第十三話 ルガの町
第十三話目投稿します。
俺はあの後、女性に連れられて町に向かっていた。
「いい加減に引っ張るのはやめてくれないか?」
その間俺はずっと引っ張られて、こけそうになった回数は100から数えていない。
「へ?ああ、すいません引っ張ったままでしたね。こけませんでしたか?」
「こけてはいないが、こけそうになったのは100回以上だ」
「うう、本当にすみません」
女性は涙目になりながら謝ってきた。大人びた雰囲気から変わって、年不相応なしぐさになりながらも、不思議なことに彼女がやると妙に絵になっていた。
俺は悪くないはずなのに、この状況だと俺が泣かしたみたいだな。もしこれが街中だったら男たちにフルボッコにされていただろう。
「それで、今までスルーしてきたけどあんたは一体誰なんだ?」
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前はフウロといいます。種族は見てのとおりエルフです。戦闘では主に砲台役と回復役をやっています。あなたは?」
言われてみると確かに彼女にはファンタジー物の定番の長い耳が特徴のエルフと一緒だった。
「俺の名前はソラという。武器はこの剣に魔法を少々。戦闘では前衛が主だな」
俺は腰にさした剣を見せながらフウロの自己紹介ように名前のほかに自分の武器と戦闘での役割を入れた。
「それでフウロは俺に何を教えたいんだ?」
「いきなり呼び捨てですか、まぁいいですけど。コホン、あなたがとても危なっかしかったので冒険者のいろは、つまり戦い方や依頼の選び方などを教えようと思います」
魔物に対しての戦い方や依頼の選び方について教えてくれるのはうれしいな。いくらギルドが仲介しているからといって、きな臭い依頼を受けて貧乏くじを引かされる可能性も0じゃなからな。
それに俺も男だ。おっさんに教えてもらうより、きれいな女の人に教えてもらいたいしな。
「それはうれしいのだがなぜ俺なんだ?」
「それはGランクなのに盗賊に対して逆にカツアゲをするようなおバカさんだからです。あなたが強くても数の暴力にはかなわない時だってあります」
確かにあいつらは5人だったから何とかなったけどそれが10人15人だったら俺は殺されていたのかもしれない。それにあいつらに伏兵や援軍がいた場合でも俺は殺されていただろう。
今考えると結構無謀なことをしていたな。
「どうやらさっきの戦闘で思うところがあるみたいですね」
「ああ、もしあいつらの仲間がもっといたりしたら俺は死んでいたのかもしれん」
「自覚できればそれでもう一歩前進ですよ。最近の冒険者は失敗を人の所為にして自分は何の反省もしません。その所為で新人が命を落とすことが増えてきているのです。その分あなたは素直みたいですからね、これから成長していきますよ」
「///それはどうも」
「フフッ」
素っ気なく返したが、今の俺の顔は赤くなっているだろう。もといた世界では幼馴染と比較されるだけでほめられることはなかったから耐性が無い所為で余計に恥ずかしく思えてしまう。
どうやら俺の状態が分かったのかフウロは俺に微笑んできた。
「若いですから無茶をする時だってあると思います。でもそれで命を落としてしまったら元も子もありません。なので私が命は落とさないようにあなたの教師兼ストッパーになります」
「無茶は止めないんだな」
「無茶をしたほうが人は成長しますし、命を守れば何度だってやり直せますので」
彼女の言葉には重みがあった。きっと長い間冒険者をやっていてその中でいろんな人と出会い別れてきたのだろう。
「教えてもらうのは良いが何を見返りに求めるんだ?俺はさっき言ったとおりGランクだから金はねぇぞ」
「いえ、見返りは要りません。これは私の自己満足、もしくはお節介ですから」
「そうか、どうやら俺の基準ではフウロは信用できそうだな」
自分のやることを善とは言わないところが好感が持てる。
「あなたの基準とは何ですか?」
「自分のやることを善といって相手に恩を押し付けるやつは信用できないけど、フウロは自分のやっていることを自己満足、お節介といったからな、だから信用できる」
