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第14話  ママさんバレーで、ハプニング

火曜日の夜。

ママさんバレーのチームとカフェるぽのチームの合同練習の日である。

現地集合を言い渡してあったので、真央未来と有希ちゃんはすでに来ていた。

運動公園の体育館に入ると、ホールのベンチに座っておばちゃんやお姉さんがシューズを履いたり用意をしていて、アリーナではポールを立ててネットを張っている人やストレッチをしている人もいた。


「こんばんはー。今日はおじゃましますー。よろしくお願いします~。」

「まぁまぁ。この人が春ちゃんの奥さん?よろしくねえ。若い人がいっぱいいてうれしいね。今日ははりきらなくちゃね。」


ママさんバレーのチームは年齢層が高い。平均40ぐらい?もっとかもしれないかな。

「はーい」「はーい」と蹴鞠のようにボールをパスし合うぐらいのイメージを持っていたのだけれど、みなさん服装もシューズもメーカーの物を身につけているし、ボールをダンダンと床に打ちつけたりしている様子を見ると、想像していたよりも本格的だ。


最初は各自でストレッチをするように言われたので見よう見まねで柔軟体操をする。

真央未来は学校の体操服に体育館シューズというなかなかスクールな格好だ。

いわゆる学生らしくて、とてもかわいらしい。カラダが固くなっているらしく、足を伸ばして座り、いてていててと言いながら背中を押し合っている。

イズミさんと仁美さん敏ちゃんが連れてきた子ども達は、広い体育館を独占できることでテンションが上がり、すぐさま鬼ごっこを始めて無駄に走り回っている。きゃあきゃあとにぎやかだ。

ストレッチを終えて、ママさんバレーのみなさんがボールの投げっこを始めたので、チームるぽもそれに習う。春樹さんと有希ちゃんと遊がネット側に立って、それぞれ素人2人を相手に1対2でボールを投げあう。全部ママさんバレーチームのやっていることを真似していくつもりだ。

春樹さんは、バレーを本格的にしたことはないと言っていたのに、ボールに慣れていて、とても上手に見える。時には学校でするのだろうか。



しばらくボールを投げ合っていると、マキノは、ズーンとした鈍痛を肩に感じ始めた。

まだ、何があったというわけでもないから口にも顔にも出さないが、これは、若干まずいかもしれない?

ボールの投げっこは意外に肩を使うなぁ。いや、バレーボールは腕を使うのは当然だけど。上から下に振り下ろすときの肩への負担が、ちょっと気になる。

シューズを買いに行ったとき遊には肩がよくないとを少し口にしたが、詳しく説明していない。今動かしてみて、やはり肩の具合が良好とは言えない気がしてきた。

学生の頃にカヌーで川下りをしていているときに、右肩を亜脱臼したことがあって、それからしばらくは、激しく上から振り下ろす動作をすると肩がはずれてしまう癖がついた。


最初に亜脱臼が起こった時は激痛だったし、驚きもしたので、病院に行って診てもらったが、特に何も治療というものをしてもらえなかった。完全に治したければ手術もできると言われたが、上から下へと腕を力いっぱい振り下ろさなければいけない状況が、普段の生活であるのかどうか。

そう言われれば、無いような・・。

もしはずれたとしても自分の筋の伸縮力をもって元に戻る。よほど激しいスポーツをするのならともかく、不都合な事はなかったのだ。


最初に亜脱臼したのは20歳のとき。それから何度か同じことは起こったが、2度目3度目になると、初回より痛みもマシだったし、治し方のコツもわかってきた。

真上から振り下ろすのではなく、少しななめ上からにすれば多少力を入れても大丈夫な事も分かった。いつの間にか外れることもなくなり、もう5年ぐらいはなんともなかった。だから、実は正直言って楽観的になっていたのだ。痛みももちろんないし、もしかしたら治っているかもしれないし。



ボール投げが終わり、次の動きへと移る。オーバーハンドパスとアンダーハンドパスでボールを回しはじめたら、肩の違和感はなくなった。上から振り下ろさないから、負担がないのだ。

レシーブを受け始めると、初心者チームルポのあちこちから「ボールがいたーい」という声が上がり始めた。

ウォーミングアップが終わったので、試合形式で楽しもうという事になり、素人用にソフトなボールを出してきてくれて9人対9人でやってみることになった。



試合がはじまったとたん、遊と有希がすごくイキイキしだした。

真央ちゃんが、とんできたボールをはじいて,それを遊がダイブしてレシーブしたり,

ママさんチームのスパイクを有希ちゃんがきれいにブロックして止めたり。

有希ちゃんは普段そんなに前に出てこないのに,コートの中では「どんまいどんまいー。次行けるよ~!」と失敗した未来ちゃん達に声をかけている。

遠くにいたはずの遊がちゃんとボールの下に戻っていたり、有希ちゃんが“もってこーい”と声をあげて、スパイクを決めたり。遊もスパイクを打つけれども、遠慮してゆるめに打っているようだ。コースを狙ったりして、すごい。

2人がコートの端から端を動く動く動く。

なにより、2人の笑顔がいい。

遊と有希の二人が経験者ということで、何かわかりあえるルールがあるのか、専門用語がわからないので聞いていても理解できないが、次はどうするこうするという作戦らしき打ち合わせまでしているようだった。


