余命半年の天使〜最期の花火は君と〜
『青春』この言葉は嫌いだ。
何が青い春だ。
俺には無縁の言葉である。
俺、碓氷翔太は今年で高校二年生になる。
周りは皆んな青春という青い春を楽しんでいるように思う。
俺だけ、灰色の世界に取り残されているようだ。
そして、追い討ちをかけるような出来事が俺に襲ってきた。
「余命1年です」
診察室の中で、医者の言葉が響いた。
親と一緒に来て欲しいという時点で、なんとなく察していた。
しかし、こうして自分が余命宣告を受けると、言葉に表せないものがある。
衝撃というか、実感が湧かないというか、そんな感じだ。
「そ、そんな……」
隣に座る母親は医師の言葉に涙を流す。
「もう、治らないんですか……?」
母は医師に必死な表情で聞く。
「正直、完治は厳しい状況です。投薬で延命治療をすることは可能だと思いますが」
俺は衝撃で言葉が見つからなかった。
もはや、涙を流すということも出来なかった。
『余命1年です』
医者のその言葉が何度も俺の脳内で反響する。
「翔太……」
母も俺にかける言葉は見つかっていないらしい。
それも当然だろう。
余命宣告された息子にどう言葉をかけるのかなんて、想定もしていない。
母はただ泣いていた。
『頑張って』
『もしかしたら治るかも』
そんなのはただの無責任な言葉に過ぎない。
「ちょっと、一人にして欲しい」
「分かったわ」
俺の言葉に母は診察料を払いにその場を離れて行った。
「余命……1年……かぁ」
そんな声にもならない声が宙を舞う。
なんとなく歩いているうちに、俺は病院の屋上へと来ていた。
空は雲一つない快晴。
額にじんわりと汗が滲むほどの気温だ。
そして、フェンスの側に一人の女の子が立っていた。
歳は俺と同じくらいだろうか。
真っ白なワンピースに美しい黒髪を風でなびかせている。
俺はそんな彼女の姿に見惚れてしまっていた。
「君!」
「…………」
「ねぇ、君!」
「あ、ごめん俺?」
つい見惚れてボーッとしていた。
彼女の言葉に俺は我に帰った。
「そう、君! なんか死にそうな顔してどうしたの?」
屈託の無い笑顔を浮かべた少女が俺の顔を覗き込むようにして言った。
「死ぬんだよ。一年後に」
「ふーん」
彼女は表情一つ変えずに言った。
「驚かないんだ」
「うん、だって……」
そこまで言うと彼女は少し間を開けた。
「だって、私は半年後に死ぬから」
先ほどと何も変わらぬ笑みを浮かべながら彼女はそう告げた。
「え……?」
「何度も言わせないでよ。私は余命半年。難病指定されている病気なんだ」
「じゃあ、なんでそんなに笑っていられるの?」
「最後の夏になりそうなんだから、楽しく過ごしたいじゃない」
それが、彼女なりに出した結論なんだろう。
「そういえば、君の名前は?」
「ああ、碓氷翔太」
「翔太くんか。私は影井詩乃、高校2年生だよ。よろしくね」
「俺も高校2年だ」
「同い年なんだね! ん!」
そう言って詩乃は俺に右手を差し出してきた。
「よろしく」
俺はその右手を軽く握って握手を交わす。
「これも何かの縁だしさ、連絡先交換しようよ」
「お、おう」
スマホを取り出すと、お互いの連絡先を交換した。
詩乃のアイコンは女の子らしい可愛いイラストだった。
「私と翔太くんの最後の夏、存分に楽しんじゃおうね! それじゃあ!」
「うん、じゃあ」
それだけ言い残すと、詩乃は屋上を去って行った。
「なんか、圧巻されちゃったな」
自分より余命が短いと言われている詩乃が、あれだけ前向きに残りの人生を考えているのだ。
俺も後ろばかり向いてもいられないな。
残りの人生の過ごし方がなんとなく見えてきた気がする。
俺は母の待つ病院のロビーへと向かう。
「何かあったの?」
「なんで?」
「なんか、さっきと違っていい顔していると思ったから」
さすがは母親だ。
俺に何かあったのはお見通しと言うわけだ。
「人生、捨てたもんじゃないなって思ってさ」
「そう、翔太がそう言うならお母さんもしっかりしなきゃね」
母は若干引き攣った笑顔を浮かべた。
もし、この病院で余命宣告を受けていなかったら詩乃と出会うこともなかった。
そうなれば、俺はこの人生に絶望したままだったかもしれない。
これは、きっといい傾向に違いないと思う。
♢
あれから一週間ほどが経過した。
世の中は夏休みと言うものに突入したらしい。
俺はというもの、ずっと家に居た。
母も父もいつもと変わらずに接してくれたている。
これは、両親なりの気遣いなんだろう。
ベッドに横になっていると、スマホの通知が鳴った。
自慢じゃないが、このスマホに通知が入るのは珍しい方だ。
『ねぇ、明日、花火見に行こうよ!』
詩乃からのメッセージだ。
『俺とでいいの? 最後かもしれないんだよ』
『嫌なら誘ってないって! 暇でしょ?』
『決めつけるなよ。まあ、暇だけど』
『じゃあ、決まりね! 明日の夕方に駅集合で!』
またも流れるように決まってしまった。
「明日、花火見に行ってくる」
「珍しいわね。誰かと行くの?」
「うん、最近できた友達と」
「気をつけてね」
母はそれ以上は何も言わなかった。
そして、花火大会の当日。
約束の時間に駅へと向かう。
「翔太くん!」
詩乃は浴衣姿だった。
長い黒髪をアップにしており、うなじのラインがすごく美しい。
あまりの美しさに俺は息を飲んだ。
「女の子がおめかししているんだから、感想の一つでも言ってくれてもいいんじゃない?」
「すごく可愛い……」
「そう、ストレートに言われるとちょっと照れる」
真っ白な頬は軽く紅潮していた。
「さ、行こ!」
詩乃は俺の手を取った。
「え?」
「人混み、はぐれたら責任とってくれるの?」
「なんでもない」
俺たちはそのまま歩いた。
周りにはいくつかの露店が出ている。
そこでりんご飴を買って花火が始まるのを待つ。
いい感じの場所に座っていると、花火が打ち上がった。
「これが、最後なんだね」
「そうかもな」
来年、生きているという保証はお互いに無い。
二人の距離は次第と近くなった。
詩乃の女の子らしい香りが俺の鼻腔に触れるくらいには近かった。
♢
それから、俺たちは色々な場所に出かけた。
夏休みを利用して小旅行的なこともした。
俺の両親は余命のこともあってか、やりたい事はなんでも許可してくれた。
詩乃と過ごす日々は特別だった。
遊園地、映画館、ショッピング、思いつく限りのことをした。
しかし、月日が流れるに連れて詩乃は病院に居ることが増えた。
俺たちは病院で会うことが多くなった。
♢
そして、半年後……
詩乃はこの世を去った。
俺の目に焼き付いている詩乃の姿は『余命半年の天使』とも形容すべきだろうか。
「結局、伝えられなかったな……」
唯一の後悔は俺の気持ちを詩乃に伝えられなかったという事である。
「詩乃のために生きるよ」
俺の残りの人生は決まっている。
俺は詩乃のために生きる。
彼女とできなかったことを俺一人でもやる。
そう決めていた。
そして……
生まれ変わってまた詩乃とめぐり逢う世界線だったら、今度こそ伝えるんだ。
『好きです』と。
原稿が落ち着いたので短編を書いてみました!
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