女装した俺と幼馴染の疑似百合カップルがSNSでメッチャバズってる
「ああ! ちょ、ちょっとだけ待ってくれ未玖!」
「へっへーん、待ったないよーっだ。それそれー」
「ああッ!!」
「イッエーイ! 私の勝ちー」
今日も幼馴染の未玖の部屋で、最近人気の格闘ゲーム『公務員ファイター』に興じる俺と未玖。
家が隣同士なこともあり、子どもの頃からほぼ毎日この部屋で遊んでいるので、最早自分の部屋みたいなものだ。
それにしても、未玖のやつまた腕を上げたな。
まったく、昔から勉強はからきしのクセに、ゲームだけは上手いんだからな。
「さーてと、罰ゲームは何をやってもらおっかなー」
未玖が舌舐めずりをしながら、グヘヘヘと下卑た笑みを浮かべる。
公務員ファイターで負けたほうが、罰ゲームで勝ったほうの言うことを聞くという賭けをしていたのだが、女の子がしていい顔じゃないだろ……。
本当にこいつは。
黙ってれば可愛い顔してるんだがな。
「言っとくが、あんま金のかかることは勘弁してくれよ」
お互いまだ高校生でバイトもしてないし。
「へへへー、オッケーオッケー。そうだにゃー、何にしよっかにゃー。――あ、そうだ!」
「?」
未玖が目尻を下げながら、口角をいやらしく吊り上げた。
あ、この顔は何か悪巧みを思いついた顔だ。
「前から思ってたんだけどさー、流威って結構中性的な顔してるじゃーん?」
「? そうか?」
自分じゃあんまそうは思わないけどな。
ただ、それと罰ゲームの何の関係が?
「だからさー、ちょっと今から女装してみてよ」
「…………は?」
「私の服貸すからさ」
「――!?」
はあああああああ!?!?
「う、うっひょおおおおおお!!! ヤバいヤバいヤバいヤバい!! メッチャ可愛いよ流威ー!!」
「あ、あんまジロジロ見んなよ! ハズいんだから!」
うううぅ……。
まさかマジで女装するハメになるとは……。
未玖から服を借りただけでなく、黒髪ロングのカツラを被らされたうえバッチリメイクまでされたので、思いの外本格的になってしまった。
それにしても、当然ながら初めてスカートというものを穿いてみたが、足がメッチャスース―して落ち着かない。
よく女子はこれで生活できるな。
「大丈夫大丈夫! マジのマジで流威可愛いから! ホラ、見て見て!」
「――!」
目の前に置かれた姿見を見て、思わず絶句した。
そこにはラノベの表紙に出てきてもおかしくないくらいの、清楚系美少女が佇んでいたのである。
こ、これが、俺……!?
「ね? 私が言った通りギャンカワでしょ?」
「う、うーん、そうかなー」
ここで肯定すると未玖が調子に乗りそうだから、あまり頷きたくないな。
「もーう、ホントは流威もわかってるクセにー。――へへへへー、はい、チーズ」
「っ!? 未玖!?」
その時だった。
未玖が俺の肩を抱いて頬を寄せながら、スマホで俺たちを自撮りした。
うおおおおおおい!?!?
何やってんだお前はあああああ!?!?(二重の意味で)
「未玖、お前、何のつもり――」
「きゃあああああ!! これはマジてぇてぇ! 完全に百合ップルじゃん! ホラ見て見て!」
「――!?」
目の前にグイと出されたスマホの画面を見ると、そこには清楚系美少女と小悪魔系美少女が頬を寄せ合うという、その手の趣味がある方々なら大歓喜確定の画が表示されていた。
こ、これは、確かに……!
「こりゃ100億%バズり間違いなしっしょ! 早速投稿しちゃおーっと。ホイ」
「は!? 未玖、お、お前まさか――!?」
慌てて未玖からスマホを奪うと、そこには『私の彼女』というコメントと共に、先ほどの画像が添付されたSNSの画面が表示されていた。
えーーー!?!?!?
