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婚約破棄が流行る国

作者: もりかぜ

卒業式の夜会は、厳粛で華やかに進んでおりました。

我が国では、卒業と共に一人前の大人として扱われる事になります。


その様な晴れ舞台です。

皆、大人の仲間入りを果たせて喜びにあふれておりました。


「エクレア!何処にいる?

 言いたい事がある!出てこい!」


中央のお立ち台に王太子であらせられるレポルド様が

男爵令嬢のルナマリア様と共に立ち並んでおりました。


どうやら、婚約者であるエクレア、まあ、私の事なんですが・・を呼んでいるようです。


私、エクレアは、アークラント王国の筆頭公爵、ドルチット公爵の令嬢です。

5歳の時に殿下の婚約者として誼を通じておりました。

才も美麗もある殿下を慕うのは当然の摂理だった気もしております。

殿下も私の事は悪くなく思って頂いていたと信じていました。

けれど、

学園に入学や否や、あれほど親しかった殿下は、私と接する事がなくなりました。

替りに生徒会に入っていたルナマリア様といつも一緒に居るようになったのです。

王太子妃教育で宮殿に行った際にお会いしたときも、驚いた顔をした後、挨拶もなく、いなくなってしまうのです。


そして、つい先日。

わが公爵家の影より、殿下がこの夜会で婚約破棄を計画しているとの情報を得たのです。

しかし、このような場で婚約破棄などという愚行を犯すお方ではないと思っておりました・・・が・・・


ふう、どうやら、愚かな方だったようで・・・

とはいえこのままでは良くないので、仕様がないですがお立ち台に向かいます。


「殿下。エクレアはここに」

「おお。レア。居たか。

 レア。一つ確認したい。

 先日、ルナマリアを突き飛ばしたのは事実か?」


「突き飛ばした等とは、ただ、殿下がお疲れの様子だったので触れようとしたところを

 ルナマリア様が間に割って入っただけでございます。」


「はあ。そうか、そういう回答になるのか・・・・」

殿下はふうと一度ため息をつくと、

「レア。私は、この婚約にほとほと愛想が尽きた。

 この場をもって、破棄する!」

「謹んでお受けしますが、何故破棄なのでしょう?

 双方の話し合いで婚約の解消の方が荒波も立たずよいのではないのでしょうか?」

「否、解消であれば、今までの証跡も立ち消えてしまう。

 破棄とさせてもらおう。」

「承りました。殿下、少々気分が悪いので、お暇致します。」


私は、そう言って淑女の礼をし、去ろうとしました。

察した侍女が私の傍へと駆けつけようとしたのですが


ルナマリア様が間に入り、邪魔をしたのです。

そして、

「どうしたのだ?何処に行くというのだ?

 本命はこれからだぞ?」


そう、元婚約者様が告げるのでした。


§


「さて、ドルチット公爵令嬢。君は何処まで婚約の規約を読んでいる?

 ま、先程の反応から見るに、全部知らなそうだが・・・」

「婚約はお父様と陛下の間で取り交わしたものと伺っておりますわ。

 私も最近確認は致しましたが、何か瑕疵の部分が御座いましたでしょうか?」

「うーん。そうか・・・。

 君は変な所がないと言う認識なんだね。

 まあ当然か。契約内容が異なっているのだろうな。

 ・・・・其処までか・・と言うべきか、さもありなんというべきか。」

「えっと・・・どういうことでしょう?」

「まあまあ、一先ず聞きなさい。

 知ってたかい?学校で授業に関わらない会話や振れあいをしたら、婚約は白紙に戻るんだよ。」

「は?」


「さらに、この夜会が終わった後、君はどうする予定だった?」

「どうする・・とは?」

「うん。婚約の規約では、学校卒業後、公爵領に2年間引き籠り、運営の勉強を実践方式で行うことになっている。

 その間は我々は逢う事も手紙のやり取りも禁止だそうだ。」

「は?え?」

「その2年が終わった後、今度は王太子妃教育を1年かけて行うそうだ。」

「あの・・・お言葉ですが、既に王太子妃教育は殆ど終わっておりますが・・・」

「そう。だから吃驚したよ。卒業後に行うはずの王太子妃教育を既に行っているのだから。

 それも王宮で。」

「王宮で?」

「うん。契約では、公爵家で公爵当主が手ずから教育することになっている。」

「・・・お父様が?

 ・・・申し訳ありません。

 情報が多過ぎて、混乱しております。

 でも、私の契約にはそのような内容は・・・」

「あー。そうだろうな。

 契約に差異や齟齬があった場合、婚約を白紙に戻すことになっている。

 

 

 

 ・・・ただ、まあ、白紙になったらショックで公爵も君も領内に引き籠っちゃうかもって脅されてたけど・・・」

「・・・お父様・・・」


ああ・・・

話を聞けば聞く程、頭を抱えてしまいたくなります。

確かに、私はお父様に溺愛されている自覚はありました。

その溺愛が行き過ぎな部分があることも。


そのせいで、お母様が私に強く当るのも自覚しております。

とはいえお母様の場合は、私を嫌ってではなく、

お父様の溺愛を見て、私の未来に危機感を覚えたからでしょう。

何せ、お父様に任せていたら

 "家庭教師に逢わせるとエクレアが減る"

と言って勉強をさせなかったり

 "お茶会も夜会も出る予定も行く予定も無い。"

と言ってダンスもお茶も教えて貰えなかったくらいです。


え?お母様は大丈夫なのか?ですか?

