第拾記 神化vs三狐眼
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それでは、お楽しみ下さい!
「ほれ、先行はくれてやるのじゃ」
烙に手を上向きにクイクイと動かし挑発するうーちゃん。
「それでは、参るでしゅ!」
流れ星が白い軌跡を描くようにうーちゃんに突っ込んだ。
「なぬ!?」
うーちゃんは回避行動をとるも想定外の速さに対応できず左腕をかすめる。
そして、左腕の妖炎鎧狐がついに破壊というよりも削り取られてしまった。
「妖炎鎧狐を削るとは、なかなかやるのう。だが、貼り直せばいいだけの――」
うーちゃんが言い終わる前に間髪を入れず流星のように突っ込んでくる烙。
烙の圧倒的スピードによる妖炎鎧狐を貼り直す隙を与えない猛攻にうーちゃんは、ただひたすらに回避に専念する。
「あーちゃん、どうして烙はあんなに強くなったの?」
俺は手に汗を握りながらあーちゃんに尋ねる。
眼前で先程までの結果を覆しているのだからそれは誰しも気になると思う。
「まず、神使の動物ってのがいるわけ。そいつらの中でも一部のやつが、ある一定の条件を満たした時にのみ神化ができるの。で、窮鼠降神之御姿ってのが烙の神化よ」
「もしかして、烙の神化の条件ってのは追いつめられること?」
「そゆこと。今の烙は神に匹敵する力を得ているから見ものよ」
煎餅を食べ終えるとまた新しいお菓子を取り出すあーちゃん。
いや、お前どんだけ食うんだよと心の中で突っ込みつつ呆れる俺であった。
うーちゃんの様子は、現在大変芳しくない。
避けてはいるものの、完全に避けきれているわけではないうーちゃん。
終いには、鋭爪憑狐のみが残った。
それでもうーちゃんは目を閉ざすことをやめない。
「うーちゃんもう舐めプはいいから目開けないとそろそろ不味いでしょ」
外野から心配の野次を飛ばす俺。
それにうーちゃんは怒鳴るように応じる。
「このまま勝てなきゃ撮れ高が良くないじゃろ!!」
こんな状況でも撮れ高を気にするうーちゃん。
まさにGチューバーの鏡だ。
「撮れ高が何かは知らないでしゅが、このまま勝負をつけさせてもらうでしゅ!」
烙は天井を突き破りそのまま身を隠した。
辺りは嵐の前の静けさのような静寂に包まれる。
「ウカ、1つアドバイスよ。それ避けないと死ぬから。妖炎鎧狐じゃ防ぐの無理よ」
「どういうことじゃ? おばちゃ――」
先程烙が開けた穴から淡く輝く石が1つうーちゃんの頭に落ちてきた。
それをうーちゃんがすかさず手に取ると顔色を変える。
「待つのじゃ。さっきから辺りにキラキラしておったこれ、神石……かのう?」
「え、気づいてなかったの?」
「ウチの知っているのはもっと綺麗なやつなのじゃ」
「だってこれ原石だもん」
うーちゃんの様子からただごとじゃないことが起こる予感がビンビンと伝わる。
そして、神石について尋ねた。
「では、私がお答えしましょう。神石というのは神力が宿る石のことです。これは神のみが使える石で、色と輝きに比例して効果効能が大小される飛び道具です。例えば、水の力や雷の力などですね。先程、烙様は神化なされたのでこの神石を使うことができるようになったのです」
相変わらずのバカでも分かりやすいよっちゃん講座である。
つまりは、一時的に自分以外の神の能力が使い捨てで使えるということだ。
故に、うーちゃんが恐れているのは、原石だから何の能力を秘めているのか想像ができないため、場合によっては即死もありえるからである。
「待ってくれなのじゃ。色んなところに穴が開いておるということは……」
「そうよ。頑張れぇ姪っ子!」
意気消沈としたうーちゃんに親指を立ててニッとほほ笑むあーちゃん。
「第一階層名物、神石鬼雨、がくるわよ」
天井に無数に開いた穴が不気味に輝きだす。
そして、無作為に地上を襲った。
土砂崩れの現場に遭遇したかのような激しい轟音とともに神石が地上を敷き詰めていく。
その勢いたるや凄まじくある程度の距離があるはずのこの鳥籠まで飛び石が殺意を持って襲ってきた。
