第一話 始まりの出来事
ある日の朝、ジリリリ、ジリリリ、目覚まし時計が鳴り響く。カチッとそれを止めていつもの様に起きる。
ふああっ、と欠伸をしてから、軽くストレッチをする。 数分という短い時間でストレッチを終えると、身支度をする為に、鏡を覗き込んだ。
日本人特有の黒い髪に黒い瞳。肌は普通に白く細身で、腰まである長い髪を頭の真ん中らへんで縛り、制服に着替える。そして学校に向かうために、二階から一階に下りていく。
「おはよう、お母さん」
「おはよう、雪音」
この人は私の母で桃園 雪乃という。私が母の買い物についていくと、よく姉妹だと間違われる。
そして美人だといわれる私の母だが、実は結構曲者だったりする。理由は多々あるが、一番の理由はこれだ。
「たのもーー!」
朝っぱらから家に響く近所迷惑なバカデカい野太い野郎の声、ああ、今日も五月蝿い。
これもいつもの事なので、手早く朝食を平らげる。
そして私は、代々続く桃園道場の住人なのである。しかも、家の道場は県内最強と言われているため、こういうことが毎日のように起こる。いつもはお父さんが対処するのだが、数日前に、
「雪乃、俺はもっと強くなってから帰ってくる。それまで家のことを頼んだぞ。」
「ええ、わかってるわ、行ってらっしゃい。」
こんな感じで母と熱い抱擁を交わし、どこかに旅立っていったのだった。
というわけで、今現在この道場にいるのは、私と母の二人だけということになる。こういうことはたまにあるので慣れている。
おっともう8時か、そろそろ学校に行かなければ…隣りの道場で道場破りを倒しているであろう母に向かって声をかける。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。雪音。」
相手の返り血を浴びている状態で、母はにこやかな笑顔で返事を返してくれた。
今日もいつもの様に仲のいい友達と一緒に登校して普通に授業を受けて友達と別れた後に事件は起きた。
「桃園さん。ちょっといいですか。」
突然自分の名前を呼ばれたので、振り返ると同じクラスだと思う人物。藤原順君がいた。噂では、どこかのヤンキーだか暴走族だったかの強いチームに入って幹部になったとかで、同じクラスの男子があいつマジやべーよとか騒いでいた気がする。
近くの席で騒ぎまくっていたから、あまりの煩さに物凄い殺意がわいてきて相手は素人だというのに思わず殺気を送って、失神させてしまったのを思い出した。
その後いきなり数名の男子が倒れてしまったので、授業が始まるのが少し遅れてしまっていた。でも、同じクラスだということ以外特に関係はなかったと思う。特に親しかったとか、遊んだこともなかったはずだし、むしろ話したこともろくになかったはず……。
「桃園さん、俺と付き合ってください!」
色々考え事をしていたせいか、いきなり相手から告白された。相手は顔を赤らめて物凄く恥ずかしいです。といった状態だ。
さすがに私はこの状態で、どこに付き合えばいいですか?なんて返事を返すほど鈍感というわけではないし、かといって今まで誰かと付き合ったこともない。しかも相手にたいして恋心を抱いているわけでもない。この場合の答えは一つ。断るしかないと思う。
断ろうと相手の顔を見たとき、相手の顔が真っ赤に染まり、半泣きになった瞬間、すごい速さで逃走していた。よほど恥ずかしかったのだろう、告白の返事も聞かずに走り出していったのだから。
そしてその場に残された私は、こんな事を思った。
逃げるくらいなら、何故告白したの?