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いい感じに書けたと思う
日本でいう山岳地帯といえば日本アルプスなどだが世界的に見れば日本国土自体が山岳地帯と見ることも出来た。山の湖といえばカルデラ湖などが想像できたが日本全体と考えれば琵琶湖もそうかもしれない。
私は北方の山岳地帯、その中の比較的に大きな湖を目指している。
北方といえばシベリアのような大地を思い浮かべるが今から行く所もそのようなのだろうか。できれば自然豊かな場所であってほしい。
............
私が舞い降りた場所は大地と森、そして水平線が見えないほどの大きな湖の辺であった。
良かった。
私は一面の銀世界を覚悟していたのだ。下絵を見れば湿った土で周りを見れば針葉樹林と湖、その先は山々と実に美しい自然だ。
おそらく季節が夏なのだろうか。
私はしばらく惚けていたが自分の任務を思い出し、そして即決した。
「ここはいいな。ここにしようか。」
「はいわかりました。」
では早速ダンジョンを作ろうと思ったが、それより先にダンジョンコアを移動させなければ。
私は地面を見渡した。
「どう成されたのですか?」
「ん?..あ、いやダンジョンコアを持ってこようと思ってね...そういえば君を家臣として登録もしなきゃね。」
「はい!伯爵閣下から既にそのような命令を受けております。」
ダンジョンマスターが持ち得る特権の一つとして魔物もしくは魔族を家臣として取り込む事が出来る。
相手を家臣にする条件として双方の同意が必要だが、一度家臣にしてしまえば相手に絶対命令権を酷使できる。しかもこの家臣という地位はその家臣の子供に対しては同意なしで伝承出来るのだ。
ただ、維持費がネックで家臣1人あたりおよそ1000mpの魔力を毎年消費しなければならない。
ちなみに1mpの魔力にどれ位の価値があるかと言うとあまり一概には言えないが、例えば戦闘経験のない一般的な人間を一人殺すと約5000mpの魔力が死ぬ時に放出される。我々はそれをダンジョン内で収集出来るため一人殺したら約5名の家臣を一年間維持できる。ただ維持ができると言っても食費や装備などにも維持費がかかるためそれはさらに膨れ上がる。
実に厳しい世の中だ。
「ダンジョンコアは地面に置かれるのですか?」
「ああ、そうだよ。ダンジョンコアはああ見えて下手すりゃナイフ1本でも傷ついてしまうほどもろいんだ。高所には置けないし、下になにかクッションを置かなければ....」
私は地面を掘り返していた。転がらないようにくぼみを作るのと小石を取り除くためである。
その後私はダンジョンコアを転移させた後、早速ダンジョンの制作に移った。
ダンジョンマスターには地下に住む関係か削岩、採掘などの土木系の魔法が非常に充実している。
それは種類が多いというよりも質が化物で、まるでCADのように地下空間をクリエイト出来る。さすが演算処理によって仮想空間で物理法則を再現し、人間の脳をシュミレートするだけはある。はっきり逝って頭がおかしい。
もちろん魔法には魔力を使う。
さてどのようなダンジョンにするかと考えたが、まあ最初は首都となり得る巨大な空間を作り出そうと考えた。そのため、ここの湖から下500mほどに半径1kmほどの巨大な半球の空間を作り出した。お値段は1千万mpである。ちなみにここの標高は1000m以上だ。
「ここの地下に空間を作った。今から向かおう。」
「はいわかりました。」
我々の足元に魔法陣が輝く。
............
