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DESION:2 胸騒ぎ

!ビリリリリリリリ…♪目覚ましが鳴る。

重そうにまぶたを少し開けて、アラームを止める。当たり前だが、朝は眠い。昨日はいろいろあり過ぎたので、今日は特別眠かった。

知り合いの後輩の死。それを予告した女。

さらにその女がオレの部屋に現れた。

思い出すと頭が痛い。


―昨日の夜―


『お前は誰だ』

『私はkeiと言います』

『そうじゃなくて…』

『はい…』

『何で彼女の事知ってたんだよ』

『……事件の発生時間、彼女が殺された時間が今日の13時17分。

殺した男が、自殺現場で近くの住民に発見され、警察が到着したのが、同日15時35分。

その後マスコミは報道の準備に急ぎ、最速でも夕方のニュースになります。だから私が他で情報を得る事は出来ません。もちろん私はマスコミの人間ではありませんし、もしマスコミの人間でもあなたに話した時間に

その事を知る事は不可能ですからね。』

『自殺した男とあんたがグルだったら?』

『うん、そうですね。私とその男がグルじゃないという証明は難しい。確かにこの出来事だけでは、私の事を信じて貰うのは少し物足りないですね。』

『あんたオレに近づいて一体何を企んでるんだ』

その言葉を聞いて、女の口元が緩んだ。

企む…。あるいはそうかも知れない。今日ケンタに会って、殺人事件を伝え、そしてこれからある目的のために、二人が共にしていく事象は、彼女の計画の内にあるという事。

なぜ彼が特異に暗記力・記憶力に優れてるのか、なんのための能力なのかは(少なくとも彼を対象にして言えば)、彼はこれからイヤと言う程その意味を味わわされる事になる。しかし、彼女をここへ呼んだのは紛れもなく彼なのだ。その事実を彼自身が知らない事も彼女は承知の上だ。

『今日、仕事が終わったら、駅前のLという喫茶店で待ってます。ご存知ですよね。その時全てお話します』


結局分かった事は、その女性の名前(keiだったか?)その名前も本名かどうか…。そして、仕事の合間に、昨日の事件についてもいろいろ調べた。新聞も見直したし、テレビ局にも問い合わせたが、keiの言う通り、昨日の夕方のニュースで初めてその事件を取り上げた。もしかしたら、本当に自殺した男とグルなんじゃ?オレも殺す気じゃ…。

でもオレが殺されるんだ?知り合いだったからか?いや……どうもしっくりこない。やはりLという喫茶店に行くか…。人気のある所だしいざとなれば力で負ける事はない。他にも仲間がいるか?……。ん〜。

このまま行かなくても、向こうから来る確率は低くはない。

keiが来るまで気持ち悪いままだが、しかし来るとも限らないわけだ。

どうする、どうする…。

いや、やはり行ってみよう。少しでも早く今の現状を終わらせて、楽になりたい。

『おい、ケンタ』大きな声がケンタを呼ぶ。

『おやじ、どしたの』

それはケンタの父親だった。使いふるしたつばのあるキャップを被り、黒縁メガネの姿は年季が入っている。来年でもう60歳、腹もだいぶ立派に膨らんできた。背はケンタよりも低く、とにかく声がでかい。

『一丁目通りの文具屋の小林さんがよ、子供をウチに預けてぇっつんだよ。

明日からそいつ来るからよ、頼むぞ』

相変わらず声がでかい。

『頼むぞって何それ』

『お前がいろいろ教えてやってくれ、よろしく。』

『いきなり言うなよそーゆー事。』

『そんじゃ、行って来るでぇ。』

そう言うと、荷台いっぱいに野菜を積ん、仕事用の軽トラに乗って走り去った。どうも怪しいと思った。先週までは、大体店番は親父で、オレが車売り。今週は店番頼むの意味が今、分かった。

くそー、それにしても、眠い。


睡魔と戦いながら、なんとか無事に1日の作業が終わった。考えは最後までまとまらなかったが、結局ケンタは喫茶店に向かっていた。

不安は拭えないが、今歩いている方向が、結果的にケンタの結論になる。

胸騒ぎが消えない。

そしてその胸騒ぎは、やがて現実のものに。これから起こる大きなうねりの中へ、螺旋の中へと、もう既に歩き始めている事に、ケンタはまだ気付いていない。

その大きな大きな数々の出来事に耐えうる精神力が、今のケンタに有ると無いに関わらず、全てはもう、始まっていた。

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