「未玖ううううう!!!! 何してくれてんだお前はあああああああ!?!?」
「まあまあ流威、あんま怒ると健康寿命が縮むよ?」
「どの口が言ってんだッ!!」
ああもう、こんなの知り合いに見られたら、完全に人生が終わる……。
「あ、あれ!? 何かスゴいことになってるよ流威!」
「え? ――!!」
ふと画面を見ると、スマホがブッ壊れたんじゃないかってくらい、もの凄い勢いでいいねが増えていた。
コメントも集中豪雨並みにドバババッとついている。
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『あら^~』
『キマシタワー!!!』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『これは推せる』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『いいですわゾ^~これ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『左の娘男じゃね?』
『それはそれでアリ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぉてぉ』
『てぇてぇ』
『あなたが神か』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『だが男だ』
『てぇてぇ』
『公式が最大手』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『拙者女装男子大好き侍』
『同志よ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
驚異のてぇてぇ率!!
よく見ると『てぉてぉ』が交じってるし(何て発音するんだ?)。
それにしても、流石に俺が男だってことはバレてるみたいだな。
そのうえで俺と未玖の疑似百合ップルをみんな楽しんでいるというのか。
……日本人は何て業が深いんだ。
「FOOOOOO!!!! これは完全に私たちの時代がきたねッ! 乗るしかない、このビッグウェーブに!」
「未玖!?」
未玖はフハハハハと魔王みたいな高笑いを上げながら、ノートパソコンのキーボードを残像が出るくらいの速さで叩き始めた。
駄目だこいつ……早く何とかしないと……。
「よし完成! ホラ流威、これが私たちのチャンネルだよ」
「っ!?」
未玖に向けられたパソコンを見ると、そこには『ルイミクチャンネル』という名前の、ユンチューブのチャンネル画面が表示されていた。
えーーー!?!?!?
「早速ライブ配信いってみよー。ポチッとな」
「未玖ッ!?!?」
お前心のブレーキブッ壊れてんのかッ!?!?
「はいどーもみなさんこんにちはー。現役JKユンチューバーのミクでーっす。そしてこちらが私の彼女のルイちゃんどぅえす!」
「オ、オイ、未玖!」
未玖が俺に抱きついてきて、頬擦りをしてくる。
ふおおおおおおおお!?!?
「わあっ、早くもたくさんの人が来てくれて、とっても嬉しいでーっす。是非みなさん、チャンネル登録と高評価、よろしくお願いしまーっす」
「っ!」
確かに未玖が言う通り、視聴者数がエグいくらい伸びている。
コメントも追いきれないくらいの速度で流れていく。
どうやら先ほど投稿したSNSに、このチャンネルのリンクを貼って誘致したらしい。
こいつマジで、将来はベンチャー企業の社長とかになるかもな……。
「因みにみんなもう気付いてると思うけど、ルイは実は男の子なんだ。女装が趣味で、たまにこうして私の服を貸してあげてるの」
「未玖ッ!?!?」
どんどん俺の黒歴史が捏造されていく!!!
お前マジで、後で覚えてろよ!!
『男の娘キターーー!!!!(大歓喜)』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『アリよりのアリ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『ルイはワシが育てた』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『一生ついていきます』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『男の娘で優勝していくことにするわね』
『てぇてぇ』
『てぉてぉ』
『てぇてぇ』
『拙者男の娘大好き侍』
『同志よ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
また『てぉてぉ』が交じってんな!!
絶対さっきと同じ人だろ!?
みんな何でそんな秒で女装男子を受け入れられてんの?
『実を言うと、地球はもうだめです』なの?
「質問があったら答えますよー。ん? 何何? 『二人の馴れ初めは?』とな。いい質問ですね!」
「未玖ッ!!」
頼むからお前はもう黙っててくれ!
