買った苦労
「苦労は買ってでもしろ」という言葉がある。青年が苦労屋から苦労を買ったのは、そんな言葉から、それが自分の為になると思ったからだ。
会社では上司にやたらと面倒事を頼まれるし、後輩は役に立たない。外を歩けば鳥の糞が肩を直撃し、見事に外れた天気予報のおかげで、雨に降られずぶ濡れになる。
挙げ句、付き合っていた彼女からは突然、「他に好きな人が出来た」と別れを切り出された。
苦労を買うとは不幸を買う事に近い。本心では、青年は絶えず身に降りかかる苦労にいい加減参っていた。
そんなある日、青年の許に中年のスーツ姿の男が訪れて言った。
「こんにちは、私は幸福を売っている者です。どうもあなた様は購入された苦労に辟易されているご様子…。そこでどうでしょう、弊社の幸福。今のあなた様にぴったりと思いますが…」
「それは有り難い、さっそく売ってくれ」
青年が幸福の購入を決めると、スーツ姿の男は青年には到底払えそうにない高額な値段を提示した。
「ふざけるな、ふっかけやがって!! そんな金額払えるわけないだろ!!」
抗議する青年に男は当然のように言った。
「幸福を買うのなら、これぐらいの金額は妥当ですよ、むしろ安いぐらいだ。幸福を手に入れるとは、そんな簡単な事ではないのです。大体、最近の若者はすぐに楽をしたがる。もっと苦労をするべきだ」
男の言葉で我に返った青年はポツリと呟いた。
「そうだ…、俺は苦労を買っていたのだ…」