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2話 異世界転生って流行ってますし


「お待たせしましたー、魔法少女のスペシャルパンケーキでえす」

 

 注文してから十分後、店員が山盛りのクリームでデコレーションされたパンケーキを運んできた。クリームの上には魔法少女のステッキを模したクッキーが飾られ、皿の横には特典のアクリルキーホルダーが入った銀色の袋が置いてある。

 

 玲はスマホを取り出すと、角度を変えながらパンケーキの写真を取り始めた。次に特典の袋を開け、キールホルダーをパンケーキの近くに添えて写真を撮る。さらに角度を変えて写真を撮っていると、

 

「ねえ、食べないの?」

 

「うわっ、ヘベ!?」 

 

 突然画面一杯にヘベの顔が映った。スマホから視線を外すと、向かい側の席にヘベが頬杖をついて座っていた。どうやら先ほどの出来事は夢ではなかったらしい。

 ヘベは不敵な笑みを浮かべると、キーホルダーをつまみ上げた。

 

「ふうん、これがレイの言ってた用事?」

 

「べ、別にいいだろ!それよりも何でここにいるんだよ」

 

「レイの返事、聞きたいから。ねえ、異世界転生する気になった?」

 

 キーホルダーを揺らしながらヘベは笑う。無邪気で可愛らしい笑顔だが、どこか恐ろしさを感じる。

 ナイフを手に取り、パンケーキを半分に割る。するとパンケーキの中から苺ソースが溢れてた。

 

「転生って言ってもなあ…俺まだ死んでないし」 

 

 さらにパンケーキを半分に割る。四等分されたパンケーキの一つにクリームを乗せ、一口で頬張る。何の変哲もない、普通のパンケーキだ。  

 

「そもそも転生とかって、死んだ人間に持ちかけるものじゃないのか?」

 

「だってほら、同意なく殺して異世界に転生させるのはコンプライアンス的に良くないじゃない?」

 

「殺す気だったの!?あと背後から鈍器で殴るのはコンプライアンス的にどうなのかな!?」

  

「大丈夫!痛くないように一瞬で殺すから!何がいい?トラック?ハンマー?」  

 

「怖いこと言うなよ!痛くない云々じゃなくて単純に死ぬのは嫌だ!」

 

 思わず力が入り、食べかけのパンケーキがグニャリと潰れた。

 

「というか、何でそんなに異世界転生にこだわるんだよ」 

 

「流行ってるから」

 

「…………んん?」

 

 頭の中が疑問で埋め尽くされる。世界の危機とか、魔王が復活したとか、シリアスな答えが返ってくると思っていた玲は呆気に取られた。

 

「強い女神ほど強い能力を与えらて勇者が活躍するでしょ?どれくらい勇者が強くなって、どのくらい早く世界を救えるかっていうのが若い女神の間で流行ってるの。早く世界を救えるほどバズるんだ」

 

「非人道的タイムアタックすぎる……!そして神様の世界にもバズりという概念があることに驚きなんだが」

 

「バズりは女神の中で一番大切よ?」

 

 ヘベは白く綺麗な手を伸ばし、残り一つのパンケーキを取る。一口齧ると怪訝そうな顔で首を傾げた。どうやら美味しくなかったらしい。

 ふと玲の脳裏にある考えがよぎる。

 

――もしかすると、ヘベはとんでもない駄女神なのでは?

 

 迷惑ユーチューバーみたく、関わるとロクなことにならない類いの人間、いや女神だ。彼女によって異世界転生なんてさせられたら、チートハーレムどころか苦難と絶望しかない来世が待っている。

 ゾワリと背筋を凍りつく。玲は考えていることを悟られないよう気をつけながら、微妙な顔でパンケーキを頬張っているヘベを諭すように言う。

 

「お、俺じゃなくてもいいじゃないか。もっと強いやつの方がいいだろ?」 

 

「最初から強い子が異世界転生で活躍してもつまらないでしょう?普通そうな男の子の方が逆境あり感動ありで面白そうじゃない!というわけで、異世界転生しよ?」

 

「絶対にやだよ!」 

 

 ヘベは顎に手を当て、上目遣いでお願いする。わずかに良心が痛むが、目の前の女神のお願いをきいていたらこちらの身が破滅する。

 むう、ヘベは不機嫌にテーブルに突っ伏した。側にあったメニュー表を手に取ると、つまらなそうに眺める。すると玲は音を立てない席を立ち、真っ直ぐ会計に向かった。本当はもっと店内で写真を取りたかったが、今は少しでもヘベから距離を取りたかった。