「........」
空気があった。よかった。
岩盤をほぼ消去同然に採掘したものだから、採掘した場所が空気に置換されることを知識と知っていてもやはり心配であった。
「くらい...え、どこ.....キャァ!」
近くで女性の悲鳴が聞こえる。地下で生活することが宿命づけられているダンジョンマスターには暗視機能がデーモンとして働いているが、彼女にはそんな機能はついていない。
彼女を助けようと近づくと急に目の前が明るくなって驚く。
「!?」
「あ~暗くてびっくりした。そうか、地下ですもんね。当然ですよね。」
「おい。それは?」
手元の光源を指さす。
「あ、これですか?携帯型ランプです。魔道具です。」
懐中電灯の様な形のそれを見て文明の発展度を理解した。
私はへーっと相槌を打ち床に座った。
しばらくあたりを見回していると彼女が声をかけてきた。
「それでこれからどのようになさいます?」
「まず昼寝と飯...あ、そうだ。君の家臣としての登録をしなければ...私の家臣になりますか?」
「はい。」
彼女の下に魔法陣が現れ、数秒でそれがなくなる。
「それでは佐々波閣下。これからどうぞ宜しくお願いします。」
「ん。」
儀式は終わった。実にあっけないがそういうものである。しかも数人をまとめて出来るという実に便利なものなのだ。ただ大きなダンジョンを経営するダンジョンマスターは数百万という数の家臣を支配しているのだからダンジョンマスター自体がその様に最適化されているのかもしれない。
「閣下。提案なのですが。公爵領へ行きましょう。」
「公爵領?カンダ公爵か。なぜ?」
「なぜって..あ、失礼しました。えっと、カンダ公爵閣下は転移魔法の解析に成功されており流通を独占されているのは知っていますよね?そのためダンジョン間の交易はカンダ公爵領をハブとして行われているのです。ですから物質や奴隷、使役するべき魔物や魔族そして知識なんかはすべてあそこで手に入ります。もちろん食事やベットもあるので、しばらくはそこで活動するのが良いかと....」
「ほー。いい考えだ。」
なるほど、いいんじゃないかな。
「それで公爵領の場所は知っているか?」
「はい、有名ですから知っています。経度99.6度、緯度59.6度。公爵領最北端の都市にして世界最大の交易都市、コウトに向かいましょう!」
私は準備を始める。
............
私は昔から城などに縄張り図を眺めるのが好きだったがこのような大都市を眺めるのもいいかもしれない。私の脳内にCADもどきで大都市が投影されている。彼女が示した緯度経度にある大広場を中心に自転車の車輪のように道が周りに伸びている。なんだかパリに似ている。
「中央の広場に降りればいいのか?」
「はい、そうです。」
広場には多数の人影があったが、人が避けて通る場所があった。
そこに私は座標を合わせる。
我々の足元に魔法陣が現れる。
............
転移魔法は非常に便利で、ほんの一瞬ですぐに目的の場所まで行ける。地球などをひっくるめてもおそらく最も効率的な移動方法だ。ただこの魔法にはそれ相応の対価が必要であり、それは移動距離と移動する物体の重量に比例する。また欠点としてそれはダンジョンマスターにしか取り扱えない魔法であり、公爵領が解析して運営している転移魔法が開通していない場所に行くにはダンジョンマスターと交渉するしかなく、そしてダンジョンマスターは殆どが裕福だから転移魔法を使用したい者は莫大な金額を対価として提示せざる負えない。
実はこの話は我が家臣であるミリアに教えてもらった話で、この方法で初期費用を稼いではいかがかと提案されたものである。実際興味のあった話でダンジョンなぞ運営しなくてもそれで稼いでいけるではないかと思ったらそうではなく、迷宮連合法には「ダンジョンマスターはダンジョンを運営して魔力を生産、徴収する義務を負う。」とありそのような生活は不可能となっている。
そして私は公爵領に転移した。
目の前が眩しく開けた瞬間、物凄い熱量と匂いが顔に襲いかかってきて危うく倒れそうになった。光に慣れてきた目に見えたのはあちらこちらを移動する人人人人人。
彼らはヨーロッパ風の衣装を着ており、まあ顔がヨーロッパなのだがなんと言うか、地球でいうゲルマン系の民族衣装を着ていた。
空を見上げる。太陽が見える。ん?なぜ地下に太陽があるのだ?
