを見ているが、大きな背中に阻まれ声を掛けることができなくなった。


□□□


「ただいまーはぁー・・・疲れた」

「お帰り優ちゃん。ふふふ相変わらずかわいいわねぇその格好。このまま女の子になっちゃう?」

「ボクは可愛くても中身は男なの~」

「あらそう?でも最近だと、そういうのあまり気にしない人が増えてるらしいわよ。男の子も化粧をする時代なんでしょう?」


優が帰宅しリビングに入ると、綾がすでに帰宅していた。この地域では今日が入学式の学校が多い。綾は

机の上でポテチを食べながら夕方のワイドショーを見ている。


「初日の学園生活はどうだった?」

「疲れた・・・ボク明日からやっていけるかな」

「何言ってんのこれからでしょう。何の為に椿ヶ丘に入ったのよ。憧れの鈴之塚さんに会うんでしょう」

「・・・もう会ったよ」

「えっそうなの!?どうだった?何か話できた?」

「んぅー・・・」

「なによ、その微妙なリアクションは。相変わらず反応はブタ並みにトロいわね」

「話はできたよ。できたけど。ボクが思い描いた再会とはまるで違った。あー腹減ったな。ボク何か食べたいなーっと、とりあえず着替えてくるか」


綾とはそれなりに話すようになっていた。ダイエットやスキンケア、女性の所作など色々協力してくれている。相変わらず口は悪いがそれでも話しかけてくれることも多くなった。

優は自分の部屋のドアを閉めた。一人きりになった部屋でそっと自分の胸に触れてみる。女の体に似せる為にパットを入れた方がいいと綾から助言され少しは膨らんでいる。

あの時、無我夢中で響を引き離すために胸を触ってしまった。


「そうだ優」

「うわぁぁっ!!ノッノックくらいしろよ!母さんっ」

「なにしてんの優君」

「なっなんにもしてないよ!!本当になにもしてない!!」

「さっき園崎さんからお電話あったのよ。昔近所に住んでたんだけど覚えてる?」

「うん。同じ学校で隣のクラスだった」

「すごい偶然ね!お母さんビックリしちゃった。良かったわねまた結夏ちゃんと一緒になれて」


母は持っていた洗濯物を優のベッドの上に置くと、脱ぎ捨ててある靴下などをとり部屋から出て行った。スカートの下に履いていたスパッツを脱ぎ、息苦しいブラジャーも取ると一気に開放的になった。軽くつけたファンデーションをとる為に脱衣所に入った。クレンジングシートで化粧を落とすと顎辺りにポツポツと髭が伸びていた。脱毛には通っているが、もう少し通った方がよさそうだ。優がピンセットで髭を抜いた。


「優ー、結夏ちゃんと会ったってことはもうバレたの?」

「あらあら、そうだったわね」

「うん。イテ・・・。だって仕方ないだろう、まさか結夏がいるなんて思ってなかったし」

「アンタ本当バカね。初日早々バレるなんて。同姓同名とでも言っておけばいいでしょうが」

「結夏にはそんな言い訳じゃ直ぐにバレるよ」

「そうねぇ、結夏ちゃんお利口さんだったものね」

「はぁーせっかくこの私が協力してあげてるのに」


ジャージに着替え、今日一日着た制服をハンガーにかけた。

『コノヤロー!俺を、俺様をコケにしやがって鈴之塚ぁああ』

男の低い怒声と、それに気づいた生徒の悲鳴。

『先輩っ』

思うより先に体が動いていた。助けるのに夢中だった。

響を庇った時に触れた胸の違和感を思い出しながら、優はもう一度だけ自分の胸に触れてみた。


 


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