第10話
「あんたらね……こんな昼間から宴会かい? ずいぶん羽振りが良くなったじゃないかい」
「「「アウロ様(さん)!」」」
皮肉気に唇をゆがませ、アウロは店内を見渡す。そして入口に一番近い席に腰かけ、ふうっと一息。すぐ近くに寄ってきたヴィルマが、疲れた様子のアウロに決まり文句を放つ。
「いらっしゃいませ、アウロさん。お食事ですか?」
「ああ。ちと用事があったんでね。そのついでに食べて帰ろうと思ってねい」
「ありがとうございます。すぐお持ちいたしますね」
かつて娘の命を助けてもらった相手。その割には淡白な応答を繰り返し、すぐに調理を始めるヴィルマ。その姿を見て、小さく口角を上げるアウロ。しばらくアウロはそうして料理ができるのを待っていた。しかしそこに、店の客たちが殺到する。
「アウロ様。いつも腰の薬を分けていただき、ありがとうございます」
「なに構わんさね。こっちだって、いつも採れたての野菜を分けてもらってるんだ」
「アウロ様。いつぞやは息子に治癒の魔法までかけていただいて。……おかげであの子も無事成人することができました」
「そうかい。あのこましゃくれも、とうとう成人したのかい。苦労した分、これからはあんたが甘えてやりな」
「ア、アウロ様。例の薬なんですがね、あの最近どうも効きが薄くなってきたようでして……」
「そりゃ年なんだから、ある程度は仕方ないんだよ。あきらめな。むしろあんたは少し落ち着かなきゃいかんよ。いくら嫁がかわいいからってねい」
次々に日々の礼を募る者たち、アウロはその一人一人に時に笑い、時に優しく、時に厳しく話しかける。そうしていくばくかの時が過ぎた。あれだけいた客たちはいつの間にか全員いなくなっている。アウロのお言葉を聞き、まるで飛び出すようにして仕事に戻るもの、涙を流さんばかりに平伏し、家路につくもの。
そのすべてにアウロは声をかけ、ヴィルマが料理を持ってくる頃には、店に入る前以上に疲れ切っていた。
「かぁ~~~、ここにくるとワシはおちおち休むこともできないねい」
カウンターに突っ伏し、愚痴をこぼすアウロにヴィルマがそっと器を置く。その顔は苦笑しつつも、仕事を終えたものを癒す、優しさにあふれていた。
「アウロさんは『アウロ様』、ですからね。仕方ないですよ」
メニューの主役は香ばしく焼かれた魚。その上には野菜を細かくしたものが、ポンと自己主張しすぎないように、しかし主役を引き立たせるように置かれている。パリッパリの皮と一緒に口に入れれば、さぞ繊細な味が楽しめるだろう。
アウロはそれを箸と呼ばれる、2本の棒っきれを使い、まるで魔法の様にきれいに平らげていく。傍らにはいつの間にか酒が注がれている。まるで水の様に透き通り、しかし芳醇な香りを楽しめるそれを、アウロは好んで飲んでいた。
「やれやれ、この村じゃあんただけだよ。私をそう呼ぶのは。……ありがたい話だ、私の代わりに拝まれちゃくれないかい?」
「ふふふ、嫌ですよ。私は良い男に囲まれてるのが、一番なんですから」
「くっくっく……、そうかいそいつは羨ましいねい」
まるで久しぶりに会った、親友と話すように、二人はゆったりと流れる時間を楽しんだ。器は既に空になっている。ヴィルマがそれに新たに酒を注ごうとすると、アウロは片目を閉じ、まるで今気が付いたとばかりに店の奥を見やる。
「ところで……」
アウロが何を言いたいのか既に察しているヴィルマは、苦笑し、アウロと同じように……2人を見る。
「あの二人はいつまで、ああしてるつもりだい? 私が来てからずっとだろう?」
……シンバとウィキ。未だに二人の世界から帰らぬ子供たちを、どうしたものかと思案する大人たち。
「ふふふ、いいじゃないですか。あの子たちを肴に、どうぞ一杯」
「……いやはや、こんな胸焼けしそうな肴はじめてだよ」
ウィキがアウロに気が付き、声にならぬ叫びをあげるのは、もう少し後。
ぼちぼち話を動かしたいんですけど……難しいなぁ
ちょっとグダグダ気味なので、無理やり進めよう。