 

 小走りで店から出ると、後ろを振り返る。ヘベはついてきていないようだ。

 ふう、安堵のため息を付いた途端、

 

「そんなに急がなくてもいいじゃない」

 

「うわっ!?な、なんで!?」  

 

 前を向くと、目と鼻の先にヘベの顔があった。驚きで後退ると縁石に足を取られ、玲は尻餅をついた。ヘベは怪訝そうな目で玲を眺めると、

 

「他に行くところでもあるの?」

 

「い、いや…別にないけど。しいていうなら少しでも遠くに行きたいというか…」

 

「じゃあ異世界に転生すればいいじゃない」

 

 ヘベはニッコリ笑うと、何もない空間から巨大なハンマーを取り出した。その瞬間、巨大ハンマーで殴られ魂を拉致られた記憶が蘇る。思い出すとかなり痛かった、殺されるとなるとさらに痛いはずだ。   

 慌てて立ち上がり、腕を伸ばして距離を保つ。それでもヘベはハンマーを構えてジリジリとこちらに近づいてくる。

 

「ま、待て!コンプライアンスはどうした!?」

 

「コンプライアンス程度じゃあ神様を縛ることなんてできないよ?」

 

「さっきと言ってること違うじゃないか!!ひいい…!」

 

「大丈夫、一撃で逝かせてあげるから!」 

 

「全然大丈夫じゃない!!ひっ!!?」

 

 咄嗟に避けると、勢いよく振り下ろされたハンマーがコンクリートの地面に叩きつけられた。コンクリートがひび割れ、破片が宙を舞う。当たったら痛いじゃすまされない、確実に死ぬ。

 

「もう、避けないで。下手に動くと即死できなくて痛いよ?」 

 

 頬を膨らまし、へべは可愛らしく怒る。見た目と態度は愛らしいが、再びハンマーを振り下ろそうとする姿は鬼のように恐ろしい。

 体中から汗が吹き出し、心臓が強く鼓動する。拳を強く握りしめ、ゴクリとつばを飲み込む。

 

――考えろ、生き残る方法を!

 

 ジリジリと壁に追い込まれながら、玲は必死に考える。

 異世界、転生、勇者、バズリ、仕事。ヘベの言葉が頭の中でぐるぐる回る。

 かつてないほど脳がフル回転し、脳細胞が導き出した生きる術――それは、

 

「は、原宿!!」

 

「ハラジュク?」 

 

「そう原宿!女子高生の聖地原宿に行こう!要はバズりたいんだろ?原宿は若者のトレンドが集まるところ、バズりネタもたくさんある!」

  

 たぶん、玲は心の中で付け足した。実のところ、玲は東京のことは分からないし、華やかな女子たちが求める映えについては未知の領域である。だがここで何もしなければ殺されて異世界行きだ。

 ピクリ、トレンドという単語にヘベの肩が動いた。ハンマーを構えながらじっと玲を見つめると、

 

「ハラジュクってそんなに映えるの?」 

 

「そりゃあもう映え映えなものがたくさん!」

 

「何が流行ってるの?」

 

「虹色!原宿は何でもレインボーだ!」 

  

「どんなものがあるの?」

 

「レインボー綿飴とレインボーチーズドッグだ

!」

 

 たぶん、よく分からないけど。姉達が見ていたテレビ番組から得た知識と、インターネットから得た知識が混じって何だが別のものになっている気がしなくもない。

 

「ふうん……」 

 

 そう呟くと、ヘベは顎に手を当てて何やら思案し始めた。体中から汗を垂らしながら返事を待っていると、

 

「うん、決めた。私、ハラジュクに行きたいわ!」 

 

 光と共にハンマーが消え、代わりに狼のぬいぐるみアクセサリーが付いているスマホが現れた。

 片方でスマホを持つと、片方の手でピースサインを作った。そして人差し指と中指を顎に添えると、

 

「私のこと、しっかり案内してね。レイ」 

 

 パチンとウインクを決めた。恐ろしいほど可愛らしい笑顔に、玲の頬が思わず紅潮する。

 

「も、もちろんです女神様!」

 

 勢いよく返事して、玲の命をかけた原宿案内が始まった。  

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