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翌朝コウトに移動した私はすぐさま先日行った奴隷市場に向かった。ちなみに今日は仕事は非番である。
奴隷市場についた私はミリアと共に奴隷組合の建物に入った。ある魔物が売っていないか調べるためである。
「いらしゃいませ。今日はいかがなご要件で?」
「こんにちは。今日はある魔物を探しにここに来たのです。」
「分かりました。係のものを呼びますのでお待ち下さい。」
しばらく待っていると男性の職員が来た。
「お待たせしました。魔物をお探しのようですね。」
「はい。その通りです。"キングスライム"を探してます。」
「...キングスライムですか.....少しお待ちください。」
彼は建物の奥に行ったが少ししたら大きな資料を抱えて戻ってきた。
「キングスライムですか..多分記憶には売っている店は...」
彼は資料をパラパラとめくり調べていた。
「ああ、ありました。かなり前の記録ですから今もあるかは保証できませんが..この店です、グマラ商会。この店を当たってみてください。」
「そうですか。ありがとうございます。」
礼を言うと組合を経った。
グマラ商会を探すのには苦労した。何せ小道の奥に店を構えていたからである。道理で道を人に聞いても知らないと言うわけだ。
非常にこじんまりとした店だ。玄関に「開店」の文字が無ければ既に廃業していると勘違いされてもおかしくない。
中に入ってみたが人の気配がない。客足のなさそうなこの店の従業員は店の奥にいるのだろうと思い、大きな声で呼んでみた。
しばらくすると私の背丈の3分の1の身長しかない白髪のご老人が現れた。
「おはようございます。ダンジョンマスター様。今回はいかようなご要件で?」
この異世界の住民は殆どがヨーロッパ系の顔立ちだ。そんな中から東洋系の顔立ちの日本人を見つけ出すのは難しいことではないはずだ。
「どうも。今日はキングスライムが欲しくってここに来たのです。この店にあると聞いたのですがまだ有りますか?」
「.....ああ、キングスライムか...こっちへ来てください。奥に置いてございます。」
そう言うと私を店の奥に連れていった。
「キングスライムですか。お言葉ですが、ダンジョンマスター様が使われるような使用法ですと、普通のスライムでも事足りると思いますよ。キングスライムはキングと付きますから他のスライムよりも大きく強い。そして魔物なのに知的生物に分類される程賢いのです。ただ食料の消化効率は改良されたスライムに劣りますし、スライムを食用として使われるにしても飼育用スライムにその分野において多くの点で劣ります。一体どのような使われ方をなされるのですか?」
「ん?賢いのでしょう。それをスライム達の統括に使いたいと思ったのですよ。...確かスライムは寄り集まって一つのコロニーを形成する習性があるんでしたよね。それでスライム同士のエネルギーの行来も出来るとか..」
「なるほど..」
これらの知識は全て本に書いてあったものだ。スライムの専門書のようなものであったが内容が興味を引くものが多く、見ていて楽しかった。
ご老人の従業員は私を地下に連れていった。中は湿気った空気に覆われていた。
彼がランプをつけるとそこには非常に大きな桶が置いてあった。
「これがキングスライムにございます。」
このような桶は醤油作りの時に使われるのをテレビで見たことがあるが、直に見ると本当に大きなものだ。
「もちろん中身を貰うぞ、桶ごと買い取れと言われれば困る。」
「そんな無理は言いません。中身のみで結構です。」
「.....それにしても本当に買い手が付かなかったのですか?考えて見れば便利な生き物だと思いますが。」
「先程言った通り利点がないのです。それに見てくださいこの大きさ。これでもまだ小さくした方なのですよ。スライムは体の殆どが水分で出来てますから、水分を飛ばしたのです。もしキングスライムが水を吸う機会があればこれの10倍に体積が膨れ上がりますよ。」
「へぇー。そんなに..」
許容範囲だ。むしろ私の計画では好都合かもしれない。
「これを買わせていただきます。」
「そうですか。では金貨1000枚でお譲りします。」
「金貨1000枚...」
どうだろう。彼の話を聞くに全く売れなかったのだからもう少し安く帰ると思うのだが。
「この店には他にスライムを置いてないのか?」
「ええ御座いますよ。飼育用スライムの母体が12匹。最新の品種です。またスライム用の餌を生成する化学スライムが3匹います。」
「それではそのスライム達全てを付けて金貨1000枚ではいかがか?」
「....よろしゅうございます。」
金を払った後、スライム達を全員家臣にして転移した。
............