お父様と一緒に居る時、

お母様の足は地に着いた所を見たことありません

お母様の手は物を掴んだ所を見たことありません


お父様もお母様もご多忙のため、

家族が揃うのは月に10日程度ですけれども


そんな溺愛のお父様ですから

お母様が私と弟をお父様から引き剥がし

教育して頂いていなかったらどうなっていたか・・・


ふう、と息を吐き

「その件につきましては」

と言ったのは良いけれど、多分謝罪は間違っている気がします。

「心中お察しいたします。」


そう、レポルド様は王太子。

これから外遊もあるでしょう。

そんな状況で婚約者が領内に閉じこもり、逢えも連絡も出来ないなんて

醜聞も良い所です。

なんというか、聞けば聞くほどどうしてこんな契約の婚約を結んだのか・・・


「ああ。うん。ありがとう。

 でも、もう良いんだ」

そう語るレポルド様が私の方へと近づいてきます。

「ねえ。レア。知ってる?

 婚約の白紙。つまり解消した場合は、再度婚約可能なんだ。

 破棄と違ってね。」

「え、ええ。存じています。

 破棄は、再度の婚約は行えないのです。

 で、殿下?もう、婚約者ではないので、あ、愛称は・・・」

そう、忠告しますが、聞いてもらえず・・・

聞いて貰えない所か、レポルド様は髪にキスを落としながら話を続けてきます。


「そう。

 そして、我々はこの卒業を経て、

 当然家の事は当主の許可が必要だけど、

 自分のことなら多少なら決定できるようになった。

 後、殿下じゃなくて、ルドかレポルド・・だろ?

 私のレア」


何故、糖度が増すのでしょうか?

不思議です。

あれ?私、婚約破棄されたはず?

先程の事柄と、今されている甘さに混乱していると

耳元で

「僕はね、もともと君を手放す気はないんだ。」

と囁き、あまがみさ・・

その衝撃で腰が砕けそうになるのを必死に耐えます・・・


「先の話で、既にエクレアは王太子妃の教育を修めている。

 つまり、既に妃になることが可能だと言えるだろう。

 そして、婚約の破棄は、再度婚約出来ないのではなく

 婚約を再度経る必要がないと言える。」

まだ、先程の が抜けきっていない私の唇に殿下は指を這わせて・・・


「だからね、レア。僕と結婚しよう。僕を慕ってくれているなら。」

軽く、頭が付いてこない私にそう・・・訪ねてきました。

「はい?あ、お慕いはしております。け」

けれど、家と家との話なので

そう続く言葉は、レポルド様に封されてしまいました。

そして、離していくのを惜しむのか、私の唇を優しく舐めてから

顔が離れていきます。

ひやっ、とも、ひゆっとも言えず、くらくらしている頭に

レポルド様の宣言が入ってきます。


「これにより、レポルドとエクレアの婚姻の儀は成った。

 これは簡易契約である。

 正式な結婚契約は、後日神前にて式を行われる。

 しかし、簡易でも契約は契約だ。

 そして、この契約の立ち合い人は、此処にいる皆である」


言い終えた瞬間、歓迎の声が響きました。

遠目ですが、

まるで恋物語で浮かれているような令嬢達と

なにか英雄譚を聞いたような令息達がいました。


「さて、早速だけど父上に話して今後の日程を決めないとね。」

そういうと、横に抱き上げて会場から出ていこうとします。

そう、誰も止める事なく。


「お、お嬢様!」

ごめんね。ダリア(侍女)私も貴女と一緒で

この早すぎる展開においていかれてるの・・・・


§

結局

王宮迄連れていかれた私を待っていたのは

両陛下でした。

事の次第を聞いた陛下は、一言

「少々強引だが、よくやった。」

と述べられました。

王妃陛下は

「本当強引でごめんなさいね。

 本当は嫌だったら、撤回させるから言ってね。」

と労って?頂きました。

・・・嫌では、多分嫌ではないので曖昧にお返事させて頂きました。


事の次第を聞いたお父様は

私の奪回軍事作戦を計画し始めたそうですが

お母様が追認の手紙を出した事で頓挫。

かなり落ち込んだらしいですが、お母様が慰めているそうです。


そして、最後にお母様と王妃陛下からは、一言頂きました。

今でも、これには悩まされています。


「この国の男に嫁ぐ以上、糖度はかなり覚悟しなさい。」



§§

レクエアと結婚してから早5年が経過した。

僕との間に2人の子を授かった。

嫡男のダニエルは既に4歳。

おとうたま、おかあたまと言って付いてくる姿はとても愛らしい。

我が家の、否、我が国の宝だ。


もう一つの宝は長女のピューレ。

まだ、妻の腕の中からは離れられないが

二人の姿は神々しく見て取れる。


そんな3人の姿を見惚れた後、今日の新聞を開いた。


「何か、面白い記事でもありましたか?」

そんな僕の姿を見て、穏やかな顔をしている妻が訪ねてきた。


「うん。今我が国では、婚約破棄が流行っているようだ。」

「あら。それは大変では?」

「うーん。それに比例して、結婚率と出産率が増えてるから良い傾向なんだと思うよ」

はて?なんで婚約破棄が増えると結婚、そして出産が増えるのだろうと首を傾げる妻を見て

微笑ましく眺める。

そして、そんな妻に抱かれている愛らしい娘を見ると

この婚約破棄の流行りは数世代続きそうだと

そんな予感を感じていた・・・。

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