序 いつきひめ
「宮江の一族の一の姫君は、一族と総領を護る力を氏神様から授かるんだって」
その日。
待ち合わせた氏神様の御神木の下で、同い年の従妹が来るなり突然難しい事を言い出した。
「……何、それ」
「堀之内のばば様が教えてくれたの。今聞いてきたばっかり」
「ふうん?」
「それでね、よっちゃん」
従妹は妙に真面目な顔をして、続けた。
「昔だったら、一族を守る『斎姫』として、ここで氏神様にお仕えしていたんだって」
「いつきひめ?」
聞き慣れないその言葉はでも、いつかどこかで聞いたような、不思議な響きを持っていた。
「それって、偉いのか?」
「そりゃ、偉いよお?宮江の一族の護り神だよ?本家の総領より偉いよ」
そこでひと息おくと、従妹は、
「だからよっちゃんより偉いんだよ、だ」
ふん、と胸をそらした。
「何だよそれ!ふざけた事言うなよ!」
思わず声が荒くなる。
だって俺は、『本家の総領息子』だから。大きくなったらそれこそ『総領』になるんだから。
なのに何で分家のこいつにそんな偉そうな事を言われなくちゃならないんだ。
「何怒ってんのよ?」
「ふつう、怒るぞ!だいたい何でおまえがそこでいばるんだっ!」
わかっているのか、いないのか、
「怒んないでよ?……だからぁ、弓佳が、よっちゃん護ってあげるんだから」
いきなり訳の解らない事を、従妹は言った。
「ゆんちゃんが?」
「うん」
「俺を護るって?」
「そ」
「何で?」
「だって今は弓佳が、宮江の一の姫だもん!」
丸い顔をぱっと輝かせて誇らしげにそう言い切った彼女の、その言葉も表情も。
今でも、鮮やかに思いだせる。
四年たった、今でも。