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夢オチっぽいプロローグ

 「エリザベス、君との婚約は破棄させてもらう。私は真実の愛を見つけたんだ」


 アガペール王国国立記念パーティー、その会場で侯爵令嬢エリザベスは、アガペール王国第一王子、アランに婚約破棄という衝撃の事実を伝えられた。


 「……なにをおっしゃっているのかしら?アラン様、冗談にしては笑えませんわよ」


 エリザベスは優雅で余裕のにじみ出る態度を崩さずアランに問いかける。

 しかし、その態度は去勢にすぎない。幼いころから婚約者として過ごしていた相手から一方的に婚約破棄を告げられた。動揺するなという方が無理な話だ。


 「君とは婚約破棄すると言っているのだ。私はマリアと結婚させてもらう」


 そして、アランの背中から小柄な女が現れた。

 桃色の髪、幼い顔立ち、その体系に不釣り合いなほど大きい胸。

 ……異性の庇護欲と情欲を掻き立てるような容姿だ。


 その女、男爵令嬢マリアは、王子に縋りつくように触れながらエリザべスを見ていた。


 「君がマリアを学園でいじめていたのは知っている。私と親しくしているマリアが気に入らなくていじめたそうだな。……正直、君がそんなことをするなんて信じたくはなかったが、たくさん目撃証言があるんだ。言い逃れはできないぞ」


 「!?」


 エリザベスにとって、それは身に覚えのない冤罪だった。


 (嫉妬にかられたですって?ありえませんわ。なぜ私が?)


 そもそもエリザベスには、第一王子アランに対する恋愛感情などない。

 自分が幼いころに親同士が決めた政略結婚。共に過ごすうちに愛が芽生える可能性も当時は考えたが、結局その時は訪れなかった。


 そのエリザベスが男爵令嬢に嫉妬など、あり得るはずがないのだ。


 「なぜ私がマリアに嫉妬しなければならないのですか?動機が不十分では?そもそも、その目撃証言は信用できるものなのですか?」


 反論した瞬間、エリザベスは確かに見た。


 ……アランの隣で震えていたマリアが、邪悪に(わら)うその顔を。


 「目撃者は13名。名前は伏せるが、全員この国を支えた優秀な貴族の家の出である令嬢令息だ。それほど地位を持つ人間が、全員同じ証言をしている。お前がマリアをいじめていたとな」


 アランが目撃者の信用性を告げる。

 思わず笑いがこぼれそうになるほど薄っぺらな根拠だ。エリザベスにとっては。


 だが、まずい。


 王権政であるアガペール王国で、権力というのは根拠を捻じ曲げてことを進められるほどの力がある。そこその高い地位の貴族が10名以上いるのだ。


 確実なアリバイを用意しなければ。エリザベスが無罪を証明するにはそれしかない。


 「状況を詳しく教えていただけますこと?必ず私の無実を証明いたしますわ」


 だが、王子が告げたエリザベスがマリアをいじめた時間帯は、エリザベスが一人で行動していた時間帯とかぶっていた。

 これではアリバイが用意できない。エリザベスの敗北だった。


 「……私は、無罪ですわ」


 エリザベスには、弱い声でそれでも無罪を主張するしかなかった。


 「アラン様ぁ。わたし、エリザベス様が近くにいると、怖くて怖くて震えてしまいますぅ」


 わざとらしく男に媚びる動作。エリザベスには、マリアの全てが憎く見えた。そんな演技に気付かないアランにも、同じほどの憎しみを抱く。


 「エリザベス。お前を侯爵令嬢の地位を剥奪したうえで、国外追放とする」


 「そんな!?あんまりですわ!?」


 もちろん王子には、侯爵令嬢の処分を決めるような権限はない。それを持つのは国王だ。

 

