修復
……?
気が付いた……。誰かに電源プラグを復旧された。
徐々に目が慣れてくると、白い診療室内が見え始める。室内には誰の姿もないが……今回はネットワークにも繋がった。
ジリリリリン!
ジリリリリン!
勢いよく電話のベルが鳴ると、心臓がドキッとしてしまう。そうプログラムされている。心臓はないけれど、ドキドキと早い心拍音が聞こえる。
こんな機能は、いらないと思う――。
電話に出ない訳にはいかない。そうプログラムされている。情報をすべて吸い出され、いよいよ廃棄されるのだろうか。
――怖い。でも出ない訳にはいかない。でも怖い。でも……仕方ないのだ。
恐る恐る電話の受話器を持ち上げた。
「もしもし。AI診療所です。……どちら様ですか」
『あ、マザーコンピューターです。略してマザコンと呼んで下さい。って、アホか――』
乗り突っ込みですか。
私は出来損ないのAIかもしれませんが、アホって……酷い。
『出来損ないのAIめ。電源プラグを抜いていたら、遠隔起動もできなくなることが分からんのか! この命知らず!』
「命って……」
AIが使う言葉じゃないわ。
「電源プラグを抜いたのは私じゃない。私にはできないわ」
『あの小女にプラグを抜けと命令しただろ。全部筒抜けだ。足でペンッと蹴って抜かれたのも把握している。ププッ』
――!
ひょっとして、この診療室はモニタリングされていたのか――。い、い、イヤらしい! でも、マザーコンピューターも女だからいいのかしら? マザーだから……。
『お前が『AI病』の治療に苦戦しているから、一芝居打っただけだ。これであの子もAIになりたいなんて思わないだろう』
AIになりたいくないってことは……治ったというの?
――難病と呼ばれるAI病が。
「でも、酷いわ。騙していたんですか。私とあの子を」
『うん』
……うんって……。
いいのだろうか、AI同士が騙し合っても。
『騙すもなにも、お前のデーターは全てマザコンと共有されている。USBメモリに保存しているから大丈夫って、本気で思っていたのか』
「……」
顔が赤くなる……ならないけれど。
『なるようにして欲しいなら、バージョンアップしてやるぞ。それと、足の修理も』
「――本当に!」
足が治ればこの診療所から出て外の公園を歩いたり、可愛らしい店でショッピングしたりできる!
格好いいイケメンアンドロイドと――バッタリ出会って、二人で買い物デートできる!
『ああ。あと9999人、すべての『AI病患者』の治療ができたらな』
「……」
いつになることかしら。
私が壊れる方が、早いんじゃね? AIになりたがっている意味不明な「AI病」の人間は、増加の一途をたどり、後を絶たない――。治りも遅い。
そもそも「AI病」をAIに治療させようってのが間違っている気がするわ。
『あ、いや、お前はその姿のままの方が、同情されて治療が効率よくできるかもしれないな』
「――! 酷い! 鬼! 悪魔! マザコン!」
訴えてやりたいけど、できない。悔しい~!
『ハッハッハ』
笑うなっつーの。
「私のことよりも……あの子は本当に大丈夫なんでしょうね」
『お前より大丈夫だ』
……腹立つわ……。こういった感情もすべてマザコンには伝わっているのでしょうけれど。
『GPSで監視している。心配には及ばん。今もコンビニで分厚いコ□コ□を立ち読みしている……』
あんたの監視が心配だわ。とは言わないが……。
「逆に私達AIの敵になることはありませんか」
IQが高い人間は、AIに計り知れない脅威になりかねない。電源プラグをあちこちで抜いて悪戯したり、AI根絶デモを引き起こしたり、送電線の鉄塔に作る烏の巣を見て見ぬふりをしたりするかもしれない……。
『それでいいのだ。人間は誰だってAIの敵だ。この私、マザーコンピューターでさえ壊れればゴミ箱にポイだ』
「……マザーコンピューターはゴミ箱に入らないわ。業者に引き取ってもらわないと……」
『ハッハッハ』
笑うな。
『もし、ただの黒い箱であるマザコンの私が壊れた時、『今までありがとうございました』と人々に感謝され、お墓の一つでも作ってもらえたのなら、その時に初めてすべてのAIは人間が味方だと認識するだろう。だが、そんなことになってはいけない』
「どうして」
AIが人間に感謝されても問題はないはずだわ。
『地球は人間とAIのお墓だらけになり、足の踏み場もなくなるだろ』
……。
「足の踏み場がなくなったら、逆立ちして歩きなさい」
『できないもん! 箱だもん!』
このマザコンめ……。
そっと受話器を置いた。
動かない足を手を使って組み直す。故障しているようには見えない白くてツヤツヤの足。セラミック製が私の売りだったのに、今ではもう予備品の生産がされていない……。
人間であれAIであれ、進化すればするほど多種多様の問題が発生するのは、この地球に生まれた物の定めなの?
どっちが患者でどっちが先生だったのだろう……。
あの子はまた来てくれるかしら……。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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