第三話 決別
第三話投稿します。
「勇者様、この国をお救いください」
俺たちがどこかに飛ばされて最初に発せられた言葉が、自分たちを助けてくれという一方的な要求だった。
この女、俺たちに対して謝りも説明もせず自分の要求をいってくるとはずいぶんとなめたまねしてくれるな。
「えっと、とりあえず君は誰で、ここはどこなのかな?後助けてほしいって、いったいどうゆうことなのか説明してほしいんだけど」
拓真が珍しく二言で返事をせず状況の説明を求めていた、やはり見慣れない場所で頭が混乱しているからだろう。
まぁこれが普通の反応なんだけどこいつの場合、女が助けを求めていたらどんな状況でも俺を無理やり巻き込んで助けようとするから、俺としては周りを観察する時間を稼いでもらえてうれしいけどな。
「失礼いたしました。私はこの場所で神官をしているリーンです。では、まずはこの場所の説明からさせていただきます。この場所は勇者様から見て異世界でございます」
なるほど異世界か、可能性としたらこれが一番高い可能性だったが、まさか本当に異世界にきてしまっていたのか。
この神官をしている女はリーンというらしい。見た感じ頭が悪そうで、自分が中心だと思っている痛い奴みたいだな。
「そして、ここはわがサイレン王国の王城の敷地内にある神殿の召喚の間でございます。ここで私たちはこの国を救ってくれる勇者様を召喚したのです」
召喚といえば聞こえはいいがやっている事はただの拉致・誘拐だな。しかし、こいつの中では勇者=拓真の式が成り立っていて、俺は完全に空気の状態だな、そのほうが観察がしやすいから話を振ってこられるよりかはましかな?
ゆっくりとこの召喚の間とか言う部屋を見渡すといたるところに俺たちが飲み込まれた魔方陣がいろんな場所に書かれていた。
騎士たちは俺たちが妙なまねをしないようにか、警戒心を出していて、いつでも戦闘態勢を整えられるようにしていた。
騎士と女しかいないと思っていたが奥のほうには、メイドが一人控えていた。
この女についているメイドかと思ったが、俺と目があった瞬間すべてを見透かされているような感覚になった、俺は本能でこいつはヤバイと感じた。
よく監察するとこいつはほかの気配丸出しの騎士とは違って、完璧に気配を消していたし、威圧感が半端じゃない。おそらく今の俺じゃこの騎士たちの何人かには勝てても、この女には指一本触れられるどころか、一瞬で殺されるだろう。
「~~~~~というのが私たちの国、サイレン王国なのです」
いつの間にか話が進んでいて、ちょうどこの女のお国自慢が終わったところなんだろう。
「で、俺たちはいったい何をすればいいの?」
たちって、俺を入れるな俺を。
「はい、実はこの世界には魔の生物、魔物がいます。この魔物中に一際強い力を持つものが現れ自らを魔王と名乗り世界に振興してきたのです。すでに他国の領地は侵略魔王領となっておりその地にいた人間はすべて殺されたと聞きます。このままではいずれわが国にも、それだけではなく世界をも支配しようとしているのです」
つまり俺たちにその魔王とやらを倒してくれといった感じか、俺はごめんだけどな。そもそも世界を支配されるというがこの世界を支配しているのはお前ら人間だろう。そして、その支配権が変わる戦争をしているだけだろう。
実際地球にも昔は戦争をしてその地を自分のものにしていたし、こいつらの場合は人間対人間が、人間対魔物になっているだけだろう。
こいつらの目を見れば分かる。こいつらは俺たちを祭り上げて魔王を倒し、その魔王領とやらをすべて自分のものにしようとして、その後は他国の戦争にも勇者を送り込んで世界を自分たちのものにしようといるただの権力欲だ。
「なので勇者様にはわれわれを助けていただきたいのです、引き受けてくださいますでしょうか?」
女は俺じゃなく拓真だけに聞いていた。
「もちろんだよ、人間たちが魔物に殺されているなんて許せないよ」
「ではそちらの従者の方も引き受けてくださいますか?」
おい!お前の目には俺は従者として映っているのかよ。
「もちろんだよな?」
何でこいつは断ると思っていないんだ?
