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第71話  家族というもの

元旦の朝は、イズミさんから「ゆっくり来てね」と言われた通り、10時を過ぎてから兄貴の家へと歩いていく事にした。兄貴の家の玄関の上には、うちより少し大きめのしめ縄がついていた。


マキノが玄関のベルを鳴らしたが、それよりも早く、自分は先に玄関を開けてしまった。

「あけましておめでとうございます~。」

元気よく玄関まで出てきた寛菜と菜々に、マキノが挨拶をした。

「春ちゃんマキノちゃんおめでとう。」

子ども達もちゃんと挨拶ができたのを確認してお年玉を渡している。


お年玉だけでなく、それぞれに2冊ずつ、本をプレゼントした。

ナルニア物語の1巻と2巻。それとジブリの映画になった物語の原作とその続編の2冊ずつ。

読めるだろうか。今読めなくてもいずれ読んでくれたらいいんだがな。

「おもちゃじゃないんだ・・。」

「たまには文字を読むのがいいんだぞ。きっと気に入るよ。どっちもファンタジーだし、おもしろい話だから。」

「え~読めるかなぁ。字も細かい。」

「ナルニアは続きがあるんだ。2冊読めたらその続き買ってあげるよ。」

「ふ~ん。」


多少おもしろくなさそうだったが、2人とも素直に本をめくりだした。

リビングには、おせち料理が拡げられてあった。

オレにとっては、ここ最近の正月と同じ風景だ。

マキノは、イズミさんと兄貴との合作お手製のお節料理に目を輝かせている。

ヒロトの作ったおせちオードブルもテーブルに載っていた。

子ども達を座らせて、取り皿を配り、食卓の用意がバタバタとはじまった。

「お餅はいくつ焼くの?」

「一個。」「わたしエビがいい。」

白みそ仕立ての雑煮に入れるのは、焼いた丸餅だ。兄貴の家ではここ3年程前からエビ入りの餅も作るようになった。

「お餅つきまでするなんて大変ですね。すごいわ。」

「マキノちゃんほど仕事してませんからね。」

「そんなことないですよ。」

マキノがカフェに行ってる間に、兄貴の家の餅つきはオレも手伝いに来た。

と言っても、子どもたちとじゃれながらまるめる位のことだけど。


それにしても、兄貴の家の台所に、イズミさんと一緒にマキノが立っているのが不思議な感覚だ。

そうだよな。家族になったんだ。と、くすぐったく思う。



「春ちゃんはお酒飲まないの?」

「今日はマキノの実家まで走るから。」

「あらそう。」

「日帰りしてきます。」

「実家でゆっくりしてくればいいのに。春ちゃんはここで遊んどけば?」

「いや・・・。」

「あらぁ・・・片時も離れたくないの?」

「いやいや、そういうわけでは。嫁の実家の空気というものを学んでもらおうかなと思って。」

「あははは。それはいいわね。・・ははは。」



ぽり・・と、頭を掻いた。

イズミさんはいつもオレに対して、くだけた態度で接してくれる。

母が死んで一人になってからは、ことあるごとにメシを食べに来るように呼ばれた。

メシだけじゃない・・なにかにつけて、世話になったな。

マキノのことも・・。


オレに対してだけ口調がすこし強引なのも、ちょっと意地悪な冗談を言うのも、遠慮させないための配慮だということはわかっている・・意識してそうしているかどうかわからないが。