とてもじゃないが、うーちゃんがあれを避けきれているとは考えにくかった。
俺にできるのはただただ立ち尽くして、そのゲリラ豪雨のような神石を見守るだけだ。
体感としては30秒くらいだろうか。
神石と共に辺りを覆いつくす砂煙がカメラの視界を遮る。
現場の様子が分からない不安と焦りで手に力が入った。
いよいよ砂煙の幕を下ろした現場が確認できる。
立つは白炎。
白狐を追う。
いない。
どこにもいない。
探せ。
探せ。
ズームを駆使しろ、神石の目を、壁を、天井を、見落とすな。
いた。
手だけだ。
力の抜けたボロボロの腕だけが神石の絨毯から顔を覗かせている。
頭の中に描くキャンバスに白いペンキをぶちまけられたかのような気分だ。
「はぁ……はぁ……。勝った……でしゅ」
うーちゃんの成れの果てを確認した烙の表情は緩んだ。
次の瞬間、烙は宙を舞っていた。
そして数十メートル先に受け身も取れずに叩きつけられ、転がった。
地面から萎えるように生えていた腕が蜃気楼のように揺らめき消えた。
と同時に、烙の後ろに空間を揺らめかせ、身を横にひねりながら現れたうーちゃんが烙のそのノーガードの横っ面に強烈な回し蹴りをお見舞いしたのだ。
「うーちゃん無事だったんだな! ってか、その目……」
うーちゃんは、黒く、クリクリとした大きな目が可愛い。
だが、今のうーちゃんは獣のような目つき、鮮やかなアメジストのような綺麗な瞳をしている。
その様子からは相対する二面性、下品の中にある高貴さを感じさせる。
「やっぱり出したわね。三狐眼を」
待ってましたと言わんばかりに腕組みをするあーちゃん。
「三狐眼って何?」
「ウカの特殊能力みたいなものね。3つ色があってそのうちの1色があの紫の目ってわけ。あれはゲームで言うならそうねー……カウンターみたいなものかしら。攻撃を受ける直前にあの目にセットしておくことで、ある一定の時間受けた攻撃は幻影として処理されて、幻影を発動させた場所から一定の距離なら任意に再出現できるのよ。あー、説明だるい」
「え、そんなの無敵じゃん」
「条件付きに決まってんでしょバーカ。一度使ったら一定時間インターバルが必要よ」
あーちゃんとのやり取りの最中、烙は立ち上がり、うーちゃんの瞳は黒に戻った。
そしてまた、うーちゃんは目を閉ざした。
「これで終わらせるでしゅ! 炎剛石火!」
烙は最後の力を振り絞ってうーちゃんの周りを高速で走り出す。
白円ができたと同時にその円の中から直線が中心を刺すように伸びる。
うーちゃんは最小限の動きだけで避けてみせた。
その目は見開かれていて、サファイアのような瞳からは冷静さが伝わる。
そして、まるで全てを見透かすように次々と迫る烙の攻撃を避け続けた。
「あの蒼い目はスピードに特化した目ね。相手の動きを見切ると共に自身の速度も大幅に上がるわ。で、相手の攻撃を避けて生まれる一瞬の隙に最後の色になるの」
どの角度から攻撃をしても一向に当たらない烙はイチかバチかだろう、正面から突っ込んできた。
うーちゃんの目が鮮血を塗りたくったような赤色に染まる。
「あれが、攻撃特化の目よ」
うーちゃんは両手をハンマーのように組み、タイミング良く烙に振り下ろし地面に叩き落とした。
大地がえぐれ衝撃波が走ったのだからその威力たるや説明もいらないだろう。
烙は息絶えていた。
「ニシシ、ウチの勝ちじゃ!」
拳をというか爪を高くつき上げ歓喜の声を上げるうーちゃん。
素直に喜びたいところだが、悪役なんだよなぁ俺ら……という後ろめたさもあり、複雑な心境だ。
「よし討伐完了! 次の階層へ行くわよ!」
「え? 自分の部下に討伐とかいうの??」
「しーッ! こっちの方が撮れ高良さそうでしょ。都合の悪い所はもちろん全カットだからね」
あくまで動画投稿のためと割り切るあーちゃん。
まぁ、でも、そこまで来ると逆に清々しさすら感じる。
乗りかかった船なんだから最後までお供しますよと、俺は考えるのはやめることにした。
――穿岩の火鼠討伐完了――
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