有機質と無機質の融合
何度目かの極の逆転が過ぎて、人類は科学的に発展し続けていた。
月を中継地点にして、太陽系の惑星を開拓していく一方、人類はひ弱な体質の者ばかりになっていた。
「…それでは諸君は、人類の発展が、実は衰退を伴っていると思うのかね?」
大学教授が数少ない学生たちに問いかけた。
「そうです!だから、アリゾナで禁断の研究が行われていると聞きました」
一人の学生ー中年の男性ーの言葉に聴講生たちはざわついた。
「火星で生まれた者は寒天みたいに脆い身体しか持ちません。しかし、頭脳は優れていて、我々の思いもよらない方法で生き延びている」
今となっては、人類の定義をどこまで拡大すべきか由々しき状況だった。
アリゾナの研究所で行われている研究は、有機質の塊である生物と、無機質なサイバネティックの技術を融合させた、新しい生命の開発だった。
「科学に倫理観を持ち込むべきです。我々は誇り高き人類」
少子化で高齢化が進む中、何に希望を託せば良いのか?それが彼らの課題だった。
「ユーリ!待ってよ」
アリゾナの研究所で子どもたちが元気に駆け回っていた。
「ぼく、こんな事だってできるよ!」
全身バネで出来ているように重力をものともせず文字通り飛び回る。健康で強靭な身体。
アラブの大富豪が巨万の富をなげうってこれらの技術を欲しがっていた。
開発した者たちは、これらの技術は売買できないことを薄々気づいていた。
「いいかい?なにかあっても、自分を信じて生きていくんだよ」
白髪の博士が優しく言うと、子どもたちは素直に頷いた。
自分の指とステンレスのスプーンの柄を添わせて、どこまでが有機質でどこまでが無機質かわかるかい?
そう。21世紀の僕らには簡単に区別ができる。でも、確かに以前はそれらに線引きができたのに、この時代の子どもたちにはそれが出来ない。
子どもたちを生成しているものが有機質と無機質の間のものだからだ。
染色体の数も枝分かれしている時代、この子どもたちには未来はあるだろうか?
誰か答えを教えてください!
すると、誰かが答えた。「自分という存在の事だって持て余しているのに、未来のことまで心配するのですか?」
「自分を信じて」生きるって本当に大変なことだ。
そのことに子どもたちはいつか気づく日が来るのだろうか?
開発した者たちは常に彼らの倫理観とたたかっていた。
たとえ世界中から揶揄されていたとしても、だ。