始まり
白い粒子のトンネルを抜けるとそこには荒廃した町があった。いやそれは適当な表現ではない。そこは町の跡だった。倒壊したビルの残骸。鉄骨だけになった建物。レンガ造りの建物だったらしきものは今や崩壊しており、周りに散らばる煉瓦と土台のみとなっていた。あたりを見回せば崩れていたり、欠けていたり、はたまたもはや土台すら残っていなかったりと完全な形を保っている建物はないように見える。そして上を見上げれば錆色の空。何とも不穏な空気感が漂う。
周囲にはたくさんの人間が見える。多分ほとんどがプレイヤーだろう。知り合いとともにゲームに潜っている人間も一定の数いるようで、何人かの集団もちらほら見受けられる。俺はソロプレイを貫いているので、パーティーに入ること自体少ない。あるとしたらボスモンスターを討伐するためにネットの掲示板で募ったパーティーに参加するくらいだ。多分そういった縁がないだけなのだろう。そう縁がないだけなんだ。
気を取り直していこう。俺はとりあえず空に触れる動作をとる。今までの経験上この動作をとることによってウィンドウを表示することができるのだが、果たして今回もうまくいきブオンというサイバーティックな効果音とともにゲームウィンドウが表示される。そこには今現在のステータスや持ち物が表示されている。プレイヤー、KSK。本名のケースケでKSK。レベルは当然の1。ほかの能力値も軒並み初期値が並ぶ。スキルは当然なし。持ち物はナイフ、ローブとつるはし。ごりっごりの初期装備である。ステータス画面の左斜め上に表示されている0Gというのは金だろうか?0ということは今は無一文ということだ。懐が寂しいな。
「おお、KSKじゃないか!やはりここでも会ったな、我が盟友よ。私と幾数千にわたる死闘を繰り広げた君のことだ。少しは進んだことだろうが、私は見てのとおりさっぱりだ。辺りを散策してみたのだが...。まったくこんなゲーム初めてだ」
ふっ、と長い前髪をかき分けながら言ういけ好かないこいつの名前はシュバリエ・ドレ。曰くフランス語で金色の騎士という意味らしい。俺はドレと呼んでいる。こいつは当時初期装備のニュービーだったにもかかわらず、とあるゲームで出会いがしら唐突に俺に決闘を申し込んできた。もちろん公衆の面前でぼこぼこにしてやったが、その結果としてこいつの盟友という大変不名誉な称号を頂戴するはめになった。それからというものことあるごとに俺に絡んでくるようになった。今回もその例にもれず絡んできたらしい。
「俺はまだログインしたばかりだからお前とそう変わんないよ。さっきまでステータスとかもろもろの確認をしていたところだ。そういえば動作確認はまだだからいましても大丈夫か?」
「問題ない。やってもらって構わないよ」
OKをもらったので俺は移動、ダッシュ、ジャンプ、視点確認といった一通りの操作確認を終える。現実と動きがほとんど変わらない。ゲームはついにここまで来たのか。
「それはこのゲームの操作に驚いている顔だね。僕もわかるさ。僕もものすごく感動した。思わず声をあげてしまうくらいにね」
「動作確認はこれくらいにしておこう。話題は変わるんだが、お前はどうするんだ?俺は適当に動いてみようと思うんだが」
「それは一緒に動かないか、というお誘かい?ついに君からお声がけいただけるようになったとは!私も有名になったもんだ!」
うざかったのでこぶしを一発お見舞いする。
「痛っ、くないな。どうやらペインアブゾーバーは効いているようだな。じゃない!何も急に殴ることはないだろう、殴ることは!」
「急じゃなかったらいいのか?じゃあ、今から殴る」
「えっ、ちょっ!」
もう一発殴った。
「そういうことじゃない!ほら、少しHPが減ってしまったじゃないか!まあ、いい。ええと、これからどうするかだっけ?僕も好き勝手動いてみることにするよ。何せ右も左もわからないからね。あったって砕けろ、ってやつかな」
「わかった。じゃあな」
「ああ、また」
俺はドレに背を向けまっすぐと続く道を歩き始めた。