自宅に転移した私はキングスライムに湖に入るよう命令した。
キングスライムが湖に入ると急激に水を吸いあげ大きくなった。
元のキングスライムは超濃縮されており、中央にあった巨大な魔石を中心に細胞の様な見た目であった。だが今目の前にいるのは水面に体のほんの一部を出し、それ以外を水中に隠した流氷の様であった。
私はここから地下500m下のダンジョンから湖の底まで直径1mの巨大な円柱の縦穴を作った。勿論そんなものを作ったら地下世界が水浸しになってしまうので、貫通をさせないようにする。
そしてキングスライムをその縦穴の中転移させる。すると、縦穴に転移させられたキングスライムはまるでそれに栓をするようにギュウギュウに詰め込まれた状態になった。
私はキングスライムによって湖からダンジョンに水が漏れないことを確信し、縦穴を貫通させた。
「閣下。何をなされているのですか?」
後ろから声が聞こえた。ミリアだ。
「ミリアか。スライムを使って地上の資源を地下に輸送する方法を試している所だよ。」
「スライムを使って?一体どのような方法なのでしょう。」
本来の資源回収方は地上に何らかの資源回収部隊を作って運用し、その得た資源をスライムに与え繁殖させ、それをスライムを食用とする家畜に与え、その家畜から肉を得る方法を使っていた。つまりは
地上の資源→回収部隊→スライム→家畜→人種、魔族
となっているが私が考え出したのは
地上の資源→スライム→家畜→人種、魔族
である。
ただ、スライムは被捕食魔物であり圧倒的最下層生物であるから地上での資源回収任務には向かない。それをキングスライムと湖という条件を付け加えて解決しようというのが私の参段である。具体的にいえば湖の中の生き物や植物、沈殿物を回収しようという計画であった。
そのことを彼女に伝えた。
「....分かりました。私は閣下の命令に従うのみです。」
若干嫌味ったらしい言い草である。納得ができていないことが予想できた。ただ、おそらくスライムを使った資源回収方の事ではなく事前に彼女相談しなかったことの方であろう。
私はキングスライムの調子を見るため不機嫌なミリアと共に地下のダンジョンに転移した。
地下は相変わらず暗かったがダンジョンマスターの私には地上のように良く見えた。上を向くと天井から垂れ下がっているキングスライムの穴から少し出ている所が良く見えるほどである。
また隣にいたミリアはランプを付けていた。彼女にこんなものを渡したっけとも思ったが忘れた。
私は息を吸い込むと大きな声でキングスライムに叫んだ。
「どうだ!食料は回収できたか!!」
やまびこのように私の声が数秒間反響する。ただそれが鳴り終わってもキングスライムから反応がない。
「Yesなら穴から出ている体を揺らせ!Noなら何もしなくていい!」
再び私の声が反響する。少し待つと天井の穴から出ているキングスライムの体が揺れた。そうしろと言った身でありながら少々おぞましいと思ってしまった。
ただ食事を回収できた。喜ばしいことである。
「回収した食料でスライムを1日に何体生成できる!生成できる数だけ体を揺らせ!」
今度は時間がかかった。質問が悪かったのかとも思ったがなんにも反応がないため本当にわからないのかと悟った。
「分からないのか!」
今度は反応が帰ってきた。本当に分からないようである。
仕方ないこれは実際に試してみるしかない。
私は地下のクリエイト画面を開くとキングスライムのいる円柱の穴から植物の根のように細い穴を開けていき、それが地下の半球空間の端の天井が低い所まで通した。キングスライムにはその穴の中に触手を伸ばすように伝えた。私は地上に残しておいた母体型飼育用スライムを転移させ、先程開けた細い方の穴のこの空間に繋がっている方の先端にそれを詰め込んだ。またスライム専用食料を生成する化学スライムも転移させ、キングスライムにそれを世話をするように渡した。
「閣下。あのスライム達は何ですか?」
「ん?あれはキングスライムの働きをサポートする、言わばモジュールだよ。あれで資源の処理を効率化する考えだ。」
店員さんも言っていた通りキングスライムは食料の消化、スライムの生成という過程において他の化学スライムや飼育用スライムよりも効率が悪い。だから、キングスライムにそれらを加えることにより効率化を図ろうと考えたのだ。つまりは
地上の資源→キングスライムが回収→化学スライムが資源をスライム用の餌に再生成→キングスライムが管理→飼育用スライムの母体が餌を元にスライムを生成→食料に....
となる。
「まあ、一日に何体スライムを生成できるか調べてからだな。これから行動するのは。」
無限の寿命に高給の仕事。私は気楽であった。
............
