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北川和樹その1

自分には一生関係ない話だと思っていたが、先日なんと結婚した。仕事は楽しいし稼ぎもまぁまぁ。気楽に好き勝手生きていくつもりだったのに、一緒にいてもいいかなと思えるパートナーに偶然恵まれた。入籍だけして式は半年後、家族だけで行うつもりだった。


母から電話がくるまでは。


あのね、お姉ちゃんには言ったんだけど。

お父さん、最近自分のことわからなくなる時があるみたい。夜に魘されて飛び起きて、ここがどこかわからないみたいなの。

それで。悪いんだけど一回帰ってきてくれないかな。お姉ちゃんも来てくれるから。


元々正月に顔を見せる予定ではあったので、妻に事情を説明して今回は自分1人だけで帰省することにした。帰省と言っても同じ県内。電車で40分ほどの距離だ。

こないだまで元気だったのに。でも親父も76歳、確かにそんな歳か。なんて、なんでもないことのように考えていた。


それがまさかこんなことになるなんて。


え?

その声は自分か姉か。

母は俯いたまま。父は認知症どころかとんでもない厨二病発言をかましてきた。40年前、異世界で勇者やってた記憶が最近蘇って混乱してただけだ、と。

は?なんか流行りのアニメでも見たの?


それで、ちょっと薄汚れたでかめのクッションみたいなぬいぐるみが竜のたまごだという。いつか必要になるからと持たされたらしい。いやちょっとなんなのこれ。


それで家族会議になった。


議題は父をどうやって病院に連れて行くかだと思っていたのだが、どうやら母はこのたまごをどうすべきかを考えたいらしい。いやこれ以上付き合うの無理だし、と姉を見たら何かを考えているようだった。


あなた達は小さかったから言ってなかったけど、と母が話し出す。

お父さんがこのぬいぐるみを持って帰ってきたとき、お母さんは赤ちゃんをなくして辛いときだった。今でもその胸の痛みがなくなったわけじゃないけど、このふざけたぬいぐるみのおかげでなんとなく笑えるようになったのを覚えてる。お父さんは竜のたまごだなんて覚えてなくて、その後はずっと押入れにいれっぱなしになっていたけど。


いつか必要になるというのなら、大げさだけどこれは家宝なんじゃないか、と。


そんなことってありますか。父親が勇者で古ぼけたぬいぐるみが家宝。いやいや。

お互いまともな両親に育ててもらってよかったね、とついこの間妻と話したことを思い出し遠い目になる。


まともじゃなかったようちの両親。

父親が認知症か厨二病、またはその両方なのだ。


自分としては一度病院に連れて行き、どの程度の症状なのか見てもらうつもりだった。今後介護が必要になりそうなのか。この間まで手広く事業をやっていた母親だし金には困っていなさそうだが、金銭的な援助が必要になるかもしれない。そんな話し合いになると思っていたのに。

もうついていけない。この場は姉に任せて帰ろうとしたのだが、そこで姉が動いた。昔からこの人、突拍子もないことをするんだよな。無駄に決断力あるし。


40オーバーでもとてもそうは見えない顔立ち。好奇心旺盛で子供みたいになんでも夢中になって昔からヒヤヒヤさせられた。無邪気な言動と相まって、正直自分の妻よりずっと若く見える。


で、その姉が何をしようとしたのかと言うと。ぬいぐるみを破こうとした。本当に竜のたまごなのか真相を確かめよう!ということらしい。


おいおいビーズクッション破いて中身散らかったら大惨事だよ?こないだネットで注意喚起流れてたじゃん。万が一たまごだとしてもさ、中身ドロドロだったらどうすんの。


俺の心配をよそに、抵抗する母親(なにしろ家宝にしようとしていた)を言葉巧みに説得し、姉は小さな庭にシートを敷いて裁ち鋏を手に持つ。


いつか必要になると渡されたなら、記憶が戻って存在を思い出した今でしょ!そもそも40年前にビーズクッション的なものはなかったはずで、ぬいぐるみといえば綿が詰まった重たいものばかりだった。だから、こんな手触りのなめらかなぬいぐるみが、そんな昔から存在していたのは今考えると少しおかしいよね、ということらしい。

確かに言われて見ればそうなのか?もはや自分にはさっぱりわからない。


もう任せたわ姉ちゃん。

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