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お菓子男子side

サブタイトルにもあるように、この話は北村康大目線の話になります。

「おし。できた。形は多少悪いけど、まぁ、上出来でしょ」

意外と簡単に作れるもんだな、トリュフって。去年のバレンタインは何作ったんだっけ?クッキーだっけ?ケーキだっけ?あれ?去年は作ってないか?よく覚えてないや。

何にしても、今年は上出来。形は悪いかもしれないけど、味は悪くないし。きっと喜んでもらえるだろう。

「ん?もうこんな時間か。早く行かないと」

急いでバイト先に向かおう。別にバレンタイン当日の明日持っていってもいいけど、俺は遅番だし、できたら、当日に食べてもらいたいしな。着く頃には店は閉まってるかもしれないけど、まだ誰かいるだろう。いなかったら、いなかったとき。潔く諦めて明日また持ってこう。


─── ───


やっぱり、閉店時間には間に合わなかったか。でも、この時間ならまだ誰かいると思うんだけどな。お、よかった。やっぱりまだ誰かいるみたい。

「こんばんは……」

こんな時間に来ることないから、なんか緊張するな。

「ん?誰ですか?……え?ヤス?どうかしたんですか、こんな時間に」

「おお、健史郎。明日のバレンタインのためにチョコを持ってきたんだ」

「バレンタインのチョコ?また作ったんですか、お菓子」

少し呆れたように笑う健史郎。

「まぁ、いいじゃん。これは俺の趣味みたいなもんだし。それに健史郎も大体喜んで食べてくれるじゃん」

そう、前にも誰かの誕生日とか、クリスマスとか、何か機会があるときには、結構お菓子を作ってる俺。たいていの人は喜んでくれる。その中に健史郎も含まれる。

「それはヤスの作るお菓子がうまいからでしょ。普段いろいろと大雑把のヤスがあんなにうまいお菓子を作るなんて、誰が想像できますか?」

「その言い方、いろいろとひどいぞ。わかって言ってるだろ、健史郎」

笑いあう俺と健史郎。こういう気安い関係ってのは楽でいい。

「それで、今回は何を?」

「これこれ。トリュフっていうやつ。見た目、作るのが難しそうだけど、これが意外と簡単。俺も作ってみてびっくり」

カバンからタッパーを取りだしてふたを開ける。やっぱりちょっと形が悪いな。

「ああ、見たことありますね。これを?ヤスが?……やっぱりヤスは普通じゃない。おかしい」

やけに真面目な顔で言う健史郎。そういう顔でいうと冗談も冗談に聞こえないぞ。

「そんなにおかしいか、俺。そうか。じゃあ、お菓子を作るおかしい俺はさながらお菓子男子だな」

「ん?なんですか、それ」

「で、どうする。今食うか?」

タッパーを持ち上げながら聞く。

「うーん、今はいいですね。明日のために持ってきたのなら、明日食べたほうがいいですよね」

「そっか。じゃ、冷蔵庫に入れとくか。」

タッパーのふたを閉めて冷蔵庫へ入れる。

「チョコが冷蔵庫に入ってることもどこかに書いとかないとな。えっと、紙、紙」

手ごろな紙に『冷蔵庫にチョコを入れておきます。みなさんでどうぞ 北村』と書いて事務机の上に置いておいた。


─── ───


ピロリロリン♪


そろそろバイトに行こうと準備をしているところでスマホが鳴った。見ると、健史郎からメッセージが届いていた。メッセージを開く。

『ヤスのチョコレート、食べました。うまかったです。ありがとうございます』

律儀だな、健史郎。

『わざわざメッセージ、ありがとう。喜んでもらえたみたいで作った甲斐があったよ』

とメッセージを返す。そして支度が整ったのでバイトに向かう。バイトに向かう道すがら、またメッセージが届く。

『ヤスにもいいものがありますよ』

健史郎はたまに勿体ぶった言い方をする。どういうことかとメッセージを書いている途中でまた健史郎からメッセージが届く。

『衣咲さんからチョコもらったんだけど、めちゃくちゃうまいよ!!みんなの分あるって言ってたから多分、ヤスの分もあるんじゃないかな。本当にオススメ』

……なんだって。奈美ちゃんのチョコ。それは気になる。ほしい。

『それは楽しみ。教えてくれてありがとう』

内心の浮かれようを悟られないように文面に注意して送る。

やばい。テンション上がる。何ならスキップしてもいい。スキップしてもおかしくないくらいに浮かれてる。本当にスキップはしないけどね。少し早足でバイト先へ向かう。


─── ───


「おはようございまーす」

挨拶しながら入室。

「あ、おはようございます」

「お、奈美ちゃん、おはよう」

健史郎のメッセージからもらってたから、奈美ちゃんがいることはわかってたけどね。いきなりチョコちょうだいっているのもなんだし、まずは俺のチョコの感想でも聞いてみるかな。