それからは仕事とスライム達の研究でほぼ一ヶ月近くを費やした。スライム達の研究においてはもはや最適化という点においてほぼやることはやったと思われた。
またその研究成果を元にあの空間におよそ何名の人間が生活できるかを推測することにも成功した。
まず、私が考え出したスライムを用いた資源回収装置を使い生成されるスライム達の数は一日に実に1400匹に上る。そしてそれを飼料として豚種などの動物や魔物を飼育するとおよそ800匹養える。
そして、それを食料として食べていける人間の数はおよそ300人。
...目標の500人には届いていない数字だがこれは生物の糞尿を食料として繁殖するスライムを数えない数字であり、それに土地はまだあるのだから物事を一つ一つ確実にやっていくべきだろう。
その他にダンジョンにスライムを食する家畜を放った。豚の姿をした魔物だが家畜として長年品種改良されてきたおかげか攻撃力をあまり持たない。人間が愚かにも狩り尽くしてしまわないかと心配であったがここは効率を取らなければならないと判断した。
そして人間をそろそろ買おうかと思っている。ただ買おうと言っても子供か大人かで迷ったが、子供にすることした。ここは将来的なことを考えておく必要がある。太陽の元で育った人間をこんな真っ暗闇で過ごさせるのだから必ず不満が出る。だから子供のうちに教育しておくことによりそのような事を未然に防ぎたい。
朝起きたら今日は仕事が非番なことを確認し、奴隷市場に向かうことを決意した。
買うものは2つ、人間の子供と教育係としての人に姿が似た魔族だ。
転移によって奴隷市場に来た私はまず教育係になってもらいたい魔族を探す事にした。今回は魔族の奴隷などいくらでも居ることから組合には立ち寄らなかった。私がはじめに入った店はここらで最も大きいあのハイウルフを買った店、ではなくその隣のここらで2番目に大きな店に入った。
入った瞬間「いらしゃいませ」の声と共に店の奥に流れ作業の様に連れて行かれた。よく分からない間にそのような対応をされたので抵抗もできず、また茶や菓子も出され対応も親切だったため一瞬にして商売を断り辛い空気が作られてしまった。
「お客様いらっしゃいませ。ようこそ我が商会へ。今回はいかなるご要件でしょうか?」
客室に案内され出された茶を啜っていると白い髭を生やしたご老人が現れた。その後には辞書のような大きな手帳を持った青年が控えていた。
「ああ、こちらこそどうも。今回は魔族の奴隷を探しに来たのです。」
「ほう、魔族の奴隷ですか。」
ご老人が後ろを向くと青年が持っていた手帳をめくり出した。
「どのような魔族をお望みで?」
「出来るだけ人間に姿形が似ているのがいい。それでいて読み書き武闘が出来るとなお良い。こんな粗雑な注文で揃えて頂けますか。」
「..少々お待ちを..」
ご老人がこの部屋から出ていった。
人型の奴隷を買うことにはあまり抵抗がなかった。現代でも社畜、金融奴隷という言葉が生まれているとおり非常に遠まわしな方法で搾取構造が出来ている。しかもたちが悪いことに現代の奴隷達は自由や様々な権利が認められている。ただ実際は奴隷になる以外の道を国民は与えられていないのだ。
奴隷と言う制度は非常に旧式で、労働者の士気などの面でとても効率が悪い。ただダンジョンマスターの場合は別だ。相手の意思に関係なくいうことを聞かせることが出来る能力を持つ。だから奴隷を死ぬ寸前まで酷使できる。
まあ他が同じような事をやっているのだから自分がやっても問題ない。そういう世界なのである。
「お待たせしました。こちらが当店にございます、該当します奴隷達にございます。」
ご老人が帰ってきたまたその後には7人の男女が並べられていた。
「一人ずつ教えていただけますか?」
「はい。ここにいる奴隷達は全員吸血鬼でございまして、人間に最も姿形が似ている魔族にございます。我が商会は多数の吸血鬼を扱っておりますがその中でも読み書きが出来て武術も出来る物達を揃えましてございます。まず右からメス39歳、メス28歳、オス45歳、オス38歳、オス76歳、オス40歳、オス20歳です。お気に召しませんでしたら他のを持ってこさせます。ゆっくりお選びくださいませ。」
