第76話 割り勘?
帰り際になって、未来と直也が途中で違う線に乗り換えると言い出した。
真央は帰りの電車の中で、焦っていた。
何考えてんのよ―未来ぅー・・・。
直也と2人になりたいのか、わたしを遊と2人にしたいのか。両方か。
本音を言えば嬉しい。・・けど不安だ。
未来と直也を見ていると、恋の始まりを観察しているような気持ちになる。
直也は、未来のことをずっと前から好きだったらしい。告白されて、最初受け身だった未来の気持ちが、どんどん育っていってるような気がする。
もとから波長の合う二人だったと思う。優しくて穏やかな感じが。だから一緒に並んでいても自然なのだ。
それにひきかえ・・・。
自分で言うのもアレだけど、遊と私は、絶対に恋人同士には見えないと思うんだよね。
・・遊に、好きな子はいないってことはわかってる。
わかってるというか・・・そんな気配が全くない。
ギラギラしてないのはいいけど、不思議に思う。女子に興味ないのかな。
でも、好きな子がいてもいなくても、これだけははっきりしていることがある。
遊は、私の事を何とも思ってない。・・ってことだ。
・・・。
遠足でバスの隣の席に座った小学生と同じ。好きでも嫌いでもないから何も意識せずに話しかけてくるし、未来と直也の様子を見て、遊なりに空気を読んでわたしに優しくしようとしてる。そして、私自身にこれでいい?って尋ねてくる・・。これは、好きだったら絶対言えないことだ。
近い距離にいても、なんとも思っていない。・・のがわかる。
ああ・・これ、きついわー・・。
嫌われてないだけでもいいやって思ってた。
遊は私の事、仲間だと思ってくれてるし。近い存在だと思ってくれてる。
それだけでいいと、ずっと思ってきたのに・・。
今朝は、駅の人ごみで離れそうになって、遊は、わたしの腕を引っ張った。
わたしもだ。手をつかむのは無理だったけど、遊の服の裾をつかんでた。
さっきのライドの時間待ちの時には、前に進む時、遊が私の背中を優しく押したし、未来と直也が並んで仲良く座っているから、なりゆきだとしても私も遊と並んで座った。
「怖いんでしょ?」って聞くと。「怖いもんかっ!」って言い返してきた。
私の、遊が好きっていう気持ちは、宝物みたいに箱に押し込めておくはずだったのに。
こんなに近すぎると、錯覚してしまうよ。もしかして?って。
わたしのこと、見てくれるようになるかもしれない?
だって・・未来は直也から告白されてから意識し始めた。
自分の目の前で、未来の気持ちが育って行くのを見て、こんな始まりだってあるんだなって思ってしまう。
こんな、こんな一日を過ごして、冷静でいられるわけがない。
もう・・今日あったこと全部が、溢れそうで、溢れてしまいそうで。
こんな近くにいてこんなに優しくされれば・・私じゃなくったって間違えてしまうよ。
固く固く決意してきたはずなのにっ!