「ねえねえ、俺の作ったチョコ食べた?どうだった?」

「北村さん」

「はい、奈美ちゃん」

あれ?なんとなくいつもより顔が険しい感じがする。いや、でも気のせいかな。

「もう、嫌いです」

「へ?どゆこと?」

え?嫌い?ただチョコの感想聞いただけなのに、なんで嫌われるの?

「あんなおいしいチョコ作るなんて。もう、嫌いです」

おいしいもの作って嫌われるの?何て発想をするんだ、この子。

「ええ~、何だよ、その言い草。あーあ、せっかく奈美ちゃんのために作ったのに……」

「え?何ですって?」

「ん?」

今俺なんて言ったっけ?えっと……あ!

「ああ。せっかく奈美ちゃんのためにも作ったのにって。そういえば、奈美ちゃんもチョコ作ってきたんでしょ。俺にもちょうだいよぉ」

「なんで私が作ってきたって知ってるんですか」

さっきよりも顔がさらに険しくなったような、そうでもないような……。

「なんでって、健史郎からメッセージが来たんだよ。奈美ちゃんのチョコがめっちゃうまいって」

「澤田さんから?メッセージ?そのメッセージ、今すぐ見せてください」

奈美ちゃんの勢いにちょっとひるむ。

「え?あ、うん、いいけど。……ほら」

スマホを取りだして、健史郎からのメッセージを表示させて奈美ちゃんに見せる。奈美ちゃんの目が文面を追ってる。顔の険しさがだんだんなくなっていく。チョコの味を褒められるのがそんなにうれしいんだな。機嫌もよくなったみたいだし、

「だからさ、奈美ちゃん、チョコちょーだい」

「しょうがないですね。といっても、冷蔵庫に入ってますから、勝手に持ってってください」

「やったね。ありがと」

喜び方が大げさだったかな。健史郎からメッセージをもらったときは抑えられてたんだけどな。奈美ちゃんしかいないからかな。

「ところで北村さんはあのチョコ、どうやって作ったんですか。作り方教えてください」

「作り方?」

そんなこと知りたいんだ。あ、来年作ってくれるのかな。

「いいよ。あれはねぇ…………」


─── ───


「それで結局、健史郎はいくつチョコもらえたの?」

バレンタインの次の日。バイト終わりに健史郎とちょっと雑談。

「ヤスのも含めると、4つかなぁ」

「いや、俺のを含めるなよ」

素早いツッコミ。健史郎が別にボケたわけじゃないけど、一応ツッコんどかないとな。まわりに勘違いされても困るしな。勘違いするような人もいないけど、たぶん。

「4つか。いいなぁ。俺は奈美ちゃんからの義理チョコ1つ。さみしい奴だな、俺」

半分本気半分冗談でちょっと自虐。こういうとき健史郎はたいてい本気で受け取る。

「そんなことはないと思う」

やっぱり。

「もらった4つ、全部義理だから。さみしい奴っていうなら、ヤスと変わらないかな」

……全部義理?いや、本気で言ってるんだろうけど、そんなわけないじゃん。

「全部義理なら、たしかにそうかもな」

「そうです、そう。変わらないよ、ヤスと」

いやいや、だからお前は違うんだって。こういうところが健史郎の長所であり短所なんだけどな。おおらかというか、鈍いというか。

「ま、来年に期待ってことだな。……そろそろ帰ろか」

帰り支度は整えていたので、荷物を持って外へ出る。健史郎とは変える方向が違うのでここで別れる。

一人、歩きながら考える。

俺も鈍いは鈍い。そんな鈍い俺でも気づいたことに気づいてない健史郎はもっと鈍い。真面目で、おおらかだけど鈍くて、でも変なところで鋭くて、本当にいい奴だよ、健史郎は。友達になれてよかったと本当に思う。けど、そんな健史郎相手でもゆずれないものはある。

「……すまんな、健史郎」

なんとなくつぶやいてみる。今晩は昨日よりも寒いように思えた。


─── ───


チョコの評判は大体よかったなぁ。奈美ちゃんには嫌いって言われたけど、チョコはおいしいって言ってたし。次はホワイトデーか。何を作ろうかな。


とりあえず完結にしておきます。

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