彼女を探そうと周りを見ると私のいる場所は白い円が書かれた地面の内側にいることがわかり、なにか察した私はその円の外へ出た。彼女が何か言っているそぶりを見せたが雑音で何を言っているかわからなく、彼女に裾を掴まれ引っ張られたので素直にそれに従った。
しばらく歩くと立派な西洋建築が見えて、その中に引っ張りこまれた。看板に「銀行」の文字が見えた。
「閣下。ようやく静かなところにこれましたね。」
「ここは銀行のようだが?」
あたりを見回す。ホテルのホールみたいだ。頭上でシャンデリアが輝いている。
「はい。ここで魔力を通貨に換金致しましょう。魔力も一応は通貨として成り立ちますが、扱っている店はほんの一部です。」
「なるほど。では手続きを頼む。」
彼女は窓口の所に行くと交渉を始めた。
............
銀行を出て、換金を行った私は手元の銀貨や銅貨を見ていた。
彼女の話によると金貨1枚が魔力100mpの交換比率で換金できたらしい。
「ここの貨幣はどの様な種類があるの?」
「ここで主に使用されている貨幣は銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、後は鉄貨などの屑銭です。銅貨10枚が大銅貨で、大銅貨10枚が銀貨、銀貨10枚が金貨の交換比率です。」
「へぇー...例えば一般人が食事する時およそどれ位の金額がかかる?」
「凡そ銅貨5、6枚です。」
「ふーん。」
その後我々は宿を探すことに決めた。時差の関係かここは明るいが私の感覚ではもう夜である。早く睡眠を取りたい。
ただ彼女の意見でアパートを借りることになった。長期滞在になりそうだからである。
私は比較的安い宿を求めると彼女が私を露天の並ぶ賑やかな大通りに案内した。私はそこで軽く軽食を食べ歩いていたが、露天に並ぶ商品の価格を見ているうちに日本の円とこの世界の貨幣との貨幣価格の差がよく分かってきた。やはり物品によって違いがあり一概に言えないが食料価格を基準にするとおよそ100円=銅貨1枚の比率だとわかった。だとすると金貨1枚=100mpだから1mp=1000円となる。そして伯爵から得た資金が5千万mpだから.......500億!?うせやろ?
しかも先程空間を作る時に使った魔力はおよそ1千万mpだからおよそ100億円....大事に使わなければ...。
彼女の案内の元アパートについた。ここは月々あたりの家賃が金貨1枚に銀貨4枚、大銅貨3枚であったが通りから近いという事もあり納得した。
部屋にはベットが付いていたので早速寝た。
............
ん、朝日か。よう寝た。
「おはようございます。閣下。」
「おはよう。」
かなり寝た気がする。疲れを取るつもりが、寝付かれてしまった。ん?そういえば朝日....