「では王がいる謁見の間に「断る!」え?」
女と拓真が信じられないような表情で俺を見てきた。こいつらの頭は大丈夫か?周りには殺気が出ている騎士とため息をはいている騎士と笑いをこらえているような騎士がいた。
この場にもまともな頭をしている騎士が何人かいたらしい。奥にいるメイドも呆れていた。
しかし、予想外の収穫もあった。おそらくこの国は一枚岩ではない。最低でも三つの派閥はあるだろう。
「理由を聞いてもよろしいですか?」
女は若干怒っているようだ。まぁこいつの性格からして甘やかされて育ったので恐ろしいほど沸点が低いらしい、その所為で自分の要求を拒否されて起こっているのだろう。
「まずひとつに俺にメリットが無い」
メリットが無いのにこんな危険なこと、しかも命の危険まであるのに何の見返りも求めず引き受けるのは馬鹿か、拓真のような偽善者だ。
「っな!?人が死んでいるのにあなたは何にも思わないんですか!」
「思わないな、そもそも俺はこの世界とも何の関係も無い人間だ。テメーラの都合で勝手に誘拐されて、命の危険があるのに魔王を倒して来いって言うのはおかしいだろ」
「召喚は誘拐ではありません!あれはれっきとした由緒正しき儀式です」
俺が正論を言うと顔を真っ赤にさせて俺に怒鳴ってきた。
「俺たちを無理やり連れてきたことには変わりないだろう。お前らにとっては由緒正しき儀式だろうが誘拐の方法が魔法によるものに変わっただけだ」
女はさらに俺に反論しようとするが俺がそれを許すわけない。
「そもそもお前たちは俺たちが魔王を倒しても、元の世界に返す気なんて少しも無いんだろ?」
「っえ?」
その一言で女の顔が青ざめていく。分かっていたが図星だろうな。
「そっそんなことはありません!魔王を倒した暁にはちゃんと元の世界に返します」
女は精一杯の虚勢を張ったがそれは墓穴でしかない。
「なら、俺たちを帰すための魔法があるんだろ?だったら俺は協力しないからさっさと元いた世界に帰してくれよ」
「そっそれは…」
「やはりな、元の世界に帰すことなんてでいないんだろ。お前らは召喚した人間を勇者と祭り上げて金や戦争に勝つための奴隷にするつもりだったんだ」
女は涙目になっていた。その所為で回りにいた騎士の一部は俺に対して剣を抜いているし、拓真は拓真で俺を信じられないような目で見ている。
「空!何でそんなひどいことを言うんだよ。そんなことするわけないじゃないか」
拓真が俺に対して怒鳴ってくるが、俺はそんなことかまわず続ける。
「俺たちを帰す方法があると嘘を言ったのはそいつだ」
「そっそれはそうだけど」
こいつはどこまでも偽善者ぶる気だな、だが俺はそれにいつまでも付き合っているつもりは無い。
「拓真」
「っん?なんだ」
「俺はお前と永遠に絶交する」
「っえ、なんで?」
こいつは本当に何もわかっていなかったんだな。
「気づいていなかったのか?俺がお前の都合に巻き込まれるのを嫌がっていたことに。俺がお前の所為で怪我をすることがいやだったことに本気で気づいていなかったのか?」
「でも、空は俺に付き合ってくれたじゃないか!」
はぁ…本当にこいつは偽善の塊だな。
「付き合っていた?無理やり付き合わせていたの間違えだろう?」
こいつにははっきり言った方がいいかもしれんな。
「はっきり言っておいてやる、俺はお前が大嫌いだ!金輪際俺にかかわるな」
「…そんな」
拓真はひざから崩れ落ちる。ッフン、いい気味だな。
「俺はここを出て行く」
「そんな、どこに行くんだよ!?」
「…さぁな」
俺は出て行こうとすると女が俺をにらんできて。
「あの男を捕らえなさい!勇者様を侮辱し私の願いを断ったことを後悔させてあげます」
そういって俺に突っ込んでくるのはさっきから俺に対して殺気を放っていた騎士だけで、ほかの騎士はただ呆れているだけだった。