だめっ・・・必要以上に笑わない。
嬉しそうにしない。
ドキドキしない。
ため息もつかない。
カフェでしているとおり、いつも通りにって。
「顔が赤いよ?熱でも出そう?疲れたの?」
うげっ・・・遊に話しかけられた・・・。
「いや、大丈夫。」
未来たちは、さっき私に言った通り、Y駅で乗り換えて2人で帰ると言い出した。
ちょっともう、未来ぅ・・・
「ああ言ってんのに、オレが送るって言ったら野暮ってもんだよね?」
・・・・。
遊はそもそも、自分が誘われたのを未来の希望と思っている。
今日一日で随分直也と仲良くなったから、応援する気になっているんだろうな。
そうしている間に電車がY駅に着いてしまった。
「直也、未来のこと頼むからね?ちゃんと帰してよ?送ってあげてよ?」
「・・・。」
「分かってるよ真央。」
直也は返事をせずに、未来のほうがそう答えて、2人は降りて行ってしまった。
・・困った。
困ったけど、顔には出さない。
「・・そうね・・私たちもどっかで食べて帰ろうか。」
「そうだな。」
「夕ご飯は、私がおごってあげてもいいよ。」
「なんでさ~。」
「彼氏でもないのに、おごる必要ないんだよ?電車代を遊が出しちゃったでしょ?ちょっと検索するわ。」
「そうかあ・・・。じゃあ割り勘?」
「んー・・・。」
いたいよぅ・・・自分の言葉が。
否定されないのはわかってても、結構いたい・・。
しばらく黙って食事のできるところをスマホで検索をしていて、去年友達と行ったファミレスを思い出した。
「あっ、ここのファミレスにしようよ。」
「ええ?ファミレス~?」
「いいんだってば、高校生はこれで。」
「そうかぁ?じゃあ車のあるとこまで行って戻ってくれば・・・。」
「車で戻ると時間かかるって。」
そう言って無理やり遊を引きずって途中下車をした。
ここは知ってるんだ・・以前行った時、ライトアップした並木道を通った。
冬は寒い分、空気がキラキラして見える。こんな道を彼氏と歩けたらいいなって思ったんだよね・・。
その道は車で行くと、通れないんだ・・。
この駅前の広場は、12月から冬の間ライトアップされていて、華やかに飾られている。
そこから続く大通りは賑やかなのだが、一本ずれた道の横に小さな川が流れていて、その並木もライトアップされている。その道がちょうどファミレスのそばに通じているのだ。
今日だけ。今日だけ、ちょっとわがまま聞いてくださいな・・・。
真央は、テーマパークでやってたみたいに、その道の入り口へと遊の服の袖を引っ張っていった。
うへっ。・・人通りは少なかったが、カップル率が高い・・・。
少したじっとして、真央は遊の服の袖を離した。
ゆっくり歩いても5分ほどの道だ。
「何を食べよっかな・・。」
「なんだ、食べるものの目的はなかったのか。」
「あ・・っと、この道がライトアップしてあるか見たかったんだ。それが目的。」
「ああそうか。これは、デートコースっぽいな。」
・・うぐっ
「・・・悪かった?」
「いや。いいと思ったんだけど?」
「・・・。」
はあぁ・・ 遊はホントに・・・。
「遊って、試験はいつだっけ?」
本当は知ってる・・・明後日だ。
「面接は明後日。」
「合格するよ。」
「そうかな。」
「うん。」
「面接ではさ、何を聞かれても正直に話せばいいと思うよ。」
「あー・・・どうかな。いろいろ闇を持ってるからなオレは。」
「ヤミ~?遊にヤミなんて言葉は縁遠いと思ってたわ。髪の毛すら明るいよ。」
遊は、自分の頭に手をやった。
「・・・。」
・・・。本当はいろいろ悩んでここにいるんだと、私は知っている。
「遊は・・・お料理が好き?」
「うん・・。うまいものが好き。」
「そうじゃないじゃん。食べるんじゃなくて、作ること。」
「うん。それは・・まぁ好きだね。」
「ふふん。」
「好き・・というか、興味があるっていうか、知りたいんだ・・。」
「お料理のことで?」
「うん。やってみたいこと、できるようになりたいことも、たくさんあって・・ヒロトができて自分にできないことが、なんか悔しい。」
「ヒロトさんと比べるのは、変だよ。ずっとやって来た人なのに。」
「そっかな?・・・知らないことが多くてイライラするんだ。マキノさんやヒロトだって完璧じゃないんだなって最近は思うし。下処理一つとっても、をこうしたら臭みがどうとか、うまみが逃げないとか、栄養価がどうとか、いっぱいあるじゃん。」