「たしかここは地下のはずだが......なぜ太陽がある?」
「ああ、あれですか?光属性の魔石です。魔石は知っていますよね?」
「ああ知っている。」
もし魔石を説明しようとするならばまず生物学の話から入らなければならない。魔石とは魔力が通りやすい固体の総称で、実に多くの種類がある。だがその魔石の入手方法は2通りしかない。それすなわち魔物や魔族の死体から入手する、もしくは地下から掘り出すかだ。
まず初めに魔物や魔族から取れる魔石の解説に入るが、まず人種と動物と魔物と魔族の違いについて説明させてもらう。
まず、この4種の違いとは「魔石を体内に所有しているか」と「魔力を自身で生成出来るか」である。魔石を体内に所有しているのは魔物や魔族でありしていないのが人種や動物。魔力を自身で生成できるのは魔族と人種であり出来ないのが魔物と動物である。
ちなみに魔力の生成には例外があり、スライムやトレントなんかは魔物だが魔力を生成できる。まあこれにも理由があるのだがそれの説明を始めると訳が分からなくなるのでここでその事は切っておく。
話を戻し、なぜ魔物や魔族には魔石があるのかと言うとそれは魔力を貯めておくためである。魔力の管理を魔石一点で管理しているため、魔力の使用効率がいい、魔力を一定量貯めて置ける、魔石と命さえ無事ならば怪我をしてもすぐ回復できる、などの利点がある。逆に欠点として、魔石が壊れれば死んでしまうこと、魔石の属性によって使用者が発動できる魔法の属性が制限されること、がある。ちなみに私も魔族であり、魔石はご存知の通りダンジョンコアである。
次に体内で魔力生成出来るか否かであるが、なぜ魔族や人種だけが魔力を生成できるのかは分かっていない。
魔物や動物が魔力を生成出来ないため魔法を使えないかと言うとそうではなく、空気中にある魔力を使用して魔法を行使できる。それに魔物や魔族は魔石があるため、その空気中の魔力を取り込み貯めておける。それに比べて人種は魔力を貯めて置けないから不利かというとそうではなく、魔族に比べて魔力の生成量が比較的大きいというメリットがある。特に人種の中でも人間は魔力生成量が素晴らしく、一般人でも中級魔族のそれに匹敵する。ちなみに人種の中でもエルフは魔法の使い方がうまいことで有名だがそれは周囲の魔力を操るのが得意なだけであり、魔力生成量は人間の方が多い。
魔石の話に戻ると魔石は魔物や魔族の死体、もしくは昔死んだ魔物や魔族の魔石が地中から掘り起こされるかのどちらかの入手法に限られるのだ。
また先程も触れたが魔石には属性が存在し、火、水、風、土、光、魔、無属性の7種類にわかれる。ただ科学的に分析すると火はプラズマ操作、水は液体操作、風は気体操作、土は固体操作となる。光と魔はよく分からない。無属性は以下の6つに当てはまらない魔法になる。転移魔法なんかがそうだ。
そしてその属性持ちの魔石は魔力を流すと何らかの働きをすることがある。例えば火属性の魔石に魔力を流すと熱を出したり火を出したり帯電したり....そして光属性の場合は光を発したりする。きっとあの太陽はものすごく大きな魔石なのかもしれない。
「あの魔石は加工品だそうですよ。小さな魔石を砕いて何かしら手を加えたそうです。一部のダンジョンでしか製造していないハイテク技術です。」
へぇーそうなんだ。
............
着替えをした私は彼女と朝食をとっていた。
「ダンジョン運営のことだが。」
「はい。」
「既に方針は決まっている。....人間を飼う。」
「はい....それしか選択肢はないと思います。」
人間は魔力を多く生成出来る生き物だ。ダンジョンで魔力を集めるのが仕事なダンジョンマスターにとって彼らを飼うというのは普通の選択肢と言えると思う。
「閣下。ただ人間を飼うにしても維持費が問題です。」
「?、どれくらい掛かるのだ?」
「だいたい人間が一年間最低限の生活をするのに資金はおよそ金貨10枚程かかります。そして人間が一年間に生成できる魔力は平均で200mp...金貨2枚です。」
「では大赤字ではないか。」
「ですから彼らに労働をさせるのです。そうすれば彼らの生活物資は自ら生産することになり、こちらは上手く行けば税も取れます。」
つまり人間牧場ではなく強制労働施設にせよと。
「閣下。まずは500人を目標にダンジョンを経営しましょう。」
「なぜ500人なんだ?」
「ダンジョンマスターが1年に消費する魔力はおよそ10万mpです。ですから500人であれば閣下の食費分は稼げます。」
ダンジョンマスター..いやダンジョンコアは莫大な魔力を消費する。その数がおよそ10万mpで円に治すと1億円も掛かるのだ。一年間の食費が1億ってヤバすぎる。
「ただ焦る必要は無いかと考えます。費用はそこそこありますし、迷宮連合からはほぼ無利子で魔力を借りることが出来るはずです。」
「そうか。」
