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第二章 第十一幕:予言

集めなさい


月の加護を受けた者達を


光を…


栄華を掴み取る為に……。





「そういえば、先程は何を取りに行ったんだ?」


ふと嘉月がそう口に出すと、翠月は思いついたように手を叩いた。


「すまぬ。話の弾みですっかり忘れておった」


「おいおい…」


普通自分から必要だと判断して取りに行ったものを忘れるだろうか。

突っ込みたい事はあったが、翠月の有無を言わさぬ笑顔がそこにあった。

何も言い返さぬが吉だろう。

翠月は横に置いていた布の包みを丁寧に開いた。


「…手紙?」


紳月が言った通り、布の中から出てきたのは、少し古ぼけた一つの手紙だった。

封は所々茶色く変色しており、辛うじて字がわかる程度であったが、中の大事な文が書いてある紙は何故か綺麗なままだった。

不気味と思えるほど痛んでいないそれを、翠月は差し出してきた。


「これは?」


「読んでくれ。それは余の生前、父上に送られてきた叔母君からの最後の文じゃ」


「良いのか?それを俺達が読んでも…」


紳月の問いに、翠月は構わぬと一つ頷いた。

嘉月はその言葉を聞いて、記憶を手繰る。

確か父がその昔話して聞かせてくれたことがあったような気がする。

文を裏返すと名が刻まれていた。

その名を見て、漸く嘉月は思い出した。


「確か貴方の御父上、春日翠晃の妹君は浅間に最も寵愛された正妻だったのでは?」


「アイツの!?」


驚きの声を発したのは紳月だけだったが、翠月も声に出さないだけで驚いていた。

それもそのはずだ。

その人物は自分達の生前に生きていた者。

本来ならば知らずに生きていても可笑しくはないのだ。


「嘉月はよく知っておるのう。何処まで知っておるんじゃ?」


「公には自殺となっているが、実は浅間の手で殺されたということまでは父から」


「殺された?寵愛していた妻なのに?」


紳月が尤もな疑問を投げかける。

何故最愛の相手を殺さなければならないのだろうか。

その理由だけは嘉月は誰からも知らされていなかった。

父も丁度非番でその場にいたわけではなかった為、知らなかったのだ。


「嘉月の申したことは真実じゃ…」


翠月は少し寂しそうに微笑んだ。


「叔母君は東国一と言われる絶世の美女だったそうじゃ。両親は余が生き写しかと思う程そっくりだと言っておった」


そういうのも覚醒遺伝というのだろうか。

確かに翠月の容貌は女であれば絶世の美女と謳われたであろう。

彼の顔だけを見ると妙に納得してしまう。

翠月湯飲みを手に取り、手で弄んだ。


「その叔母君が殺されたのはただの手違い。元々我が春日家を脅威に感じ、滅ぼそうと計画を立てていたらしくてのう。配下の誰かが我等にそれがばれているという手間<でま>を流したらしい」


「まさか…!」


嘉月は自らの手に握られている文を見つめた。

それだけで言いたいことが伝わり、翠月は視線を上げて嘉月を見据えた。


「それがその手間の原因じゃ…。元より叔母君は未来を予知する、予言という不思議な力を持っておられた。その力が疑惑に拍車を掛けたんじゃろうな」


つまりはこういうことだ。

その日、兄である翠晃宛てに文を偶々出し、殺害の計画を経てていたからその文が未然に防ごうとする行いであると捉えられ、勘違いにより殺された。

その計画を話した事はないが、予知能力を秘めていた為に知ったのだと判断された。と。

なんと酷く、正確性のない理由だろうか。

人の命を軽んじている浅間の安直な考えは、生涯わかりあえることはないだろう。


「で、実際その内容はどうなんだ?」


「別のことじゃよ。ただそれよりも更に先の事を予知したみたいじゃ」


「更に先って?」


「まぁまずは読んでみてくれ。その内容、信じる信じぬはお主等に任せよう」


翠月はとりあえず読むように勧めた。

話し手の意に従って、二人は文に目を通し始めた。




その文には、初めは翠月のことが書かれていた。

翠晃が名決めの相談をしたらしく、「お兄様の翠という文字に月をつけて、翠月というのは如何でしょう?」などと書かれていた。

そしてその名の意味と、自分の身に宿った子供のこと。

今の日常生活いかに幸せかが書かれていた。

この後に殺されたことを思うと胸が痛く、自分のことのように腹立たしかった。

二枚目を捲ると、そこから書き方ががらりと一変した。

殆どが語り口調ではなく、箇条書きだ。


『子に災い。我が命、そう長くはあらず。翠晃、六年後に死す。打開無。春日家滅亡。闇が包み込み、光は消える。東は黒、西は白に。月が見える。永劫に闇を照らし続ける唯一の大きな光。晴れ渡る。天下交代。時代の変化が…』


そんな事がつらつらと書き並べられている。

上手く纏められないのか、書き殴り状態だ。

驚いていた二人に、翠月はそれが文の予言なのだと横から言い指した。

脳裏で見たものをそのまま順番に書いていくのだという。

最後にその纏めがなされていた。


『私の命はどうやら長くはないようです。その理由は自分の事の為に解りかねます。お兄様も残念ながら六年後には死の姿が見えまする…。打開は無理と。春日家は滅びます。救いの光を失った東国は絶望の闇に包まれます。なれど、希望も私には見えたのです。翠月と名付けたのにも、もう一つ理由があるのです。それは月。幾つもの月が翠月の周りに集った其の時、闇は光に変わります。月と名の付く者達を探すよう諭して下さい。さすれば…』


そこで文章は途切れる。

だが確かにこれは紛れもなく真実なのだと、現状が証明していた。


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