彼女は、人の心の動きを敏感に感じる人だ。


まわりのことを考える余裕が全くなかった頃は・・イズミさんには心配をかけてきたんだろうな。

・・何も言わないし顔にも出さないが、たぶん兄貴からも。


何か礼をしたいと思っても、どうやって返せばいいかわからない。

せめて、忙しそうなときに子ども2人と遊ぶことぐらい。あんなことぐらいじゃお返しにもならない。

感謝の気持ちは・・おそらく一生、形にはできないと思う。



心配してくれてありがとう。

もう大丈夫です。

人を、愛せるようになりました。

そして、愛するものを守りたいから、

オレ、強くなろうと思います。



こんなこと、伝えても伝えなくても・・これから先、イズミさんには頭が上がらない気がするな。




「イズミさんごちそうさま。さあマキノ、行こうか。」

「はい。お兄さんお姉さん、ごちそうさまでした。」

「気をつけていってらっしゃい。」

「はーい。」



朝市で買って置いてあったものと、ヒロトのオードブルとと、手土産とを車に積んで、マキノの実家へと走る。マキノが顔を覗き込んでたずねてきた。

「ねえ、さっき言ってたけど・・春樹さんにとって嫁の実家って、どんな感じなの?」

「どんな感じ・・と言われても・・。」

「だって、最初一人で帰る?って聞いたじゃない。」

「あー、あれは、オレがいると水入らずじゃなくなるように思ったから。」

「ふーん・・・。」

「ふーんって・・何か気に入らなかった?」

「こっち側も、家族なのにって思ったの。」

「・・・あー。」

「気を遣ってくれたのはわかってるよ?」

「うん・・。マキノの言いたいことはわかった。でも他人じゃないけど他人というか、まだ距離感がわかんないなぁ。」

「んーうん、そうだね仕方ないね。時間も短いしね。」




マキノの実家には、午後4時頃に着いた。

ここの玄関口には、うちよりもすこし小さいしめ縄がついていて、中に入ると下駄箱の上には小さなお鏡餅、登り口の横に花びんがあって正月花が飾られていた。


一人暮らしをしていても、きちんとしているのが、なんとなくまぶしかった。

年末は一人で掃除したのだろうか。マキノの姉が美容室をしていると聞いたから、一緒にやってくれたのかな。


「明けましておめでとうございます。」

「いらっしゃい。春樹さんおめでとうございます。本年もよろしくね。」

「はい。昨年はいろいろお世話になりありがとうございました。」

「いえいえ、こちらこそ。」

「本年もよろしくお願いします。」



マキノに誘導されて、去年挨拶に来たときと同じ居間へと通された。

座布団を勧められて、なんとなく正座したら、リラックスすればいいのに、と笑われた。

「ごろんと転がってても誰も怒らないよ。」

そう言われても、まだそこまでハメをはずせないかなぁ・・でも、正座はやめてあぐらにした。居間の真ん中のコタツの上に、おいしそうなみかんが載っていた。

「コーヒーいる?お茶がいい? 早いけど、ごはんにしちゃう?」

「お茶がいい。ごはんはお母さんの都合じゃ?」

マキノの母さんを「おかあさん」・・と呼ぶのが、まだ照れくさい。

うちに来てくれた時も意識してそう呼んだ。苗字で呼んでもいいのかもしれないけど、近くなりたいという思いがあった。

今のうちに慣れとかないと、時間が経つほど言えなくなってしまう。


マキノは土産に持って帰ったものを台所で広げて、片付けたり説明したりしているようだった。


向こうの方で母娘がおしゃべりしているのが聞こえてくる。

「春樹さんを一人にしちゃダメでしょ。まだ気を遣ってると思うわよ。」

と言う声も・・。

やっぱり、他人なんだよな・・・と思う。・・いや、悪い意味ではなくて、単に事実として。

同じ日本に住んでいても、少しずつ違う常識や価値観の中で生きている。そういう他人どうしが、努力して共同の生活をしていくには、歩み寄りと摺合せってものが必要だ。

オレが気を使って合わせようとするのも違うし、嫁に来たからってマキノに全部合わせてもらうのも違う。

結婚って価値観のすり合わせの連続だな・・と改めて思う。


・・・でもマキノとは・・もともと価値観が似てたかもしれない。

価値観と言うか、感性かな。

半年一緒に暮らしてきて、今まで違和感があったことなど一度もなかった。

習慣が違うことは時折気づいたが、細かい違いは気にならなかった。

自分はわざわざマキノの考えに沿うように合わせたことがない。

マキノが自分に合わせてくれているのか・・自分が柔軟なのか。

お互い、違うことをしていても、平気なだけなのかな。


ああ・・うん。

たぶんそうだ。「違う」という事を受け入れて、気にしていないってことだろう。

相手が歩んできた生活そのものを、尊重したかった。



台所で母娘がおしゃべりしている間、春樹は、コタツの天板に片肘をついて、つけたままになっていたTVの正月番組を眺めた。

それから目の前に積んであったみかんを一つ取って、剥いて食べ始めた。皮が軟らかくて剥きやすくて甘い。

そして、TVのチャンネルを勝手に変えた。

食べ終わると、あったかいコタツの中に足を投げ出した。ついでにコロンと寝転がってみた。もぞもぞと腹のあたりまでコタツに沈んで座布団を半分に折って枕にした。

・・ふうむ・・快適。


お嫁さんにください。の挨拶に来たときは、さすがに緊張していたけど、もう今は・・。

このまま寝られるかもしれないな~。

ふぁぁ・・とあくびをした。


「あれー?春樹さん眠いの?」

お茶を持ってきたマキノが笑っていた。

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