食事を進める。
食事.....そういえば
「そういえば、公爵領では魔石の太陽を使って農業をしているのか?」
「はい。多分そうです。」
「他のダンジョンマスターもこうやって食料を生産しているのか?」
「いいえ違います。あの魔石はとても高価なもので伯爵領でも1つしか運用していませんでした。それにあの魔石の光を使用した農業はとても非効率です。あの光の全てが植物の葉っぱに当たる訳ではありませんから。」
「ではどうやって食料を生産しているのだ。」
「基本的にはリサイクルと地上からの資源の流入です。スライムはご存知ですよね?あの生き物は基本的に有機物ならなんでも食べます。ですから排泄物や死体をスライムに食べさせて。で、その成長したスライムをワーム等の捕食生物に与えることによって肉を得るのです。あ、失礼しました、お食事中にこんな話を...」
「いや、いい。で、地上からの流入はどうやっているだ?」
「それはダンジョンによってそれぞれですが。例えばダンジョンに入ってきて死んだ人間の死骸も資源ですし、また地上に出ていって狩りをしたり戦争したりで資源を得たり、地上に土地を持っているダンジョンならそこで農業をして資源を得るという手もあります。」
「へぇー。地上に土地を持っているダンジョンマスターもいるのか。」
「はい。あ、でも持てる土地は限られますよ。連合法で決まっているのです。確か地上の人間の数を調整するためだと聞いたことがあります。まあ多分、地上の人間とあまり対立したくないからだと思いますけど。ちなみにその土地は地上の人間からは魔族の国だと見られているようです。」
「なるほど。」
地上の資源が重要だと分かった。
なら、では私はどの様ダンジョンを作れば良いか。
「出来ることなら他のダンジョンマスターに会ってノウハウを学びたいが...そんなことは出来るか?」
「いえ、私には他のダンジョンマスターに会う術が思いつきません。ですがご安心ください。私の役割はそんな方の運営をお手伝いする事なのです。」
「おお頼もしい。では、我がダンジョンは一体どのような運営を行えばいいと思う?」
「まずはウルフ系の魔物を揃えるべきです。そしてそれらに地上で狩りをさせ、地上で資源を回収します。まずはそれから始めるべきです。」
「そうか。では今日はウルフ系の魔物を手に入れることを目的に仕事をしよう。」
私は朝食後に支度を整え、彼女の案内の元外へ出た。外は昨日と同じで騒がしく、私の朝の清々しさに悪臭と熱気をもって釘を指してきた。
我々はいくつかの通りを抜けてとある通りに出た。彼女の話では奴隷市場だそうだ。
そこは先ほどの大通り程の活気はないが、時折聞こえる動物のうめき声や叫び声が聞こえてきて多くの兵隊がこの通りを徘徊しているのもあり何とも言えぬ物々しさがあった。
私は彼女について行くと、通りの入口にあった背の高い建物に入っていった。
「ここは奴隷交易組合本部です。ここに各奴隷商会の管理している奴隷のリストがある筈です。まずはここで調べてから店を探しましょう。」
彼女がそう話すと受付に向かった。
我々は受付から出てきた男性に個室に案内された。私は彼にウルフ系の魔物を欲していることを伝える、対象の店のリストを揃えてくれた。
私は彼に礼を言うと建物を出て、それらの店向かった。まず初めに向かったのは交易組合本部のすぐ隣にある大きな店であった。
私はその店に入ると「いらっしゃい。」の声と共に身分と目的を聞かれた。私はウルフ系の魔物を欲していることを伝えると店から黒髪の中年男性が出てきて、我々は店裏の広場に案内させられた。
この奴隷市場と言う通りはこの都市の南端に位置する場所にあり、人が殆どが来ない所である。今私の目の前には広場ととても大きな工場の様な建物があり、その敷地を確保する為にここに店を構えているのかと考えられた。まあ予想では目の前の建物は工場などという生易しいものではない気がするが。
しばらく広場で待つと工場から複数の人影とそれによって率いられた牛程の大きさも有る狼の隊列が現れた。ただそれ程の大きさの狼は最初の数匹で後に出てきたのは大型犬程度の大きさの狼であった。
「こちらが現在我が商会が管理しているウルフ11匹、ハイウルフ5匹各種、計16匹にございます。」
目の前に整列している狼らは「各種」と言われるように個々に違う特徴があり、毛の色からしても黒や灰色、白など違いがあった。
登場とついでに価格も提示してきた。ハイウルフが金貨百枚前後、ウルフが金貨五枚である。
「ハイウルフは準知的生物に分類される生物です。ですからとても頭が賢く、群れのリーダーとして運用できます。ウルフを複数匹飼われるのでしたらハイウルフも買われることをおすすめします。」
どうしようか。ハイウルフは1匹飼う事は考えたがなかなか値段が高い。ハイウルフ一匹でウルフ20匹価値があるのか?