「あはは、なかなか歪んだ性格していますね」
「安心しろ、自覚している」
そうこういっているうちに町の門の前に着いた。
この町も港町のようにやたらでっかい防壁がありそこに門があった。どこの町もこんな感じなのだろうか。
「どこの町もでかい防壁だな」
「いいえ、それはちょっと違いますよ」
「ん?でも俺が最初に拠点にした港町でもこんな感じだったぞ」
俺は最初にいった町の様子を思い出しながら質問した。
「それは港町は貿易で重要な町だったのと国境が近くにあったこと、この町は山越えをするための補給地点を含めていてさらに魔物がたくさんいることで防壁が普通より高くなっているのです」
「あ~、ていうことは俺が拠点にしていた町は重要だったから防壁が高いだけで他の町はもっと低いというわけか」
「そうですね。村だったら何も無かったり、柵だけだったりするところもあります」
俺たちは町に入るために門番に話しかけた。
門番はやる気がなさそうな青年だった。たぶん人が来なくて暇だったのだろう。
「通りたいんだが」
「っお!今日始めてだ、しかも別嬪さんつき!おっとすまんすまん朝からずっといるのに誰も来なくて暇してたんだ。身分を証明するものは持っているか?」
「ギルドカードでいいか?暇といっていたがこの町はそんなに人の出入りが乏しいのか?おっさん」
俺はギルドカードを相手に見せながらさっき言っていたことに疑問を感じて質問した。
「い~や、いつもなら商人なり、冒険者なりが多いときで十何組も来るときがあるのに今日はまったく人が来ない、噂だとこの道は盗賊がやたら出るらしい。それでみんな警戒して避けてるんだとよ。後坊主おっさんは無いだろ、俺はまだ二十代だ」
「そうなんですか」
フウロがジト目で俺を見てくる。案外根に持つタイプなんだな。
「そっちの坊主も別嬪さんもギルドカードかちょっと待ってな。ところでお嬢さん一緒にお茶でもs「お断りします」言い終わる前に振られた~」
俺とフウロからギルドカードを受け取るとおっさんはナンパをしながらギルドカードに何かをしていた。
「何をやっているんだ?」
「ん~?ああ、坊主はGランクだから知らないのか。これはギルドカードが偽者じゃないか確認しているんだ。昔ランクを偽装したやつがいたらしくてな、それで当時のギルドが特殊な加工を施したらしいぜ。ギルドカードの水晶にに特殊な魔力を当てるとギルドのしるしがうきあがる仕組みらしい」
「だいたいの町だったら入るときはこんな感じですよ」
「へ~」
俺の疑問におっさんは丁寧に教えてくれて、フウロはその説明に補足を入れてくれた。
「二人ともOKだ。ようこそ、ルガの町へ」
おっさんは俺たちにギルドカードを返すと、門を開けてくれた。
「おっと坊主、最後にいっておくことがある」
「なんだ?」
「町の中で亜人を差別するようなことを言うなよ」
おっさんは町に入ろうとする俺を呼び止めて、意味深な事を言い出した。
「別に言うつもりは無いが、言ったらどうなる?」
「町中の人からタコ殴りにされる。一週間前も俺の忠告を聞かずに馬鹿なことをした新人がタコ殴りにされて全治半年の傷を負って入院中だ」
「それは怖いな」
なるほど、それが本当なら素直に従ったほうが身のためだな。万が一入院することになったら金がなくなって死ぬな。
「ああ、町の8割が亜人種だからな。他の町で差別にあって流れてきた亜人種もいるから、差別する人間には敏感なんだ」
「分かった、忠告感謝する」
「じゃあな、お嬢さんの今夜お食事d「嫌です」ちっくしょぉ~」
おっさんはまたナンパして撃沈していた。いい加減懲りろよ。
町の8割が亜人か、だんだんファンタジーぽくなって来たな。
「では宿をとりに行きましょうか。ここには何回か来たことがあるので安くていい宿を知っていますよ」
「安いのはいいんだが人間はお断りとか言われないだろうな」
さっきの話を聞いたら俺がまともに扱われるのか不安になってくる。
「大丈夫ですよ・・・・・・・・・多分」
「おい、本当に大丈夫なんだろうな」
「さぁ、こっちですよ」
「無視すんな」