あといい加減俺から離れてくれ……。
その、いろいろとお前の柔らかいものが当たっていて、その……。
「ルイと私は幼馴染なんだ。――私は子どもの頃からルイのことがずっと好きでね、最近やっと付き合えたの。だから私は今、とっても幸せ!」
「――! 未玖……」
未玖はニコニコと満面の笑みを浮かべている。
「大好きだよ、ルイ」
「――!!!」
――くっ。
「……未玖、配信を止めろ」
「……え? な、何で、ルイ?」
「いいから止めろッ!!」
「――!!」
おずおずと俺から離れ、パソコンを操作する未玖。
クソッ、あんな幸せそうな顔で大好きなんて言いやがって。
……俺の気も知らないで。
「どうしたの流威? そんな大きな声出して、らしくないじゃん」
「どうしたのはこっちの台詞だ。お前こそ、いくら有名になりたいからって、視聴者を騙すのは間違ってるだろ」
「だ、騙すって!? 私は何も噓はついてないよ!」
「ついてるだろうが! 俺たちは別に、付き合ってはないだろ!?」
「そ、それは……!」
「それなのにあんなリアルな表情で『大好き』なんて演技しやがって。とんだ名女優だよ、お前は」
演技で未玖の口から『大好き』なんて言葉を聞きたくなかった。
子どもの頃からずっと秘めてきた未玖への恋心を、こんな形で弄ばれるとは、な……。
「……演技じゃないよ」
「…………は?」
未玖がいつになく真剣な表情で、俺をぐっと見つめてきた。
み、未玖……?
「演技であんなこと言えるわけないじゃん! ――私はマジで、子どもの頃からずっと流威のことが好きだったの!」
「――!!!」
……未玖。
「それなのに私の言葉を勝手に演技だって決めつけて。もう、流威のバカバカバカ!」
「……」
未玖は半ベソをかきながら、俺の胸に顔を埋めてポカポカ叩いてきた。
……くっ!
「ゴメン未玖! お前の気持ちに気付けなくて! ……俺もずっと、お前のことが好きだった」
俺はそっと、未玖を抱きしめた。
「ホ、ホントに!?」
「ああ、ホントだ」
顔を上げた未玖は、パアアアッと太陽みたいな笑顔になった。
うん、やっぱ未玖は、笑顔のほうが似合うな。
「ホントにホント!?」
「ホントにホントだ」
「ホントにホントにホント!?」
「ホントにホントにホントだ」
「ふわああああああん、流威、大好きだよおおおおお!!」
「俺も、大好きだ、未玖」
俺と未玖は、お互い強く強く抱きしめ合った。
……やれやれ、まさかそんなに前から両想いだったとはな。
どこの三流ラノベ展開だよ。
「えへへへー、流威――。んっ」
「――!」
未玖は頬をほんのりと染めながら、そっと目を閉じた。
未玖――。
「んっ」
「んふぅ」
俺は未玖の唇に、長年の想いを込めたキスを落とした――。
未玖の唇は、俺が今まで触れたどんなものよりも、柔らかかった。
「……ん?」
その時だった。
視界の端に、ふとパソコンの画面が入った。
――そこには俺たちのキス動画と、夥しい数のコメントが映っていた。
ハアッ!?!?!?
「ちょっ!? 未玖、配信は止めたんじゃなかったのかッ!?」
「あ、ゴメン、まだ止めてなかったわ。てへぺろ」
「っ!?!?」
てへぺろじゃねーわッッ!!!!
『両片想い幼馴染カップル成立キターーー!!!!(大歓喜)』
『てぇてぇ』
『てぉてぉ』
『神に感謝』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぉてぉ』
『てぇてぇ』
『好みの画像だったんで保存した、さらばだ……』
『てぇてぇ』
『てぉてぉ』
『てぇてぇ』
『一生ついていきます』
『てぇてぇ』
『てぉてぉ』
『やってみせろよ、ルイ!』
『何とでもなるはずだ!』
『男の娘だと!?』
『鳴らない言葉を(ry』
『てぉてぉ』
『てぇてぇ』
『てぉてぉ』
『拙者男の娘×小悪魔系美少女大好き侍』
『同志よ』
『てぉてぉ』
『てぉてぉ』
『てぉてぉ』
『てぉてぉ』
『てぉてぉ』
『てぉてぉ』メッチャ増えてる!!
これは流行る(確信)。
――この日、『ルイミクチャンネル』の登録者数は、10万人を突破した。