1ゲームが終わって、ママさんチームからいつもの普通のボールでもやってみないか?ということになって、固いボールは痛いと言って敬遠するカフェチームの主婦3人と真央未来が抜けた。

人数のバランスががくずれた分はママさんチームから助っ人を補充してもらって、変則的な人数だけど7対7にして2ゲーム目が始まった。


固いボールを受けると腕がじんじんする。しかし、さっきよりボールが早くて迫力があってワクワクする。本物のゲームをしているようだ。

レシーブはなんとか形になってる気がするんだけど、経験値の差で、どうなった場合にどこへ動いてどんな対処をすればいいのかというセオリーが頭にはいっていなくて、ワンテンポ遅れてしまうのが悔しかった。続けて練習したら楽しくなるのかも・・。

わぁ。春樹さんもスパイク打てるんだな。いいな。かっこいい。私もやってみたい。

タイミングは合うはずなんだ。何度か自分にもボールが上がったから、打つようなそぶりをしてフェイントばかりしていたけれど。

さっき壁に向かって上から打つ真似をしてみたが、肩もなんともなさそうだし・・。


前衛のレフトにいる時に「マキノさん上げるよ~」と遊から声がかかった。

やた!自分にも出番が!!

助走して、踏み切って、左手で迎えに行って、右手を振り下ろし・・


ボールを打った瞬間、がこっと嫌な音がしてマキノの肩がはずれた。


正確に言えば完全にははずれていないのだが、少しおかしな位置になった。

「あイテッ・・・」とコロンとコートにころがった。

あー。やっぱ無理だったか・・・。

「マキノ!」

春樹さんの慌てた声が聞こえた。

まずいっ こりゃ・・・春樹さんまたフラッシュバックしてしまうっ?


「大丈夫なのっ!これ前もやったから!」

マキノが慌てて走ってくる春樹さんを制した。


「ど・・どうなった?」

春樹さんが右肩を触ろうとしたので、ちょっとまって・・と左手をひらひらと振って止めた。

「肩がはずれるクセがあるの。今、触っちゃダメ。」

「・・・脱臼?」

「亜脱臼。ちょっと待っててね。いててて・・。すぐ戻ると思うから。」


じわり・・・と、自分で肩を動かすと、かっこん・・実際はそんな音はしないが、ゴムで引っ張られたおもちゃの腕のゆがみを直す時のように、元の向きに戻った。

「なんか・・なんかマキノさん、・・肩が変な感じになってたよ。」と・・トスを上げた遊がドン引きになっていた。

「いやごめん。気持ち悪かったでしょ。何回もなったことだから慣れてるのよ。でももう5年ぐらいは何もなかったから、大丈夫だと思っちゃってた。」


「お・・・脅かさんでくれよ・・・。」

「ごめんってば。すみませんほんとに。」

マキノは双方のコートのメンバーに謝った。


「春ちゃんマキノちゃん。」

イズミさんが向こうの方から声をかけてきた。

「はいっ!」

「公衆の面前でいちゃいちゃしちゃだめよ~?」

「してないですっ!」

春樹さんが言い返して、みんなが笑った。

騒然となった空気を戻してくれようとしてる。申し訳なさすぎる。

マキノは立ち上がって、一度コートから出た。

「ちょっと休憩します。すぐ復帰するので、また入れてくださいね。もうスパイクは打ちません。リベロに徹するので仲間に入れてね~。」


マキノの故障がたいしたことではないとわかって皆もホッとしたのか、人数は7対6のままでゲームが再開した。

はずれる瞬間は痛いが、その一瞬の痛みさえ引いて元に戻ってしまえば、肩が悪いことすら忘れてしまうぐらいなんともない。痛くないからついスパイクを打ちたくなったというわけなんだけれど。



さっきのじーんとする痛みが治まるまで待って、マキノはもう一度コートに入った。

もう、おとなしく上から打つことはせず、焦っていた遊や心配していた有希ちゃんももとどおり気を取り直して、最後まで無事にゲームを終えることができた。


ママさんバレーの皆さんと一緒にネットやポールの後片づけをして、体育館のフロアにモップをかけながら、遊と有希が全く同じことを言った。

「バレーボールをするのがこんな楽しかったのって、はじめてかもしれない。」

遊も有希ちゃんも運動量が多いからか、人一倍汗をかいていたし、終わってからしばらくしてもまだ顔を高揚させていた。

「二人ともいい顔してるね。」

とマキノも笑った。


「みんな、時間遅くなったけど大丈夫なの?有希ちゃんも原付でしょ?」

「家には言ってあるし大丈夫ですよ。」

「真央ちゃん未来ちゃんも?」

「だいじょうぶ。迎えに来てくれます。」

「じゃあ・・、みんなでお礼言おうか。ママさんバレーの皆さん、今日はありがとうございました。よかったらまた参加させてくださいね。」

「こちらこそ。人数たくさんになるのは大歓迎。」

帰り支度をしていたママさんバレーの皆さんも、口々にありがとうまた来てねとを返してくれた。


そのあと、ママさんバレーのキャプテンの美智子さんが、マキノにこっそりと言いにきた。

「今度試合があるとき、有希ちゃんを貸してね。」

「いいですけど、有希ちゃんの住所は町外ですよ。」

「あーそっか。町外でも出られるような大会もあるから、その時はお願いね。」

「はーい。言っておきまーす。」



みんなが、楽しかったね~ばいばーいと帰ってゆくのを、マキノは見送った。



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