「この商会で管理しているウルフ系はこれすべてか?」
「すべてにございます。」
「それにしてもハイウルフが高すぎないか?確かに高位種とはいえウルフの20倍の価値があるのか?」
「はい。ハイウルフは非常に希少な種族でございますもので。」
「...へぇ..それにしてはこの商会のハイウルフはウルフに対して割合的に多くいる気がするが...」
「..それは我が商会が保有する牧場にてウルフを飼育しているからです。ここにハイウルフが多いのは彼らが賢く、このような場所で飼育しても大丈夫な種族だからです。」
最もらしい理由。
なにかぼったくられている気がしないでもないが...。例えば私が他の店に行って価格を聞いてきたらすぐバレる嘘である。しかも私はダンジョンマスターであり、これからお得意様になり得るかもしれない存在。果たしてほんとうにそんなことをして彼らにメリットがあるのか。
「.....今回の入店は各商会の下調べの意味もあるのです。失礼ながら他の商会を回ってから決めたいと思います。」
「はい。それはお客様の自由です。我が商会は何時でも貴方様の入店を歓迎します。」
そう言われた後我々は店を出た。
............
結果的に言えばほかの商会を周るのは完全に無駄足であった。
ウルフの値段は他も同じであったし、ハイウルフはそもそもどこの店にも売っていなかった。
...なるほど道理で高いわけだ。
私はどうしてもハイウルフが欲しかったため先ほどの商会に戻ってきた。
「いらっしゃいませ。ササナミ様。先程のウルフらは既に広場に連れてきております。さあこちらに。」
広場には先程と同じようにウルフ、ハイウルフが並んでいた。
さてどうしようか。正直値切れる気がしない。
「そういえば先程色々な店を見てきたがハイウルフを置いている店はここだけのようですね。ここはウルフ専門店なのですか?」
「いえ、そういう訳ではございません。オークやドラゴンなど色々揃えてございます。」
「ここの通りではここしかハイウルフを手に入れられないようだね。実に儲かるだろう?」
「あ、あはは、いやあれで適正価格でございます。」
ん..私がハイウルフをご所望なのは既に周知の事実のはずだ。だからここでの店員さんの反応は二通り考えられる。私がハイウルフをご所望なのを盾に私を口論をするか、なんとか尤もらしい理由をつけこの商会へのイメージ低下を避けるか。前者ならハイウルフを盾に私を説得できるがもしかしたら今後来なくなるかもしれない。後者ならもしかしたら損を負いかねないが今後も来てくれるかもしれない。きっと彼の脳内はこのような価値基準だ。
もっと簡単に表せば前者が戦術的勝利、後者が戦略的勝利。
まあただ私の考えがあっているとすると彼は知りたいことがいくつかあるはずだ。例えばこの人物は本当にまたこの商会で買い物をしてくれるかどうかとか。
まあただ最初は相手の弱みをつんつんするところから...
