紳士な魔法使い。その実態は……
「前国王!!!??」
驚きのあまり上げた叫び声にも怯まず、ほっほっほっと目の前のじーさんが笑った。
昨日、たまたま廊下でぶつかってしまったじーさんにあたしは藁にも縋る思いで泊まる所がないのだと正直に話した。すると、部屋が余っているからと此処まで連れて来てくれたのだ。随分と歩かされたが此処も王城内の建物らしく、じーさんに割り当てられた離宮らしい。
そこの一室で、昨日あったことを全て話し終えると緊張が解けたのか、あたしはいつの間にか眠っていた。気づいたら知らないベッドの上で、起きたら部屋に入ってきた侍女っぽい人に着替えを手伝うと言われた。ガキじゃねーんだからと断ろうと思ったが、用意してくれた服を見てそうも言ってられなくなった。パレオの複雑版みたいなヒラヒラした服の着方が分からなかったからだ。
顔を洗って身支度を整え、案内されたのは昨日とはまた別の部屋。そこにじーさんがいた。ハゲてるんだか坊主にしてるんだか分からないつるつるの頭に、御伽噺に出てくる魔法使いのような長くて立派な白髭。今日も長いローブのような服を着ていて、足元はサンダル。そういや、王城内にしては皆ラフな格好だよな。
そこでじーさんと共に朝メシを食べ、今は食後のお茶までご馳走になっている。そして昨日じーさんの名前を聞いていなかった事を思い出し、尋ねたのだ。
『そう言えば、名前聞いてなかった』
『おお、わしの名前か。わしはレイモンドと言う』
『へぇ。レイモンドさんも此処で働いてんの?』
『そうだの。引退してもやる事は山ほどあるからの』
『引退? 何を?』
『国王』
『…………はい?』
『王の座には今息子が就いておる。わしはその補佐をしておるよ』
はい。ここで冒頭の叫びに戻る。
なんとあたしがぶつかってしまったのは、元国王様だったんだってさ。笑えねぇ〜〜〜!!! もしも 嫌を損ねるような事があれば即刻打ち首とかじゃねぇの、これ!!?
顔を青くして固まっているあたしに、レイモンドさんは更なる追い討ちをかけてきた。
「それと、アカリはしばらくわしの元で預かる事にしたからの」
「え?」
「行く所がないのだろう? 引き受けてもらいたい仕事があるのだよ」
「えぇ?」
「これからお主の所属は西の離宮レイモンドの傍付き、という事になる。衣食住の面倒は此処で見るから心配せんでいいぞ」
「ええぇぇぇぇ!!!」
なんでいつの間にかあたしの処遇が決まってんの!!? あたしは帰りたいって言ったんだよ! 誰が就職先探してると言ったこのジジィ!!