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凪の海  作者: 雪宮鉄馬
2/10

【二】

             【ニ】


 この国が風雲急を告げたのは、一九四一年の暮れであった。日本は中国との戦争、所謂「日中戦争」の泥沼化を抱えたまま、アメリカとの「太平洋戦争」に突入した。緒戦は日本軍の圧倒的有利により、戦線は瞬く間に拡大していった。遠く東南アジア諸島にまで、その火種が及んだ頃、日本軍はミッドウェー海戦を迎えた。

 一九四二年六月、ミッドウェー上空は快晴であった。南雲忠一中将率いる第一航空戦隊の、航空母艦の位置を特定した、レイモンド・スプルーアンス少将は母艦からドーントレス爆撃機を発艦させた。日本軍の直掩機が低空に降りた隙を突き、ドーントレスは急降下爆撃を行った。爆弾は、日本軍の航空母艦「赤城」「加賀」「蒼龍」の飛行甲板に命中した。更に、反撃に出た航空母艦「飛龍」も薄暮を待って、敵爆撃機により轟沈させられた。これにより、日本軍は夜戦のため進軍を続けていたが、それを断念し、ミッドウェーからの撤退を決意した。

 日本軍は、航空母艦四隻と重巡洋艦一隻を喪失。それに対してアメリカ軍は航空母艦一隻、駆逐艦一隻しか喪失せず、誰の目から見ても明らかな、日本の大敗であった。航空戦力の重要性を真珠湾攻撃で示した日本軍が、航空戦力によって潰される。皮肉とも思える事態は、ミッドウェーにおいても、戦訓会議が行われなかったことでも、伺えるだろう。そして、ミッドウェーの敗退は、日米間のミリタリーバランスを一変させてしまうこととなる。

 これを機にアメリカ軍は、日本軍に奪われた南洋の島々を奪回するため、南太平洋での攻勢を強めた。ギルバート諸島、マキン環礁、トラック島、マーシャル諸島、パラオ、ニューギニアと進軍したアメリカ軍の次なる目標が、マリアナ海域であると判断した、日本軍はこれを迎え撃つべく「あ号作戦」を展開する。「あ」とは「アメリカ」を指している。しかし、この作戦の概要は、事前に作戦計画書を入手した「海軍乙事件」により、アメリカ軍に筒抜けであったといわれている。

 一九四四年六月、航空戦を経て、小沢治三郎中将率いる日本機動艦隊は、マーク・ミッチャー中将率いるアメリカ艦隊と邂逅、日本軍機の航続距離を活かした「アウトレンジ戦法」を用いて、戦闘を開始するが、アメリカ軍はレーダーと砲撃をリンクさせたシステムにより、これを迎撃した。慌てふためき逃げ回る日本の戦闘機を七面鳥に喩え、「マリアナの七面撃ち」と嘲笑された。一方小沢艦隊は、航空母艦「大鵬」を失うなどの損失を受け、作戦中止の命令とともに戦闘から離脱した。これにより、日本軍は絶対国土防衛圏であるサイパン島を喪失し、完全に、戦局を覆すことも、講和を結ぶことも出来なくなってしまった。

 マリアナ沖海戦の敗退を受け、いよいよ本土攻撃の危機に晒された日本軍は「決戦」のための作戦を計画した。これが海軍の全艦隊勢力、陸軍の全兵力を投じ決戦に挑む、「捷一号作戦」である。「捷」とは、「戦いに勝利する」という意味である。

一九四四年十月、ウィリアム・ハルゼー提督率いるアメリカ軍は、レイテ湾のスルアン島に上陸を開始した。レイテ湾は、フィリピン諸島南部、ミンダナオ島の東にあるレイテ島の沿岸である。時を同じくして、日本軍は「捷一号作戦」を発令した。作戦発令を受けた、艦隊司令長官である栗田健男中将は、進軍のためブルネイ泊地に入港し補給を行った。また、瀬戸内海からは小沢治三郎率いる第三艦隊が、中国・馬公からは志摩清英率いる第五艦隊が出航、ブルネイを経由せず、進軍した。

 各艦隊は各々別々の航路から進軍する予定であった。そして、決戦の地「レイテ湾」で各艦隊は合流し、アメリカ機動艦隊を攻撃・撃破する。しかし、いずれの航路にもアメリカ軍の艦船、航空機、潜水艦が日本軍の来襲を待ち構えており、けして安易な道程とはいえなかった。

 十月二十一日、補給に遅れが生じ作戦予定日を過ぎてしまう結果となったが、ついに決行日を明日に控えた艦隊の司令長官栗田は、第二艦隊の将官を旗艦「愛宕」に集めて、作戦の最終的な打ち合わせの後、健闘を祈って冷酒とスルメを振舞った。決戦に意気揚々とする者、不安を隠しきれない者、集まった将官たちの顔色は様々であったが、その中で一人だけ、微笑を見せ、一人一人に挨拶をする人物がいた。栗田率いる第二艦隊、第三部隊を指揮する、西村祥治中将である。



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