「あー・・うん。」
「そうだな。言い方変えると、知らないことが多い、そんな自分が悔しい?」
「ふんふん。そうかなるほどね。」
「じゃあ真央は?」
「・・・そうだな~・・・。うん。とにかく先に何か食べよう。」
席に案内されて、それぞれがメニューを睨む。
「ねえ、サラダ大きいの頼んでシェアしようよ。」
「ああいいよ。いいけど、オレこの辛そうなの食べてみたいな。チリなんとかいうの。」
「それもちょっと食べさせて。わたしはこれ、ビーフシチューのオムライス。」
「真央はちょっと前からオムライスにこだわってるよね。」
「悔しいのよ、うまくできなくて。」
「悔しい?それも試行錯誤するだけじゃなくて、基本的なやり方があるんじゃない?」
「はぁ・・そうかな。・・あと、パンケーキにアイスが乗ったのも食べたいな。」
「それもシェアしようよ。もう一つデザート好きなの頼めば?」
「多くない?」
「2人なら大丈夫だよ。」
・・・・。さりげないけど、ピクッとする言葉を言うんだね遊は・・。
「これしよう、これ試したくない?あったか冷たいコラボだよ。」
真央は一人で決めて、ティーアフォガード注文をした。
そして、さっきの話の続きを始めた。
「私は、英語をがんばるんだ。」
「ふうん。それに関しちゃ、オレまったく興味わかないな。」
「遊はフランス語勉強しないとね。」
「なんでさ。」
「料理用語って、フランス語でしょ?」
「はっ・・・そうか。」
「メルシー エン メルシーボクー」
「うわぁ・・やめて・・。」
「私はさ・・どっちかというと、机の上の仕事じゃなくて、人と会話がしたいの。」
「ふーん。」
「いろんな考え方とか、文化とか、知りたい。知ってなんになるかわかんないけど。」
「英語で人と会話するってどんな仕事があるのかな。」
「キャビンアテンダント。ホテルのフロント。ツアーガイド。通訳とか・・?現代社会では、英語はなんにでも必要だと思うよ。」
「真央は最終的になにするか決めてんの?」
「ううん。まだわかんない。最近まで看護士も考えて迷ってたぐらいだよ。」
「ふうん・・・。」
最初にサラダが運ばれてきた。
同じ皿のモノを2人でつつく。
知らない人が見たら・・・恋人に見えるだろうな・・と思った。
「真央がキャビンアテンダントになったら、友達にCAがいるって自慢できそうだな。」
「なれるとは・・・かぎらないからね。」
サラダをつつきながら遊はもう一度メニューを広げた。
「ライトミールとがっつりのディナー・・リーズナブルに見えて、セットにするとうまく値があがるようになってる。サラダはシェアするサイズと普通サイズ・・そして全部2サイズあるのかと思ったら大きいのはこれとこれしかない。ドレッシングは5種類。サラダも肉や鶏が乗ってるガッツリな方がそそられる。オレダメだなぁ・・。自分が食べたい物しか作れそうにないわ・・。」
「・・・何ごとも学びだね・・遊。」
「うん・・。」
その後も、料理をシェアしながらあーでもないこーでもないとデザートまでおしゃべりを続け、席を立った。
真央は、レシートの合計金額を暗算で割りながら財布を出した。
「じゃあ、きちんと割り勘で・・。」
「いや・・やっぱりオレが出すよ。」
「えっ?」
「・・・楽しかったから、お礼に。」
「あ・・・甘えていいの。」
「うん。素直に受けといて。」
「わかった。ありがとう。」
レジに立つ遊のななめ後ろに立って、会計を待つ。
「ありがとうございました。」
レジのお姉さんが、頭を下げた。
自分は、レジから振り返った遊に、感謝の笑顔を作る。
「ごちそうさま。ありがとう。」
「いいえ。どういたしまして。」
遊が、笑う。
この笑顔が、好き。
・・・どう思えばいいんだろう。
私はどういう位置にいればいいんだろう。
「私たちホントにつきあってるみたいだね。」と言ったら
意識されてひかれるんだろうか。
ファミレスから出る。
私の好きな、並木道を歩きだす。
遊は、何の気なく、この道のことを誉めてくれる。
「いいねー。このライトアップは。」
「・・・。」
今なら・・。
今だけ・・。
ちょっとだけ・・。
腕組んでもいいかな・・。
・・唐突過ぎるだろうか。
言い訳はどうしよう・・なんて言えばいい・・?
おねがい、驚いたりしないで。
でも、ちょっとだけ。
・・ええい。
真央は、遊の左の腕に、自分の右腕を滑り込ませた。