ご老人が後ろに下がると奴隷達が前へ出た。奴隷達は薄汚れた麻布を紐で縛るだけという粗末な格好をしていた。この中には70だいの男性もいるという。だがどれも青年少女であり、歳をとっていない。
「吸血鬼は歳を取らないのか?」
「はい。不老の魔族です。ただし、光属性に弱かったり人の生き血が必要だとか色々制限がございます。」
「血が必要なのか...どんな血がどれくらい必要なのだ?そこのとこを詳しく教えていただきたい。」
「はぁ、えっと..週一で"人間"の血がコップ一杯必要です。あ、もちろん普通の食事も必要ですよ。それに加えてです。あとこいつらは対象の者は異性の方が喜びます。」
そうだ吸血鬼といえば。
「吸血鬼といえば血を吸うと、吸われた人間は吸血鬼になってしまうと聞いたことがあるがそれはどうなのですか?」
「...ええ、その通りです。"直接"血を吸われますと吸血鬼になってしまいます。また吸血鬼と人間の子供もそうです。」
「...その言い方だと間接的、つまり一回コップなどに注いでそして血を吸わせればいいのですか?」
「......はは...申し訳ございません。私の言葉が言葉足らずのようでしたね。正確には吸血鬼は人間の出す魔力を吸います。吸血行為は体内から魔力を取り出すのに血を使うからです。ですからそのような方法では吸血鬼は生きられません。....不足な説明をしまして大変失礼しました。」
我々を騙すつもりではないか。そう勘繰った。
「あの、質問なのですが質問があります。その方法だとこの商会では週に人間1人を吸血鬼達の食事のために消費しているのですか?私にはそうは思えませんが。」
「...はい。吸血鬼達の真の食料は"血液"ではなく魔力。ですから吸血鬼達には魔力を直接与えております。」
「ではどれほどの魔力を与えれば良いのですか?」
「......」
ご老人が黙る。
「..私は販売担当ですので..よくわかりません。」
「では調べていただきたい。」
今度はご老人は後ろに控えていた手帳持ちの青年に目を向けた。
青年は手帳をパラパラと開く。
「...週に200mpの魔力が必要だそうです。課長。」
「.......」
青年が言葉を発した。
週に200mpだから年間......10000mpか...日本円に直せば1000万円。コスパが悪すぎる。
「あの、お客様。吸血鬼の魅力は不老であることです。経験をつませれば最高の労働者となりえます。」
「ん?いや、今回は子供の教育係を探していてね。子供が大人になれば用済みなのですよ。ですから、吸血鬼以外の魔族を探してきて欲しいです。」
この商会は維持費が滅茶苦茶かかる吸血鬼を処分したがっていると考えた。
「.....吸血鬼以外に恐らくお客様のご要望に会う魔族はおりません。多くの魔族は人と違い何らかの特徴を有しております。耳が尖っていたり、角が生えていたり、肌の色が違ったりなどです。人間にそっくりな魔族といえば、人間がベースの吸血鬼そしてダンジョンマスター位しかおりません。」
「そうですか....一応1人あたりのお値段をお聞かせいただいても?」
「....金貨500枚でございます。非常に高く考えられるかも知れませんが先程申し上げたとおり維持費が掛かるのです。どうかご納得ください。」
ご老人が頭を下げる。
「........」
少し考えてみる。まず、他に該当する魔族がいないという場合だが。耳が尖って居るのなら隠せばいいし、角が生えているのなら削ればいい。実際にミリアもそうしている。彼女はレッサーデーモンという種族だそうだが人間と違う部分として耳が尖っている特徴がある。ただ、彼女は長い髪をしており耳が隠れていたのだ。最近の発見である。
その後彼女の種族について聞いてみた。レッサーデーモンという種族はデーモンの下位種族であり、力が小さかったり寿命が短かったりと欠点がある。ただ寿命が短かいと言っても普通に300年くらい生きるらしい。他の種族もそうなのかと聞いてみると、答えは魔族全般が寿命が長いらしい。
....そうだ。寿命だ、吸血鬼と人間との違いは。
人間社会に溶け込ませるには寿命を人間と均等にしなければ意味が無い。聞いてみよう。
「そう言われてもですね....私は人間社会に溶け込める様な人材が欲しいのです。吸血鬼のように不老であると困ります。せめて人間と同じ位の寿命でなくては....」
「.....それならございますよ。」
「....ん?」
ん?
