第一話
※この物語で出てくる地名等は実在するものとは関係ありません。
「ねぇ、杉原。お願いがあるんだけど...」
7月19日の放課後。僕の好きな人に、彼氏探しを頼まれた。
「かっ...彼氏が失踪した!?」
彼氏を探してほしいと言った目の前の女性、七瀬さん。前述した通り、僕の好きな人であり、幼馴染だ。
「ちょっ、声大きいって!」
放課後だから人がいないとはいえ、声が大きすぎた。彼女はそれを、顔を近づけ小声で注意する。間近で見ると、彼女の長いまつ毛や艶のある唇がよく見える。僕がまじまじと見ていたからか、彼女は顔を戻した。
「そう。だから、一緒の探してほしいの。」
七瀬さんの彼氏、成瀬隼人は学校でも有名だ。スポーツが出来て、頭も顔も良くて、おまけに御曹司。天は二物を与えないというが、二物どころか五物も与えている。そんな彼が失踪する原因がわからない。彼について詳しく知らないということもあるけど...。誘拐でもされたんだろうか。
「失踪した原因は分かる?」
しかし彼女は首を振った。
「先週突然いなくなったらしいから。隼人君、警察の人たちも探してるんだけど、まだ見つかってなくて。」
「そっか...。」
残念な気持ちの中に安心している自分がいる。七瀬さんの彼氏が見つかってないという事実に。見つからなかったら、チャンスができるかもしれないから。自分に辟易する。こんな自分が大嫌いだ。
「分かった。成瀬くんを探すの、手伝うよ。」
さっき安堵した自分への戒めとするためにも。
帰り道―――。
家が近い僕らは、自然と一緒に帰った。帰路についている間、どこを探すか話しながら。彼女は、
「とりあえず、明日は漣駅まで行こう。」
そう意気込んでいた。
「分かった。9時集合で良い?」
「うん。必要なものは、夜連絡するから。」
丁度家が見えてきた。七瀬さんと別れを告げ、彼女の家の向かいにある自分の家へ。
「ただいまー。」
真っ暗な玄関に、自分の声だけが響く。明かりを付けると、家の全容が露わになった。玄関から真っ直ぐ伸びる廊下、その左右に不規則に並ぶドア。廊下の奥には框ドアがあり、オレンジの明かりと談笑が漏れている。
そのどれにも向かわず、廊下に出てすぐ左にある階段を上る。上った先にはL字の廊下があり突き当たりにあるのが自室。扉の先には、ベッドと勉強机だけの簡素な部屋がある。ベッドへ一直線に向かうとそのまま突っ伏した。
「はぁ〜〜〜...。好きな人の彼氏探し、か。」
スマホを取り出すと、画面には『明日から一緒に頑張ろ!』というメッセージが出ている。
「人の気も知らないで...」
そう呟き、目を閉じた―――。
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