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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

帰り道の犬神

作者: どんC

 

 ああ……


 腹が減った……


 ああ……


 喉が乾いた……


 腹の虫が鳴る……


 目の前には船盛の刺身や酒がズラリと並んで俺の鼻腔を擽る……


 だが……


 俺はそれらを食べる事も、飲む事も出来ない……


 猿ぐつわのせいで唸り声しか出ない……


 オマケに頭にはスッポリと何かを被せられているから尚更だ……


 眼だけは見えるが……


 何でこんなことになったんだろう……


 俺はおぼろげになった記憶を探る……



 ***************





 その夜の月けは嫌に赤かった。

 まるで血のようだと思った。

 俺が通う大学は小高い丘にあって回りはぐるりと森に囲まれている。

 大学の寮は丘のふもとにあって近くにはコンビニや商店街があってなかなか便利だ。

 でも大学の最終バスは7時までなんだ。

 その日もうっかり図書館でうたた寝をしてしまって最終に乗り遅れた。

 仕方ない。

 俺はため息を憑く。

 寮まで歩くと40分かかる。

 俺はトボトボと歩き出す。

 昼間は賑やかな大学も夜となると人が居ない。

 ちょっと不気味だ。

 トボトボ歩いていて、ふと後輩が話していた話を思い出した。

 彼女には年の離れた姉がいて昔この辺りの会社に勤めていた。姉には結婚を考えていた恋人がいたが。

 所がある夜、恋人から電話がかかってきて。


「犬神がついてくる」


「えっ? 何を言っているの? 野犬に追われているの?」


「違う‼️ 犬神だ‼️ 直ぐ近くにいる‼️ ヤバイヤバイヤバイ」


 その後恋人の悲鳴と獣の唸り声が聞こえてぶつりと電話は切れた。

 心配になった姉は、恋人のアパートに向かったが彼はそこに居なかった。

 恋人の実家に帰ってないかと電話をかけたが帰っていないとの事だった。

 暫くして恋人の実家から捜索願が出されたが、恋人は行方不明のままだった。

 数年たって山の斜面で恋人の亡骸が見つかった。

 獣に荒らされ酷い有り様だったらしい。

 財布の中の運転免許証とDNAで恋人だと分かったんだが。

 おかしな事にその亡骸には首が無かったと言う。

 獣が咥えて持って行ったのか。それとも近く川があったので川に転がり落ちて流されたのか。

 不明なままだ。

 お姉さんは数年たって別の人と結婚して今では子供も二人産まれて幸せに暮らしているんだと。


「それでね先輩。その話を聞いて私『犬神』について調べて見たんです」


「犬神?」


「そう犬神について」


 犬神は家に憑く式神で、憑いている家は栄えると言われている。


「それで犬神の作り方もネットに載っていて……」


 まず、犬を首を出した状態で地面に埋める。

 そして犬の前にご馳走を並べる。

 お腹がすいた犬はご馳走を食べようと踠くけれど食べられない。

 餓死寸前の犬の頭を切り落として、はい。犬神の出来上がり。


「うわ~えげつない」


「他にも蠱毒の作り方も載っていました」


「ああ、蠱毒なら知っている。同じ種類のムカデやら蛇やらを七匹壺に入れて共食いさせた後、最後に残った奴を呪いに使うってやつだろ」


「蠱毒は知っているんですね。まあ。有名ですものね」


 後輩は笑ってバイトがあるからと去って行った。

 彼女は旧家の出らしいが、明るい現代っ子だ。



 ヒタヒタと音がした。

 俺は振り返る。

 闇の中何かが俺の後をつけてくる。


 野犬?


