甲斐君 登場
話は一週間ほど前までさかのぼる。
「いよいよRAFのサービス開始まで一週間だな。もう待ちきれないぜ」
「ああ。そうだな、友孝」
こいつの名前は甲斐友孝。俺の数少ない友人の一人であり、ゲーム仲間である。中学の頃、同じネトゲをプレイしていたところから仲良くなり、今では結構な頻度でネトゲをする仲である。友孝は隠しクエストやバグに精通しておりそれらに驚かされることも少なくない。
「今回もTAするのか?」
友孝が訪ねてくる。俺はゲーム界隈ではTA,タイムアタック(どれだけ早くゲームをクリアできるか)で有名なプレイヤーだ。様々なゲームでTAの記録を打ち立てており、ゲーマーの中ではそれなりに有名だったりする。
俺の名前は滝瀬啓介。今年の春から男子高校生をやっている。
得意なものはゲーム。苦手なものはそれ以外。特に人付き合いに関しては若干こじらせている感が否めない
友孝いわく記憶に残りにくいパッとしない顔をしているそうで、出会って間もないころは顔を覚えるのが大変だったそうだ。このような要因が重なってクラスの中ではあまり、というか結構目立たない部類の人間なのだ、リアルの俺は。
「お前は攻略サイトのために情報集めか、友孝?」
「そうだなー。たぶんそうなるんじゃないか?今回は結構稼げそうだからな。稼げるときに稼いどかないと」
友孝は1日1000万pvを誇るゲーム攻略サイトの管理人をしている。取り扱っている更新の速度、情報の正確性に定評があり俺もよく利用させてもらっている。最近ガーフと提携したそうで、今回は特に力を入れると張り切っているとのことだった。
「今回も手伝ってくれよ、情報集め。情報合戦は正確性も大切だが、何より速さだ。情報の提供はサイト内でも何度も呼び掛けていてそれなりに集まるが、お前の速さと正確さには構わない。頼りにしてるぜ、相棒」
「バイト代はずめよな」
「ああ、色を付けてやるよ。期待しときな」
俺は新しいゲームが出るたびにこうして友孝の手伝いをしている。友孝は俺のゲームの腕を結構買っているらしくこうして情報収集を頼んでくることがまあまあある。友孝は金払いがよいのでお互いにウィンウィンな関係なのだ。
「くーーっ。RAFの事前情報を求めていろんなゲーム雑誌やサイトを読み漁ってるから連日徹夜できついんだよ。モノがモノだけに今回は今まで以上に張り切ってるんだ。お前もなんか新しい情報を手に入れたら教えてくれよ。じゃあ、俺は少し寝るわ」
友孝は自分の席へと引き上げていった。
Rise And Fall.略してRAFはガーフという企業から来週発売予定のゲームだ。五感を総動員してゲームに没入できるフルダイブ型のVRアクションゲームで俺をはじめとした全世界のゲーマーたちの関心の的であった。
しかしいまだゲームの全容は秘匿されている。俺も様々なSNSを通して情報収集してみたものほとんど手掛を得ることができなかった。友孝で「さえこりゃお手上げだ」と言っていたからガーフは徹底的に秘密にしているようだ。いま現在わかっているのはPVで公開された荒野にたたずむ荒廃した近未来的な都市のみ。いったいどのようなゲームなのだろうか。想像もつかない。
2031年にガーフはフルダイブ型VRデバイスNerve Amusement Place、通称NAPを発売して以降ゲーム業界の覇権を握っている。そんなガーフが出す3つ目のフルダイブ型VRゲーム、Rise And Fall。いったいどんなゲームなのだろうか。
俺は未だ見ぬ空想の世界に思いをはせながらほおずえをついて青く澄み渡る窓の向こうを眺めていた。