騎士の数はこの部屋にいる騎士の数が大体50人くらいでそのうちの10人程度しか俺を襲ってこなかった。
おそらくこいつの人望は俺が思っている以上に少ないんだろう。
しかもこいつらはまったく統率がなってなく、ただ剣を振り上げて攻撃してくるだけなので連携なんてもんは無く一人ひとりが自分勝手に戦っているだけだった。
「おそい!」
そんな攻撃なんてあたるはずも無く。俺は隠し持っていたナイフを出して、近くにいた騎士を蹴り飛ばし、突っ込んできていた騎士の半分以上を転ばせた。
その後、残った騎士に接近して関節をはずす。いくら丈夫な騎士甲冑をまとっていたとしても、関節技を決めてしまえばその防御力は0に近い。
そして転んでいた騎士が態勢を整える前に爆弾を放ってやった。
そして爆弾が爆発して騎士たちが吹っ飛んで壁にぶつかり動かなくなった。死んではいないだろうが当分目は覚まさないだろう。
そしてこの戦闘時間は約3分。十人に対して3分なら一人当たり18秒で倒したことになる。こいつらはそこまで弱ったということだな。戦い慣れしたマフィアやヤクザならもうちょっと持っていただろう。
そもそも気配からしてこいつらはこの中で一番弱い感じだったからな、倒しても自慢する気は無い。
騎士が倒されたことにより周り呆然としていたので俺はまた絡まれる前にさっさと出口に行こうとした。
「お待ちください」
しかし、奥のほうにいたはずのメイドがいつの間にか俺の後ろにいて出口をふさいでいた。
「どけ、俺はこんな場所にいる気は無い」
「しかし、ここではあなたたちの使っていた硬貨は使えません。なので王に謁見をしてもらいそこから私が必要最低限の物資をもらえるように交渉します。」
ただのメイドにそれほどの権力があるわけないと思うが、確かに一理あるし、こいつは嘘を言っているように見えない、戦っても勝てないと分かっているので無駄に怪我をする気は無い。
ここは、従っておくのが正解だな。
「分かった。その王とやらに謁見しよう。ここを無理やりと売ろうとしても俺じゃあんたに勝てないからな。」
「賢明ですね、あなたのような方は長生きしますよ」
「申し送れました。私はこの城でメイドをさせていただいております。以後お見知りおきを」
「あんたのような女がただのメイドなわけないだろう」
「女には秘密が付き物なんですよ」
そういってメイドは微笑んできた。その顔は美しくあの女と比べるのが失礼なほど綺麗だった。
「メイド!そんな男さっさと城から放り出して野垂れ死んでしまえばいいのよ」
「あら、リーン。あなたはいつから私の決定に反論できるほどえらくなったのかしら?」
「何よ!王に気に入られているからといって、たかがメイドの癖に」
こいつ…自分と相手の実力差が分かってないのか?
「私は別に王に気に入られてはいませんよ?あちらが快く私の頼みを聞いてくれているだけなんです」
……きっと、王を脅したんだろうな。っていうか!王を脅すって本当にこのメイドは何者だ?
「ふっふざけんじゃないわよ!そんなことが…っひぃ………きゅう」
っあ、女がメイドの殺気に当てられて気絶した。
「フム、こんな腐った国にいるのもそろそろ潮時かしら?」
メイドがやれやれといった感じで頬に手を当てている、なんだか怖く感じてしまうな。
「あら、なんかいいました?」
っひ!俺の心が読めるのかこいつは?
「い…いや、言ってない」
「そうですか、では参りましょうか」
「あ…あぁ」
俺の異世界生活は厄介ごとの元凶を取り除いたのに前途多難のようだ。
感想・評価お待ちしています。
本当なら第四話あたりで主人公が城から出る予定なのでしたがもう二、三話城から出れません。
自分の文才のなさを痛感します。
こんな作品ですがこれからもよろしくお願いします