スイーツ女子side
YouTubeで配信されている ながらラジオ(https://www.youtube.com/channel/UCWp4bcyux3e4Hh8wmMzDzIQ)からインスピレーションを得、インスパイアされて書きました。
昔、インターネットラジオで聞いたエピソードも少し含んでいます。
まだまだ荒削りの文章なので、読んでいただいた方は感想をお願いします。
2017/07/29 改訂
特に意見等がなければ、これが決定稿となります。
その夜、私は明日のバレンタインのためにチョコを作っていた。トリュフを作ってるんだけど、もうちょっと凝った作りにすればよかったともう後悔してる。ブランデーやラムを足してみるとか、ドライフルーツを入れてみるとか……。
でも、しょうがないか。買いに行こうにも、もうお店もやってないし、明日作り直すと間に合わなさそうだし。うん、そう納得しよう、私。
そうこう思っているうちに、よし、できた。トリュフチョコレート奈美スペシャル。……言ってる私が恥ずかしい。
き、気を取り直して、あとはラッピング。トリュフをカップに載せて、小さな袋に2つずつ。マスキングテープできれいにデコって出来上がり。うん、上出来、上出来。……1袋だけ、3つ入れて、これは澤田さんの分、と。わかりやすいように、テープの止め方も工夫してっと、できた。
……ちょっと派手かな。ほかのと比べると特別感が出ているような気もするけど。うーん、どうしよう。やり直そうかな。でも……、うん、いいかな。気のせい、気のせい。気づかれたら、気づかれたとき。むしろ気づかれたほうがいいかも、……恥ずかしいけど。
いろいろと準備はちゃんとしてるのに、細かいところでうじうじしちゃうのが私の悪いところ。うーん、でも、きっと大丈夫。不安に思うことはしょうがない、と思っとこう。明日に備えて、今日はもう寝よう。澤田さんは明日早番のはずだから、お昼過ぎにバイト先に行けば、ちょうど帰るところで会えるはず。私は遅番だから不自然かな。いや、早番の人たちのためにチョコをもってきたってことにすれば不自然じゃないはず。……だから、考えすぎだって、私。大丈夫、大丈夫。きっとうまくいく。とにかく今は寝よう。
───X───
……あぁ、緊張する。いつも通り、いつも通り。心で繰り返し念じながらバイト先のお店へ。
「おはようございます」
挨拶しながら、事務室兼ロッカー室兼更衣室に入る私。
「おはようございます。って、衣咲さん?」
入ったとたん返事があって少しびっくり。澤田さんがちょうど着替えていた。一応、仕切りのカーテンはあるけど、さっきのびっくりと合わせて、ドキドキする。
「あ、澤田さんですか。おはようございます」
ドキドキを悟られないよう、平静を装う私。
「どうしたんですか、こんな中途半端な時間に」
たしかに。普段この時間に来る人はいない。早番にしては遅いし、遅番にしては早い。
「今日ってバレンタインじゃないですか。チョコ作ったので、早番の人にも食べてもらおうと思って」
昨日考えた通りに答える。ただ、ちょっと早口になってたかも。まだドキドキしてるのかな。平常心、平常心。
「え、チョコ作ってきたんですか?もしかして、僕の分も?」
「は、はい。ありますよ。みなさんの分、作ってきましたから」
ちょっと声が上ずってしまった。恥ずかしい。
「本当ですか」
カーテンを開けて出てくる澤田さん。よかった。声が上ずったことは気に留めてないみたい。やっぱりちょっと意識しすぎてるかな。しょうがないよね、好きな人を目の前にしてるんだから。
「ちょっと待ってください」
荷物の中から3つ入りを探す。間違えないようにラッピングした結果、少し派手な見た目になってしまったあの袋を。
「えっと、はい、これです。どうぞ」
うん、間違えずに渡せた。届け、私の想い。
「ありがとうございます。めちゃくちゃうれしいです」
と言って、カバンにしまう澤田さん。
「……今、食べてくれないんですか」
あれ?何を口走ってるの、私。そんなこと言わなくてもいいじゃない。
「え?ああ。さっき、ヤスの作ってきたチョコ食べたんで。今はまだちょっといいかなって。すみません」