 ここいらは野犬はいない。

 大学生の安全の為、保健所が野良犬を直ぐに捕まえるからだ。


 それに……


 その足音はまるで、素足で歩いている様な音だ。

 俺は首を振る。

 いくらアスファルトで舗装されていても素足は痛い。

 まして、夜とはいえ昼間の熱でアスファルトはまだまだ熱を含んでいる。

 俺は振り返り犬を見た。

 蛍光灯の灯りの外、足音はピタリと止まる。

 しばらくの間があり。

 ()()は再び歩きだし、二本の前足が見えた。


 俺は悲鳴を上げて駆け出す。


 二本の足で立つ()()は裸の男だった。

 しかし頭には犬の被り物を着けている。


 いや……


 被り物じゃない‼️


 ハアハアと息が漏れ、だらりと垂れた舌から涎が滴っている。


 本物の犬の頭だ‼️


 犬頭は俺に追いつき俺に襲い掛かった‼️

 押し倒され頭を打っ。

 俺が最後に見たのは俺に馬乗りになる犬頭と空に浮かぶ赤い月。



 ※※※※※※※※


 意識が浮上して、俺は目を開ける。

 ここは何処だ?

 身体を動かそうとしたが動かない。

 縛られて土の中に頭だけ出して埋められているようだ。

 どこからか旨そうな匂いが鼻腔を擽る。


 グー


 と腹が鳴る。

 あれからどれぐらいたったんだ?

 ふと気が付くと目の前にはあらゆるご馳走と酒が並んでいた。


 旨そうだ。

 口の中から涎が溢れる。

 俺が身動ぎして何とかご馳走を食べようとしたが……

 土に埋められた身体はピクリとも動かない。


 ああ……

 腹が減った……

 喉が渇いた……


 目の前にはご馳走が湯気を上げて俺を誘った。

 あらゆる酒や飲み物が並べ立てられている。


 ああ……

 腹が減った……

 喉が乾いた……


 毎日毎日、白装束の者達がご馳走を俺の前に並べる。

 いつまでこの拷問は続くんだ?

 目の前にはご馳走。

 しかし俺は

 食べる事が出来ない。

 意識が朦朧として……

 自分が人間なのか飢えた獣が分からなくなる。




 アア……


 ハラガヘッタ……


 アア……


 ノドガカワイタ……


 クイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイ……


 思考が食欲に染まる。


 今が何時なのか……


 自分が誰なのか……


 分からなくなってきた頃。


 何時もの白装束の男達の代わりに、巫女の格好をした二人の女が現れた。

 歳を取った女と若い女だ。


 歳を取った女の後ろにあの犬頭が控えている。


 あれ?


 若い女には見覚えがある。


 俺を先輩と呼んでいた女だ。


 女は日本刀を持っていた。


 巫女装束と日本刀、何だかチグハグだなと可笑しくなった。


 普通なら助けを求めるはずだが……


 もう今の俺は真面な思考が出来ない。


 猿ぐつわも噛まされているしな。


 巫女は歌う様に祝詞をあげる。


 センパイ……


 祝詞の最後に女の口から言葉がこぼれたが、もはや俺には言葉の意味が理解出来なかった。


 ワタシノ犬神二ナッテクダサイ


 巫女は刀を振り下ろし俺の頭を切り落とした。


 そうして俺は彼女の犬神となった。





                 完






 *********************

 2023 7 3 『小説家になろう』 どんC

 *********************


 人物紹介


 ★主人公

 大学生3年。ごく普通で平凡な頭脳と容姿の男性。

 ヤバイ後輩に目を付けられている事に気が付かなかった。

 犬の被り物を被らされ地面に埋められ犬神にされた。




 ★後輩

 大学一年生。美人で明るく成績優秀。主人公の後輩。犬神憑きの家系。彼女の一族には一人一人に犬神が憑いている。姉には元彼の犬神が憑いている。彼女が主人公に姉の話をしたのは、心の何処かで逃げて欲しかったから。主人公拉致には一族総出で関わっている。

 犬神の儀式は本家の離れで行われていた。



 ★後輩の姉

 恋人を犬神にして何時も一緒♥️

 今回は妹の為に協力して主人公を拐う。





最後までお読みいただきありがとうございます。

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