「ございますよって..そういうのがいるなら先に言ってください。なぜ教えてくださらなかったのですか。」
「あ、いえ、そうですね...。お言葉ですがそれは魔族ではないのです。魔物なのです。レッサーヴァンパイアと言いましてですね。吸血鬼の下位種なのです。私はてっきり魔族の眷属をお望みかと思いましてですね...ははは...申し訳ございません。」
「レッサーヴァンパイアですか...」
魔物なのか...知能とか大丈夫かね。
「レッサーヴァンパイアという種族はどのような特徴を持っているのですか?見た目とか寿命とか知能とか」
「基本的にその三つは人間と同じです。見た目は元より寿命は人間と同じで、知能も退化している個体もありますが基本的に一緒です。また必要な魔力も週に20mp程度です。」
20mp..許容範囲と思えた。またその他の要素においても都合がいいと言えた。
「ただ、レッサーヴァンパイアは光属性にめっぽう弱いです。それこそ日光に少しでも当たったらすぐ死滅してしまう程です。」
「それなら問題ないよ。」
彼らのクラス場所が地下だから。
「それではレッサーヴァンパイアを持ってまいります。少しの間お待ちください。」
そう言うとご老人がこの部屋を出ていった。
そして数分で戻ってきた。今度は3人を連れて。
「こちらが当商会が保有しております、貴方様の条件に合うレッサーヴァンパイア達でございます。右から順に26歳メス、31歳オス、24歳オスです。」
「ん...全員読み書きできるのですか?」
「はいその通りです。」
「では、この中で最も武術に長けているのは誰だ?」
「......」
ご老人が後ろに控えていた青年と小声で話し。
「一番左、24歳のオスのレッサーヴァンパイアです。」
「ではそれを頂きたい。」
「はいわかりました。お値段は金貨60枚になります。」
「分かりました。」
金貨を渡す。
オスのレッサーヴァンパイアが引き渡された。
さすが私より歳が多いだけに身長も高く、顔も悪くないという好青年だった。私は彼と家臣の契約を結んだ。
このまま帰ってしまおうかと考えたが、私は人間も買わなければならないことを忘れていた。
「そう言えば、私は人間の子供も欲しいのです。この店には置いてありますか?」
「ええもちろんです。この商会には、えっと....30人おります。今すぐに呼び寄せます。少々お待ちください。」
私は3杯目の茶を啜る。
今回は20分ほどして帰ってきた。
「色々とわがままを申しましてすいません。」
あまりに遅かったので、大変だったのだろうと思いこのような言葉をかけた。
「いえ、躾がされていないのが多く苦労しました。ではこちらに...」
ご老人が私を接客室からホールに移るように誘導した。私がホールに近づくにつれ、だんだん子供の鳴き声や叫び声で煩くなってきた。ホールは学校の教室程度の大きさがあり開放的であった。ただ実際は動物園であった。足に鎖をはめられた子供たちが泣いたり叫んだり喧嘩したり怒鳴られたり、日光の猿の方がまだ大人しいと思えた。
「ええ、お客様うるさくて申し訳ございませんが、ここにいるのが我が商会に現在御座います人間の子供すべてです。どうぞお選びください。」
「はい...」
子ども達の中には大人しかったりする者もいた。
私は子供らの中から小学校高学年くらいの女子1人と比較的大人しい男女4人を選んだ。
「閣下。5人とは少なすぎませんか?」
ミリアが声をかけてくる。
「いや、しばらくは様子見だよ。順々に増やしていくつもりだよ。」
まずは半年生活して貰ってその後様子を見ようと思う。
苦労をかけたご老人に金貨を支払い、新しく買った者達とともにダンジョンに転移した。
ダンジョンに戻った私はミリアに子供の世話をするように言いつけて地下の暗闇に子供共々放り込んだ後、レッサーヴァンパイアを自宅に連れ込んだ。
私は自分の部屋に行くとあらかじめ用意しておいた大きな鞄と剣を持ってくる。
「この中に食事、寝袋、魔道ランプ、石皿、ナイフ、そして大量の塩が入っている。これでまず子供達と共に1週間生き延びろ。水はダンジョン内にあるし食料はダンジョンを徘徊している。...肉の捌き方は分かるよな?」
「はい。わかります閣下。」
「よろしい。一週間後に迎えにいく。その時に問題点、最低限必要なものを洗い出し報告せよ。」
「はい。分かりました。」
私は彼をダンジョンに放り込んだ後、脳内でダンジョンの管理画面を開く。
この管理画面は自分のダンジョン内でのみ行えるコマンドで、自身のダンジョン内をくまなく監視できる機能である。
私が今見ている映像には先程のレッサーヴァンパイアが泣き崩れる子供たちを必死になだめる姿が見られた。
この娯楽のない世界において楽しみがひとつ増えた。
私はこのダンジョンの成長が楽しみでならなかった。
誤字脱字、文法の違い等を報告していただけたら幸いです。