あぁ、謝らせてしまった。
「あぁ、いえ、いいんですけど。え?北村さんの作ったチョコって何ですか」
「あの冷蔵庫に入ってますよ。昨日の閉店作業中にいきなり来て置いていったんです。なんか、早番の人にもバレンタイン当日に食べてもらいたいとか。ほら、そこの机の上にメモがあるでしょ。前もクリスマスのときにケーキ作ってきて、こんなことだけマメですよね。あいつの言うように、あいつはやっぱりお菓子男子だ」
たしかに机に『冷蔵庫にチョコを入れておきます。みなさんでどうぞ 北村』とメモがある。
「お菓子男子?お菓子男子って何ですか」
「チョコを置いていったときにあいつが言ってたんですよ。僕がお前はおかしいって言ったら、それなら俺はお菓子男子だって」
お菓子とおかしいをかけてお菓子男子……、こういう発想にはなかなかついていけない。
「ヤスのチョコ、結構うまかったですよ。衣咲さんも食べてみたらどうですか?」
「はい、じゃあ、食べてみます」
冷蔵庫を開けると、大きなタッパーが入っていた。透けて見えるのはどう見てもトリュフ。カブった……。1つ取りだして食べる。…………おいしい。え、これ、私のよりも、おいしくない?なめらかで、甘さの中にも苦さがあって、その苦さがむしろ心地いいというか、甘さと苦さにバランスがちょうどいい感じ。
「どう?結構うまくない?」
「そ、そうですね。おいしいですね」
心の中で苦笑い。カブった上に、私のよりおいしいとか。ちょっと泣きそう。何なの、北村さん。なんか、ちょっとムカつくんですけど。
───X───
「おはようございまーす」
北村さんがやってきた。北村さんも今日のバイトは遅番。
「あ、おはようございます」
あ、今の挨拶、ちょっとそっけなかったかな。でも、しょうがないよね。あんなおいしいチョコ、作れちゃうんだもんね。
「お、奈美ちゃん、おはよう」
いつも通り、ちょっとなれなれしい北村さん。さっき挨拶は返したので、軽く会釈だけしておく。
「ねえねえ、俺の作ったチョコ食べた?どうだった?」
……わざわざ聞きますか。ええ、そうですか。
「北村さん」
「はい、奈美ちゃん」
何なんだろう、このヒトは。軽いというか、チャラいというか。どうしてこんな人があんなおいしいチョコを作れるんだろう。
「もう、嫌いです」
「へ?どゆこと?」
なんて間抜けな顔をしてるんだろう。本当にこの人があのチョコを作ったんだろうか。
「あんなおいしいチョコ作るなんて。もう、嫌いです」
「ええ~、何だよ、その言い草。あーあ、せっかく奈美ちゃんのために作ったのに……」
え?何て言ったの、このヒト。
「え?何ですって?」
「ん?…………ああ。せっかく奈美ちゃんのためにも作ったのにって。そういえば、奈美ちゃんもチョコ作ってきたんでしょ。俺にもちょうだいよぉ」
「なんで私が作ってきたって知ってるんですか」
「なんでって、健史郎からメッセージが来たんだよ。奈美ちゃんのチョコがめっちゃうまいって」
「澤田さんから?メッセージ?そのメッセージ、今すぐ見せてください」
「え?あ、うん、いいけど。……ほら」
スマホに表示させたメッセージを見せてくれる北村さん。そこには
『衣咲さんからチョコもらったんだけど、めちゃくちゃうまいよ!!みんなの分あるって言ってたから多分、ヤスの分もあるんじゃないかな。本当にオススメ』
とあった。なにこれ、すごくうれしいんですけど。
「だからさ、奈美ちゃん、チョコちょーだい」
まだ言うか、このヒトは。でも、ここで渡さないのも意地悪すぎるかな。
「しょうがないですね。といっても、冷蔵庫に入ってますから、勝手に持ってってください」
「やったね。ありがと」
喜び方が大げさ。そんなにうれしいことかな。あ、そういえば、
「ところで北村さんはあのチョコ、どうやって作ったんですか。作り方教えてください」
「作り方?いいよ。あれはねぇ…………」
───X───
想いは伝わったか、わからないけど、おいしいって言ってもらえてすごくうれしかった、そんなバレンタインになりました。そして、来年は絶対北村さんよりもおいしいチョコを作ってやるゾ。