「ハイウルフをこの通り以外の場所で取り扱っている店を知っていますか?」
「さあ、他店のことは存じ上げません。」
ありゃりゃ。断言させられた。
「そういえばこの店では人間の奴隷も扱っているのですか?」
「はい。この通りで一番の品揃えです。」
「そうか...人間もほしいな...」
この店で人間を買うことを条件に値引きさせようと思ったがやめた。人間の方でぼったくられそうだからである。
「ハイウルフが普通のウルフの20匹分の価値というのがどうにも納得出来ない。せめて5匹分の価値だと思うのだがどう思われますか?」
「私は20匹分の価値があると思います。彼らは知性があり体格も大きく、群れのリーダーとして働けます。」
「.......」
あららこりゃダメだ。値切れる気がしない。ここは喧嘩腰にでも値切るべきか?
と、ここで後ろから女性の声がした。
「閣下。私は他の奴隷市場を知っています。それに狩りに特化した魔物は何もウルフ系だけではございません。価格が納得出来ないのでしたら今日はここで引くべきです。」
ミリアか...
「んー、そうか?」
「あ、あの...」
店員の人が話してきた。
「なにか?」
「ハイウルフの事ですが2割程度の割引なら応じさせて頂きます。もちろん今回だけですが...」
やったぜ!あんなに頑固だったやつがついに弱腰を見せた!
「あのですね..いくら先程の話を聞いたとしても私にはハイウルフがウルフ20匹分の価値があるとは思えないのですよ。私には5匹分の価値にしか見えないのです。」
「それだと値段の四分の一ではありませんか...そんなのには応じられません。」
「いや、私は狩りをするために彼らを使いたいのです。ハイウルフはウルフ20匹分の仕事をするのですか?」
「いえ、違います。ですが知能の高いハイウルフは群れにおいてこそ絶大な能力を発揮するのです。」
「ではハイウルフを群れに入れればウルフは20倍の働きをするように成るのですか?」
「いいえ、あ、いや....そんなはずありませんが..うーん..なんか違う気が..」
酷いだましである。そんな計算はしてはいけない。
例えばハイウルフはウルフの能力効率を1.5倍にすることが出来る力があるとしよう。そしてハイウルフを40匹のウルフの集団に入れるとすると、ウルフの個々の力が1.5倍になるからその集団は約ウルフ60匹分の力を持つことになる。そして60-40で20匹分の価値をハイウルフが持っていると言える。これが正しい計算だ。
ただ今までの話の流れで「ハイウルフはウルフの20倍の価値がある。」と言う一種の固定概念が生まれている。だからこんな考えに彼は至れない。
「ですからせいぜい5匹程度の価値だと申したのです。もっと納得ができる価格でなければ取引できません。」
「.......うーむ............」
彼は生粋の文系であるようだ。
「......5割引..それ以外はお譲りすることが出来ません。」
やったったぜ。
人を騙すことはいけないんだぞ!(特大ブーメラン)
まあ今回は価格設定があまりにおかしかったので価格交渉をしたのだが、出来ればもうやりたくない。私は今は大金持ちであり、それを社会に還元しない事こそが罪となり得る。ただ、正しい価格設定をせず、労働では無く言葉と状況によって利益を得るのは社会的に良くないことだ。
まあ今回は単にあくまで利己的な判断で行動したのであり、こんな理由は他者向きの言い訳である。
それに私はダンジョンマスターであり、金銭関係は自分の生死にどストライクで影響を与える。だから公の為にそう簡単にお金は動かせない。また私は生粋の日本人であり、自分の民族以外のためになにか行動しようともあまり思えない。
結局ハイウルフのオスとメス一匹ずつ計2匹、ウルフのメス6匹とオス2匹の計8匹を買った。
私は彼らをダンジョンへ転送した。
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