低レベルにも程がある
大陸の東部地方に護国と呼ばれる国々がある。護国は連合国家。白、翠、紅、黒、蒼の五つの国から成り立っていて、名前の由来はこの地方を守護していた竜から来ているらしい。
竜ってマジか……。普通に竜って単語が出てくることにたまげたよ。あたしは侍女さんから借りたこの国の成り立ちが書いてある絵本のページをぱらりと捲った。
明日から働くにしても一般常識はある程度知っておかないとな、と思ったあたしは侍女さんにお願いしてこの本を用意してもらった。この国のことが分かるなるべく低レベルな本を貸して欲しいって。その結果がこの絵本。挿絵満載で分かりやすい。というか、竜が出てくる時点ですでに童話を読んでいる気分だ。
次のページには赤くて大きな竜が描かれている。紅竜はこの地に降り立ち、人の姿を模して人と暮らし始めた。それが紅の国の始まり。同様にそれぞれの地に散った竜達も国を造り、今の護国の形になった。
(ふーん。日本昔話に妖怪とか神様が出てくるのと似た様なもんか)
要は竜がこの国の守護をしている想像上の生き物って事なんだろう。神様の骨から最初の人間が出来たとか、イザナギとイザナミが泥を搔き回して国を造ったとか、そういう類の話だ。
(御伽噺じゃなくて現実の歴史が知りたかったんだけどなぁ……)
だけど昨日の暴言を反省したばっかりなので、せっかく用意してもらったものに文句を言う気にはなれない。
(ここは護国の中の紅の国、か)
いくら頭の中をさらってみた所でそんな国聞いた事もないし、地理の時間に習った事もない。
(……地球じゃないんだよな、やっぱり)
解っているけど、分かってない。いや、分かりたくないだけなのかもしれない。
その時、キィと微かな音がして顔を上げる。すると部屋の入口から赤い髪が覗いているのが見えた。しかも大人ではありえない低い位置に。
(子供……?)
声をかけようか迷ったが、あたしは気づいていないフリをして再び目線を絵本に戻す。それに釣られたように子供らしきその人影がもう少し顔を覗かせる。小さな顔にはぱっちりとした大きな目、つんっと上を向いた鼻、そしてぷりっとした可愛らしい唇。将来絶対美女になるであろう事を予感させる女の子だ。今年小三の妹と同い年ぐらいかもしんない。
珍しい人間が居るから警戒してんのかも。その証拠に入口から動く様子がない。その代わりとばかりに熱い視線が注がれているけど。自慢じゃないけどあたし、子供にはモテんだよね。声かけて一緒に遊んでやろうか? そろそろ絵本にも飽きてきたし。
女の子はまだあたしに気づかれていないと思っているんだろう。そろりそろりと近付いてきた。
さて、何して遊んでやろうかな。