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こんにちは さようなら

作者: 夏月

    

     「     こんにちは

         はじめましてのあなた


       いきなりお手紙ごめんなさい。


       私と文通をしてくれませんか。  


          名もなきわたしより    」



 そう書かれた手紙が1通私の家に届いた。1つ言い訳をさせてくれるなら、その時の私はとても疲れていた、しかもどこか見たことのある住所だった。だから仕方なかった、名前も顔も何も知らない相手に手紙を送り返してしまったのも仕方なかった。


 手紙を送り返して2日3日経った頃に返事は返ってきた。それは前回と違い、可愛らしい桜の便箋に書かれていた。



     「     こんにちは

        手紙を返してくれたあなた


 いきなり手紙を送ったにも関わらず手紙を返してくれて

         ありがとうございます。


          とても嬉しかった。


 ここからは、最近あった世間話などを書いていきたいと

            思います。

         

         最近私は桜を見ました。

 とても綺麗で、お花見をしたいと思ってしまいました。


       嬉しさでいっぱいのわたしより   」


 手紙を読み終えてふと私は近くの公園に桜があることを思い出した。最近仕事が忙しくこの手紙を読むまですっかり忘れていた。


 そして私は、何年も前に友達に手紙を書きたくて買った紅葉柄の便箋を棚の奥深くに仕舞っていたのを思い出し、探し始めた。

  

   (季節はずれているけど可愛いからいいかな)


 手紙の返事を書き、ポストに入れ次は何時くるのかちょっぴりわくわくしながら家に帰宅するのだった。


また、2日3日経った頃に手紙はやってきた。今度は美味しそうなドーナツの便箋だ。

  

    (ドーナツの話が書かれているのかな?)



     「     こんにちは

        文通を続けてくれるあなた


      昨日私は温かい卵スープを呑みました。

       とても温かく美味しかったです。


        ほっこりとした気分になり、

       夜はよく眠ることが出来ました。


        寝坊してしまったわたしより  」



 スープかぁいと、つい突っ込んでしまった私は悪くない。それにしてもスープかぁ、最近温かいご飯を食べていないのを思い出した。


     その日はむろん温かいスープを呑んだ。


           (ほっこり)


 あれから、私は便箋を買い足した。今日は星柄の便箋で手紙を書こうと思う。便箋まで買って、私はなんだかんだこの文通を楽しんでいる。


         (次はいつ届くのかな)




 もう何回手紙のやり取りをしたのだろう。手紙の内容は毎回異なるが、だいたいは見たものだとか、行ってみたい場所など他愛も無いことが綴られている。この時私は、この名前も知らない相手に会ってみたいと思った。


         (書いてしまった)


       (会いたいと書いてしまった)


 手紙を送って何日経っただろう。返事はこない。書かない方がやはり良かったのだろうか。不安が込み上げてくる。


 それからまた2日経った頃だった手紙が返ってきたのは。




    「  この手紙を書いていた娘の母です。


          お恥ずかしながら、

   娘が文通をしていたことを知ったのは最近でした。


     実は娘は病気で今月になくなったのです。


     もし、叶うなら会うことはできますか?

 娘とどのような手紙のやり取りをしていたのかだとか、

         聞かせてくれませんか?


          返事を待っています。   」



 頭が真っ白になった。どういことだ。病気?なぜ?混乱しているはずなのに、あのとき感じた親近感ある住所は私の行きつけである病院だったことを今思い出した。


          返事を送った。


 返事は思いの外早くきた。日時、場所などがシンプルな便箋に書かれてやってきた。



 雨が降っている空の下、傘をさして歩き出した。私はあるカフェの前で足を止めた。

  


   「あなたの娘さんと文通をしていた

             青木美空といいます。」


   「私は野田小春の母、野田晴野といいます。」


 私はここで初めて文通をしていた彼女の名前を知った。

会ったこともないけれど彼女らしい名前だと思った。


 彼女の母親とはいろんな話をした。いきなり手紙がきただとか、どんな内容だったのかとか。


 そして私は彼女についてもたくさん知ることが出来た。


       彼女は高校生だったということ。


       彼女は小さい時から体が弱く、

       入院退院を繰り返していたこと。


    私と文通し始めた時頃から笑顔が増えたこと。


 本当にいろんな話をした。最後に彼女の母親は泣きながらお礼を言い、手紙を1つ残して帰っていった。その手紙はもうすぐで自分は亡くなることを悟った私宛の遺書だった。


       「   さようなら

        こころやさしいあなた


     いままでありがとうございました。


    わたしはあなたのてがみにすくわれました。


   もうてがみをかくことのできないわたしより 」


 弱々しい字で書かれていた手紙には「こんにちは」とはもう書かれてはいなかった。


 違うんだ。救われたのは私の方なんだ。あのとき私は死のうとしていた。そこにきたのがあなたの手紙だったんだ。あなたとの手紙を読むのが楽しくて、私はもっと生きたいと思えたんだ。



 外はまだ、雨が降っている。彼女の机にも水溜りができるほど激しく雨は降り続けた。







    「    こんにちは小春ちゃん


           ありがとう。


          私はもっと生きて、

  小春ちゃんが教えてくれたように次は私が教えます。


         その時は手紙ではなくて、

         会ってたくさん話しましょう。


             美空より      」

   



 





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― 新着の感想 ―
[一言] 投稿、ありがとうございました
[一言] 手紙の文章に惹かれて読んでいたらまさかこんな話に展開するなんて。 とても感動しました。 少女が勇気を出して始め、主人公が気まぐれで返した文通が、お互いの心を救ったのですね。 ラストの「違うん…
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