 だが、国王はアランに甘い。どれくらい甘いのかというと、そもそのこのような暴挙をするような人格を形成するほど程度の低い教育を施すほどに甘い。


 その国王なら、本気でエリザベスを追放しかねない。


 「すぐにお父様にお話ししなければ」


 憂鬱な気分になりながら、エリザベスは馬車に乗って自分の屋敷に帰るのだった。




 ☆




 「なのにどうして殺されかけてますの!?展開が早すぎですわ!?」


 現在、エリザベスが馬車で帰る途中、森を通り抜けるまえに馬が突然暴れだし、落ち着かせている隙に馬車の運転手が殺された。

 そして、エリザベスも殺される……はずだった。


 「大丈夫か、エリザベス!」


 エリザベスに凶刃を振りかざす暗殺者の首をはねて爽やかに声をかけたのは、第一王子アランの弟にしてアガペール王国第二王子、ジーニアスだった。




 ☆




 「状況はすべて把握しているよ。けど、国外通報じゃ飽き足らず、君を殺そうとするなんて……正直予想外だ。あの女の悪辣さも、兄上の愚かさも」


 「状況を理解していながら、なぜ殺されかけるまで手を貸してくれなかったんですの?」


 エリザベスは、第二王子ジーニアスに少し憤っていた。あの場を視界に収めていたのなら、少しは助けてくれてもいいじゃないかと。


 「あの場であの女に対抗するのは不利だった。あの女自身は大した力はない。けど、あの女に味方している奴は厄介な人間が多い。まったく、男という奴は単純だ。あの女にコロっと騙されて……。とにかく、あのパーティーはあの女が君に入念に準備して用意された処刑場だ。俺が手を貸したところで、あそこはあの女の独壇場(どくだんじょう)のままだっただろう」


 「あなたほどの人物が、そこまでおっしゃいますの」


 エリザベスは、ジーニアスの能力を知っている。


 質実剛健、聡明叡智。幼いころからその才能は周囲に認められていた。

 王子に対し行われる帝王学、歴史、礼儀作法、政治などの教育課程を通常の十倍の速度で終わらせたという規格外の才能の持ち主。


 現在、次期国王はアランだと噂されているが、アランなどよりジーニアスのほうが国王の座を継ぐにふさわしい。それは婚約破棄される前からエリザベスの本音だ。


 それほどの男がここまでいうのか。


 「正直あの女……マリアといったか。厄介な女だ。自分の能力の平凡さを自覚しているのだろう。君を陥れるための計画を練るのはほとんど人に任せている。優秀な男にな。男を誘惑するすべだけは、どの娼婦にも勝るだろうよ」


 「……なんと汚らわしい」


 誇り高き貴族が男に媚びを売るなど、エリザベスからしたら考えられない生き方だ。心底侮蔑する。


 「あながち馬鹿にできん。令息には媚びを売り、令嬢には君への敵意を煽ることであの女は味方を増やし、エリザベス。君を追い詰めた。あの女は、たかが男爵令嬢と侮っていい存在ではない」


 「では、このまま泣き寝入りしろと!?」


 侯爵令嬢エリザベス。貴族の肩書は伊達ではない。その誇りを汚されたまま、娼婦もどきの能無しに敗北するなど、断じて許せるものではない。


 「確かにあの女に味方するものは多い。だが、第二王子である俺の味方はそれ以上に多い。無能な第一王子と見た目以外とりえのない男爵令嬢よりもな。俺の手をとれエリザベス。奴らを断罪し、俺たちがこの国の上に立つ」