ふ、不安だ。最悪街中なのに野宿することになるかもしれん。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ここです」
「おお、なかなかいい宿みたいだな」
俺がフウロに連れられてやってきたのは白い外壁が目立つ宿で、清潔感があるいい宿だと思った。
「早く入りますよ~」
俺が宿を見ているとフウロはさっさと先に進んでいた。
俺は急いでフウロの後に続いて宿の中に入っていった。
「こんにちは~」
「っあ!フウロちゃんじゃないか、久しぶりだねぇ」
「お久しぶりですおばさん」
中に入るとフウロとおばさんが仲良く話していた。何回か来たことがあるのは本当らしく、むしろ常連さんみたいな対応だった。
おばさんの頭にはたれ耳がついており、顔もどちらかというと犬みたいでこの人も亜人だろう。
「ジ~~」
「ん?」
俺は視線を感じて振り返るとそこには5歳くらいのおばさんを同じ耳の子供が俺をガン見していた。
「っは!」(ッタタ
「なんだったんだ?」
子供は俺が見ていることに気づくとどこかに走っていってしまった。
「で?今日は泊まりかい?」
「はい、そこにいる彼も一緒に」
どうやら俺が子供を見ているうちに話が進んでいたらしく、フウロが俺を指差していた。
「彼って人間かい?」
「はい、だめでしょうか?」
俺とフウロの顔に不安が表れる。
「いや、フウロちゃんの彼氏なら大丈夫だろう」
おばさんは不安をかき消すように元気な声で爆弾を投下した。
「かかか彼氏なんて、そそそそんなんじゃありません」
「おや、ちがうのかい?今までフウロちゃんが異性と一緒にいることなんて無かったからねぇ、てっきりそういう関係なのかと思っちまったよ」
「ち、違います!彼とはさっきであったばっかりで、危なっかしかったので面倒を見てあげようと思っただけです!」
このおばさんにはたくさんの人が頭が上がらなくなっているだろうと、勝手に予測していると、おばさんがこっちを見て手招きをしているので近づいて来いという意味なのだろうか。とりあえずいって見ると。
「で?どうなんだいあんたは?」
「どういう意味ですか?」
「とぼけんなって、彼女のことどう思っているんだい?」
「お、おばさん!?」
おばさんは小さい声で言っているが確実にフウロにも聞こえる声で俺に聞いてきた。後ろのほうではフウロがあわてている。
「あの子かわいいだろ?さらにあのスタイルだ、男に言い寄られるなんて日常茶飯事何だけどねぇ、今までたとえ新人だからって一緒にいることなんて無かったんだよ。だからそういう関係だと思うのは必然だろ?」
「ま、まぁそうだな」
おばさんってどんな世界でも強いんだな。まったく勝てる気がしねぇ。
「で?あんたはどう思っているんだい」
こりゃ答えるまで放してくれなさそうだな。
「まぁ、間違いなく美人の部類に入るだろうな。何回か見惚れそうになったしな」
「おお!脈アリってやつかい」
「///」
後ろを向くとフウロが耳まで真っ赤にしていた。
「もう、おばさん!」
「ふふ、ほら部屋の鍵だよ」
そういっておばさんは鍵をひとつ渡してきた。
「すまんが、できれば別々の部屋にして欲しいんだが」
俺がおばさんに言うと・・・
「すまんねぇ、今空き部屋が相部屋、しかもダブルしか空いていないんだよ(棒)」
ぜ、絶対うそだ!
「ほら、早く荷物を置いてきな、料金はサービスしといてやるからさぁ」
やばいと思い他の宿にいこうとするが・・・
「他の宿にいっても偶然どの宿もダブルしか空いていないかもしれないよ」
「そ、そんなわけ無いですよ」
「さぁ、どうだろうねぇ」(ニヤニヤ
この人、確信犯だ!
「うぅ、分かりましたよぉ」(シクシク
「あんちゃん、あんちゃん」
「なんだ?」
フウロのあとを追おうとしたところ、またおばさんに呼ばれたので近づくと。
「気をつけなよ、この町のギルドはみんなフウロちゃんのファンでねぇ、暴走するかもしれないからさ」
おばさんの表情からそれがうそでないことが分かる。俺はまた死亡フラグを立てていたらしい。
「そ、そうか。ありがとう」
「どういたしまして」
俺はおばさんに礼を言ってフウロを追いかけた。
読了ありがとうございます。
感想・評価お待ちしています。