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第33話  定休日を決める

遊は、週3回、学校へ通いはじめた。

そして、真央未来もしばらくの間お休みすることになった。

彼女らは、受験が終わるとまた帰って来てくれるので、新しいバイトさんを雇うのは考えどころだ。

有希ちゃんは暑さがやわらぎ気候が良くなってきて、原付バイクで通ってくるのが快適になったよう。

仕事中も元気いっぱいだ。

9月以後の戦力補強については危機感を持っていたが、ヒロトと千尋さんが加わったおかげでスムーズに回っていくことがわかった。



マキノは、秋になって、お店のこと以外にいろいろしなければいけないことが増えてきた。

11月に式を挙げようということになっていたので、簡単に簡単にと言いながらも考えることがたくさんあったのだ。結婚式は、春樹さんのお友達が司会をしてくれるらしくて、マキノ側の受付は元同僚のサクラに頼もうと思っている。というか、そういう予約をされていた。

案内状を出すのは、子どもの頃から中学高校大学それぞれの友達、母さんと万里子姉夫婦。春樹さんが招待する分は春樹さんにまかせてあるからノータッチ。

派手な事は好きではないが、祝福してくれる人達に、“今幸せです”という報告はしたい。



カフェのスタッフはどうしようかと思ったけれど、当日お休みにして2次会をお店で用意しておいてもらうことになり、今まで関わってくれた人達と一緒に過ごすことにした。

イズミさんは式に出てくれるから、仁美さんと遊とヒロトが、準備をしてくれる。特に仁美さんが、まだ2ヶ月もあるというのに張り切っている。



春樹さんの学校でも2学期が始まり、9月の終わりにある運動会のために、準備や練習で忙しそうにしている。当日はお天気がよければいいのにな。と思う。

9月になったら定休日を作るはずだったが、平日の5日間のお弁当を始めてしまったのもあるし、土曜、日曜は閉めたくないしと、ずるずると決められずにいた。



マキノは、何気なくそばにいたイズミさんに相談してみた。

「定休日ってどうしたらいいと思います?」

「あったほうがいい。とくにマキノちゃんのために。」

即答だ。わたしのために・・という意味はあまりピンとこなかったが“自分さえ頑張れば”という考えが良くないという事は、一度電池切れになったときによくわかった。

自分も一人のスタッフとして常識的な仕事の量に抑えなくてはと思っている。

何かあった時、返って周りに迷惑をかけてしまう。


「ねーねー・・・。」

イズミさんがヒソヒソ声で話しかけてきた。

「赤ちゃんは?」


・・ぼんやりと考えてはいたけど、あまり実感がない・・。

そうだなぁ。もっと現実的に考えなくちゃ。

自分がいなくても回るようにしておかなくてはいけない。

高校生3人に一日任せた日はあったけれど、あれは変則的な日でもあったし、自分がいない時のアニュアルも考えておかなくてはいけないのか・・。

少し考え込んで黙っていると、イズミさんが言い訳のように付け足した。


「気にさわったらごめんなさい。深い意味はないのよ。」

「いえ、違うんです。確かに定休日も自分不在のことも考えないとなぁって思って。まだそういう気配はありませんけどね。」

とりあえずイズミさんには、同じようなヒソヒソ声で返事をした。



― ― ― ― ―


秋分の日の夕方から、お店は早めに閉めて、スタッフ全員が揃って会議をすることになった。ヒロトが作ったお料理の試食会も兼ねてだ。

「治部煮って、おいしいね。要は鶏肉の煮物だけどね。」

「この昆布締めってヒロト君が作ったの?お昆布がついたままでもいけるね。おいしいわ。」

「秋はやっぱりナスねー。」

「これいいね。鮭ときのこのホイル焼き。」

「結局、洗練されたお料理より家庭的なものがウケるというか、食べたくなるね。」

和風の物および和洋折衷なものを中心にというリクエストを受けていたヒロトは、笑顔を少しひきつらせながら、主婦達の批評を受け止めている。

「ヒロト君、試食の作成お疲れさま。みなさん食べながらでいいので、会議を始めます~。」

マキノが笑いながら、すでにしっかり口の動いている主婦組に話し合いを促した。

「議題は皆さんご承知の通り、定休日について。ご意見を伺いたいと思います。」

では・・と,最初に敏ちゃんが挙手した。

「えーと、私が思うに、ここまでカフェ・ル・ルポをやってきて、もうこの地域の皆さんにはちゃんとなくてはならないお店になったと考えています。ですから、定休日というものを設け、緩やかな営業になったとしても人から忘れ去られることなく“このお店の定休日は何曜日だ” っていう感じでやって行けると思います。」

「お休み歓迎。」

「敏ちゃんと同じでーす。」

根回しができているのか、異議のある様子はない。

「はい。ありがとうございます。では,何曜日がいいですか?」

「土曜日曜はお店を開けておいた方がいいかなと思います。新しいお客さんが来ることが多いから。」と仁美さんが言った。

「水曜日がいいんじゃないかな。お弁当の問題はあるけど。」とイズミさん

「お弁当のことを言いだすと休めなくなっちゃうから、水曜日でいいんじゃない?献立考えるのも少し楽になるし、ニーズとしてもみんなが毎日うちのお弁当ばかりを食べたいわけじゃないと思うから、水曜日のお弁当がなくなる分は、他の曜日に移るだけだよきっと。」と敏ちゃんが言った。


若い子たちはもぐもぐと口を動かすだけで、話は大人たちに任せているようだ。

話しは簡単にまとまった。

「じゃあ、10月から、定休日は水曜日に決定ね。」

敏ちゃんには、10月以後の新しいシフトを組んでもらうように頼んだ。人の動きの難しいところを考えてもらえるのは、マキノにとってホントに大助かりだ。



ちなみに、ヒロトの作ったお料理は、懐石料理に似た感じの家庭料理と言えた。

使っている材料がありふれたものだから、そう感じるのかもしれない。

ヒロトの親しみやすい笑顔の雰囲気と同じように,なつかしさを感じる味だった。



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