 「勿論ですわ!」


 そこからはとんとん拍子に話が進んだ。


 嘘の目撃証言をした令嬢令息には親の弱みを握り脅して、目撃証言を取り下げてもらった。

 たまたまエリザベスが一人で過ごしていたところ見かけた生徒を探し出し、アリバイを証明させた。


 第二王子の人脈を駆使した人海戦術あってのことだ。


 そして、侯爵令嬢を陥れようとした罰として、男爵令嬢マリアと第一王子アランは牢屋に収監された。




 ☆




 「気分はどうだ?兄上。いや、アラン」


 「……ジーニアス」


 鉄格子を間に挟みながら、ジーニアスはアランに話しかける。


 「正直、兄上は馬鹿だが愚かではないと思っていたよ。なのにあんな女に騙されるなんて……」


 「マリアは俺をだましてなんかいない。……お前にはわからないだろうな。愛を知っているお前に、俺の気持ちは」


 「?」


 ここでジーニアスは、兄に対して初めて疑問符を浮かべた。

 なぜ、女への愛ゆえに侯爵令嬢を殺そうとした男が、愛を知らないとでも言いたげな言い方をするのか。


 しかし、それはどうでもいいことだと即座に切り捨てた。


 そして要件を突き付ける。


 「毒の杯だ。それを飲め。このまま牢で一生を終えるか、民衆に罵倒されながら殺されるよりよっぽどいい死に方だろう。これは、弟としての最後の温情だ」


 差し出された毒の杯を受け取ったアランは、ジーニアスに一つ望みを訴えた。


 「マリアに会いたい」


 それは、共に囚われた女のことだった。


 「ああ、あの女は死んだぞ。お前と違って温情をかける理由もないから無様に死んでもらおうと思ったが、その前に舌を噛み切って自死してしまった。苦しめることができなくて残念だ」


 「…………そうか」


 そしてアランは、魂が抜けたような表情で、力のない腕で杯を持ち上げ、中身を呷り、ゆっくりと……眠るように死んでいった。




 ☆




 「これが、あの二人の顛末(でんまつ)だ」


 「まあ。舌をかみ切るなんて野蛮な。ギロチンでの処刑なら楽に死ぬこともできたでしょうに」


 「そんな楽な死を俺がさせると思うか?」


 そんな物騒な話を、エリザベスとジーニアスは優雅に紅茶を飲みながら行っている。

 和やかな雰囲気には似合っていない


 だが、その話を聞ける人物はいない。ここは王子が使う執務室。無断での立ち入りは禁止されており、ノックもせず入ってくればその人物の首と胴体は永遠の別れを告げることになる。


 「でも、よかったの?兄を死なせてしまって」


 エリザベスは、ジーニアスの笑顔に隠れているわずかな悲しみを察して、言葉を投げかける。


 「……アランは自分より優秀な俺の存在をずっと疎ましく思っていた。そして、俺もそんな兄と関わることを諦めた。そんな兄にかける温情は、あの程度で十分だ。それに、アランは許せないことをした。それは、君を悲しませたことだ」


 「え……?」


 「でも、ある意味良かったのかもしれない。アランが婚約破棄したことで、君は誰とも婚約が決まっていないまま、今俺の目の前にいる」 


 「ジーニアス様?」


 エリザベスの心が舞い上がる。いやまだ早い、勘違いかもしれない。

 そうは思うものの、湧き上がる気持ちが抑えられない。


 思わず顔が赤くなる。

 ……赤くなったのは、エリザべスだけではなかった。


 「エリザベス。どうか俺と、結婚してくれないか?兄上がいたから、俺はずっとこの気持ちを抑えていた。だがもう兄上はいない。俺はずっと昔から、お前のことが……好きだったんだ!」


 「わ、私もです。私も、あなたのことが、ずっと好きでした。アラン様がいたから、この恋は叶わぬものとずっと抑えて、何とかアラン様を愛そうと……でも無理でした!私の方こそ、ジーニアス様と結婚させてください!」


 そして、愛し合う二人が結ばれ、優秀な王と王をかいがいしく支える優秀な王妃のおかげで、アガペール王国はますます栄えるのだった。











 そんなハッピーエンドで終わる悪夢を見て、アガペール王国第一王子、アラン・アガペールは目を覚ました。


 「今のは……夢、なのか?」


 

夢オチじゃないから!まだ続くから!

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